「ローラー・コースター経済恋愛小説」:島田雅彦「悪貨」読了。

先ずはお知らせ。このダイアリーにも度々登場する、友人の資生堂クリエイティヴ・ディレクター高橋歩氏(ダイアリーでは「A氏」で登場)の、「我等が『優ちゃん』」を撮った映像作品「幽玄」が、銀座中央通りの銀座資生堂ビル9F「ワード・ホール」で、今月21日から25日迄公開されます(詳細はコチラ→http://www.shiseido.co.jp/bcl/info/sbm2010.html)。A氏の考える「次世代ビューティー」を表現したデジタル映像と、その優ちゃんの「ジャパネスクな美」を是非ご高覧下さい。筆者はニューヨークを離れられず観れないので、本当ーに残念ですが…(涙)。

さて本題…株価は落ち、円も86円台に突入し、BP社の石油もまた洩れ始めた今日この頃、ニューヨークの紀伊国屋書店には残念ながら置いていなかった(何故だ!:怒)、島田雅彦氏の最新作「悪貨」を、日本から取り寄せて読了した。

この作品は、何しろ「スピード感」溢れる「近未来ローラー・コースター経済恋愛小説」である。そして其処に登場するキャラクター達も、闇の天才投機家、その男と恋をしてしまう美人刑事、投機家を指導したコミューン思想家、天才偽札造り印刷職人とその偽札を見分ける目利き捜査官等、超バラエティーに富むのだ。

話は或る朝、誰かが自分の手元に残した札束を浮浪者が見付ける所から始まり、その札が偽札だった事から話は急展開を見せる。「美人過ぎる刑事」がその偽札シンジケートとその所業を暴く為に、おとり捜査官として潜入するのだが、そこに待っていたのは天才投機家、そして彼女は何とその男と恋に落ちてしまう…。「嘘」と「偽」に彩られた恋と、偽札に因ってハイパー・インフレを起こすと云う「経済テロ」の行方は如何に!

昨今のグローバリズム資本主義経済に拠る、格差拡大に対する著者の不信感や、フィクションを恰もノンフィクションの様に読者に思わせる「小説制作」と云う仕事と共に、皮肉をタップリ込めた意味での「偽」と「虚構」…「彗星の住人」や「彼岸先生」を読んだ者には、よりエンターテイメントとして読めるだろうが、再び「国家的恋愛」と共に「思想的恋愛」と「経済的恋愛」、そして「美人」や「裏切り」に満ちた所等も、著者島田雅彦の本領発揮だろう。

この作品は、島田氏がニューヨークに滞在した2009年から書き始められたとの事だが、実は島田氏とクリスティーズのアジア美術の下見会をご一緒した時に、偶々「次の新作は、どういった話ですか」と聞いた。するとその時、島田氏は「孫一さんの仕事にもちょっと関係ある事だよ、フッフッフ…」と、不気味な含み笑いと共に仰って居た事を思い出したりもしたのだが(笑)、確かに美術品の世界に於ける「贋物」は、「本物」に勝るとも劣らない独特の存在感を持っているし、その「裏・経済波及効果」も確かに存在するのである。

また、この本には嬉しい「オマケ」が付いている。それは「栞」代わりに付いている「零円札」で、これが中々良く出来ているのだが、「福沢」の代わりに「弥勒菩薩」(この理由は知る人ぞ知る、だろう)が印刷され、流石に「透かし」は入っておらず、が所謂「ピン札」感覚で、何と無くもっと集めたくなるのだ(笑)。筆者は、偶々赤瀬川原平が1969年に制作した「零円札」を持っているので、「弥勒零円札」も額装して、この2枚の「零円札」を飾ってみるのも面白いかも知れない。

この小説の「ラスト」も、如何にも島田氏「らしい」終わり方でスカッとするので(しない人も居るかも知れないが:笑)、暑気晴らしに最適な、爽快な一冊であった!