「似て非なる者」。

いや、暑い。先週末も36度、もうやってられない…今週は少し下がるようだが、体調も優れず早く休みたい…後一週間の辛抱である(涙)。

今、この猛暑のニューヨークの映画館は、先週公開されたアンジェリーナ・ジョリー主演のスパイ映画「SALT」と並んで、と云うかそれよりも、ディカプリオの「Inceptioon」一色と云って良い。この映画は来月頭のカタログ校了後に、即観る予定となって居るので内容は詳しく書けないが、要は「夢盗人」が逆に「夢を植え付けに行く」話らしく、物凄いCGが相当話題になっている。

配役は、主演のレオ以外にも中々に良い俳優が出ていて、大好きなマリオン・コティヤールの他、トム・べレンジャー、エレン・ペイジマイケル・ケイン、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット等なのだが、彼らに混じって「渡辺謙」が出ている…もう日本でも公開になっているかも知れないので、詳しく云うまでも無いだろう。

が、実は今日の話題は「Inception」では無く、この「渡辺謙」の方なのである。

ところで皆さんは、芸能人の誰かに似ていると云われた事が有るだろうか?恥ずかしながら筆者は、極稀にこの「謙さん」に似ていると云われる事が有る。100人に会って聞いたら、恐らく95人は「ぐっさん」、しかし5人は「謙さん」と云った所だろうか…(拙ダイアリー「そんなに似てるか?」参照)。

「謙さんに似てる!」と云う人は、大抵の場合は「お世辞」で云ってくれている事位、当然良く判っているのだが、自分でも毎朝洗面所で見る我が顔の、或るアングルや目付き等、似てなくも無いと思う日も有るのだ(異論・反論・オブジェクション、受け付けましょう:笑)。お疑いはご尤もだが、今日は「実話」を基に、それが嘘でないと云う証拠をこれからお話しようと思う。

話は、2007年に遡る。

この年の5月9日の晩には、ニューヨーク・ヒルトン・ホテルに於いて、ニューヨークに本部を持つ「ジャパン・ソサエティ(日本協会)」の創立100周年記念晩餐会が開催された。この「ブラック・タイ・ディナー」にはゲストが総勢1000人、出席者はと云うと、ジャパン・ソサエティ創設者の1人であるロックフェラー家からは上院議員のジョン・D・ロックフェラー3世とディヴィッド・ロックフェラー、基調講演はビル・クリントン、その他歴代駐日大使や豊田章一郎氏等の日米政財界人、アート界からは杉本博司氏や宮本亜門氏、そして「アトラクション」として四代目坂田藤十郎丈の歌舞伎舞踊と、超豪華な顔触れであった。

当時協会会員・ギャラリー・サポーターで有った(今は理由が有って、会員を辞めている。この話は何れ此処で。)筆者と妻も、この晩に限ってはタキシード(昔は紋付袴で出席したりもしたが…)と和服を頑張って着て出掛けたのだが、その「事件」はディナー前の「カクテル・レセプション」で起きた。

ホテルに着いてみると、カクテル・レセプション会場も多くの人で賑わっており、我々もグラスを片手に多くの友人、顔見知りと挨拶したり歓談したり。挨拶の為に、目まぐるしく入れ替わり立ち替わり会う人々に疲れ始めた頃、筆者と恐らく同年代と思われる日本人らしき女性が、ニコッとしては居るが、緊張した面持ちで筆者に近寄ってきた。見た所その方にはお会いした事は無い様だったが、忘れているだけかも知れないので(良くあるのだ、これが…)目礼をすると、彼女がいきなり筆者の目前に立ち、顔を見据えて、こう切り出した。

「大ファンです…映画観てます!」
「はぁ?」
「今ニューヨークにいらっしゃってるんですね!」
「えっと、何方かとお間違えじゃないですか?」
「いえ、あのう『渡辺謙』さんでいらっしゃいますよね?」

妻と顔を見合わせ、「いえ、残念ながら違いますけれど…。」と答えると、「そうですか…?」と未だ不審そうな顔をしている。「私は、クリスティーズと云う会社で、日本美術を担当している、桂屋という者ですが…」と云っても、「本当ですか?」と中々信じて貰えない侭、暫くすると彼女はトボトボと去って行った。

その女性が去り切ると、思わず夫婦で噴出し、「いやぁ、こんな事もあるんだなぁ…眼の悪い人も世の中多いねぇ。」等と大笑いしたのも束の間、今度は当時ジャパン・ソサエティ会長であった米国人M氏が、息子さんらしき男の子を連れて筆者の前にやって来、息子を紹介すると

「How have you been ? And thanks very much for coming, 『Mr. Ken』! I want to introduce my son who is great fan of yours !」

と云うや否や、こちらが「Mr. M, I'm not 『Ken Watanabe』…」と云う暇も与えず、息子を我々の前に置き去りにして行ってしまった。今度も本当に困ったが、この息子さんは大学で日本語を勉強されているらしく、ちょっと話すと誤解だという事を判って貰えたのだが、しかし何が気に入らないかと云うと、この会長とは以前に2−3回有った事が有るにも拘らず、人違いをした事だ…まぁ筆者の「外見」はインパクトが小さいので、仕方ないとは思うが(笑)。

しかし「事件」は此処で終わらず、その後何と「サインして下さい!」と云う女性が、もう1人やって来た(今度も日本人であった)。こうなると、もう偶然なのか、はたまたそれ程自分が「謙さん」と似ていると云う事なのだろうか?と夫婦で考え込んでいたら、ジャパン・ソサエティの「Special Events」の部長をしている、長い友人のY女史がやって来た。

Y女史にこの「事件」を話すと大爆笑の末、「いえね、未だ来てないんだけど、実は『謙さん』、このパーティーに来る事に為ってるのよ。」と仰る…。何だ、そうだったのか!知らぬは我等夫婦だけで、他の人は彼が来ることを知っていたからこそ、「それらしき」筆者を「謙さん」に間違えたのだろう。しかしそれでも「こんなに近くに来て迄、間違えるか?」と疑問は解けず、再び「我等2人はそんなに似てるのだろうか?」との議論の末、Y女史が「それだったら『謙さん』が来たら、紹介するから並んでみたら良いじゃない!」と云って、疾風の様に去って行った。

30分位して、会場がちょっとどよめき、「謙さん」が会場に到着した事が判った。暫くすると、Y女史がご丁寧に「謙さん」ご本人を我々の前まで連れてきてくれ、滔々「本人とそっくりさん」の対面が叶った。

「謙さん」が近付いて来て、お互い鋭い眼光を合わせた時には、彼もちょっと「変な」顔をしたが(もしかしたら「こいつ、似てるなぁ」と思ったのかも知れない:笑)、実際に会って握手した謙さんは、思ったより華奢でスマート、本当にスッキリして格好の良い、筆者とは「似て非なる」男性だったが、我ながら「まぁ、『又従兄弟』位なら通るかも知れない」(笑)と思ったのも事実である。

暫く話をした後、「謙さん」を真ん中に我等3人で記念写真を撮ったのだが、妻は何故か正面のカメラから目線を外し、別のカメラに流し目をくれ、知らない人には如何にも「謙さんの妻」の如く(果歩さん、ごめんなさい!)、カメラに収まっていた…流石元「文学座」である(笑)。

こうして「謙さん」との「そっくり」邂逅は終わり、その後のディナーではフル・コースを平らげお腹をさすっていると、「似て非なる、とはこの事ね」と妻がボソッと呟いた。はい、そうです…どうせ、「似て非なる者」ですから。

次の目標は、「ぐっさん」に会う事である(笑)。