♪夢の中へ、夢の中へ、行ってみたいと思いませんか?♪:「INCEPTION」を観た。

金曜日は休みを取る事にしたので、今週末は3連休。何をしようかと考えた末、先ず木曜日は早めにオフィスを出て、一冊31ドル50セントの「或る本」を購入した…その本とは「1Q84・Book 1」。

今更では有るが、そもそも「風の歌を聴け」以来、全作とは云わないが村上春樹作品を略読んで来ているにも関わらず、春樹作品に未だ首肯し切れずに居る身としては、これだけの部数を売った「モンスター小説」を読まずには、正直批判も出来まいと云う事で、滔々購入したと云う訳だ。

感想の方は「3冊」読んだ後で此処に記そうと思っているが、何はともあれその「Book1」は丸1日で読了してしまい、昨日の土曜日、妻と映画を観終わった後に、6番街に在る紀伊国屋書店を再び訪れて「Book 2」と「3」を購入、税金を入れると全3冊、〆て100ドル超の大枚を叩いた。やはり日本で買えば良かったか…後悔先に立たず、である(笑)。そして今は土曜日の夕方だが、既に「Book 3」に突入している…。

さて今日のダイアリーはその「1Q84」では無く、「Book 2 & 3」を買う前に観た、現在大ヒット中の映画「Inception」。因みにダイアリー・タイトルは陽水の「夢の中へ」より、である。

前評判が異常に良く、多国籍の同僚や友人達からも「スゴイ」との話を聞いていたので、期待と「ホントかぁ?」の複雑な気持ちで観に行ったのだが、正直その「期待」は裏切られなかったと云って良い。

金曜の午後のタイムズ・スクエアに在る映画館は、如何な「Inception」とは云え空いていて、非常に好都合である。最初から渡辺謙が登場し、演技的には「Memoir of Geisha」や「Last Samurai」での演技と余り変わらず、ちょっと一本調子だったが、しかし最も残念だったのは彼の「英語」が良く聞き取れない事であった。日本人が英語の台詞を覚えて、感情を込めて話し演技するのは並大抵の事では無いと思うが、それにしても非常に聞き辛い…謙さんは、発音やイントネーションの訓練を、正直もう少し訓練された方が良いと思う。彼の役者としての「存在感」は、ハリウッド・スター達にも決して引けを取らないのだから、これさえクリア出来れば、と強く感じた。しかし自称「そっくりさん」(拙ダイアリー:「似て非なる者」参照)としては、謙さんの役はこの作品でも「バットマン」的「チョイ役」だと思っていたのだが、準主役として作品の最後まで出ずっぱりだったので、何と無く誇らしく思ったのも事実である(笑)。

この「Inception」の内容は、もうご存知の方も多いと思うので多くを記さないが、所謂「近未来夢泥棒」の話で、ストーリーは単純だが、その構成は複雑である。そして何と云っても見所は、パリの街が折り畳まれたり、無重力での格闘シーン、スーパー・スロー等の驚異的な映像で有るが、そんな事はきっと色々な人が色々な所で触れていると思うので、此処は筆者が観賞後思った「らしい」素晴しき点と、「ブー」な点に就いて記そうと思う。

先ず素晴しき点。 1.大好きなマリオン・コティヤール、演技が旨いのは云う迄も無いが、何しろ相変わらず上品で、圧倒的に美しい。あの陰り有る笑顔、しなやかな体付き、理知的な瞳…もうタマラン…最高である。 2.そしてそのマリオンが、恐るべき演技でアカデミーを取った作品、「La Môme(邦題:エディット・ピアフ−愛の賛歌)」で最後に流れるピアフの名曲、「Non, je ne regrette rien」が夢から醒める時の「合図」として使われている。 3.謙さんの城の様な住居の広間の「襖絵」が、筆者に云わせると、恐らく日本国外に有る日本美術作品で最も素晴しい国宝級作品、そして「桃山絵画」としても最高級品と云っても過言では無い、現在メトロポリタン美術館所蔵、旧パッカード・コレクション中の愛し崇拝して止まない、あの狩野山雪作「老梅図」のパロディで有る事。 4.これも大好きなフランシス・ベーコン、そしてあんまり好きでないが(笑)ドナルド・サルタンらしき作家の作品が、劇中に登場する事。 5.劇中に登場する、オフィスビル等の建築物のセンスが良い。

そして「ブー」な点。 1.上記5で褒めたにも拘らず、「夢」最深部での雪山に聳える「要塞的建築物」が、余りと云えば余りである…「女王陛下の007」か(笑)? 2.「潜在意識ガード」達との戦闘シーン、特にカーチェイス等が長過ぎて冗長である。 3.レオ様、マリオン、トム・べレンジャーやマイケル・ケインエレン・ペイジトム・ハーディー、キリアン・マーフィー等他の俳優達は好きなのだが、ジョセフ・ゴードン=レヴィットだけは、顔も演技も個人的に好きになれない(笑)。 4.後半、余りにも「人間ドラマ」に為り過ぎている。 5.ちょっと長い。

この「『現実』と『夢』の境界線の喪失」と云うテーマは、映画や文学の世界で既に幾度も表現されているし、最近色々なジャンルで見られる「パラレル・ワールド」や「4D世界」的世界観、「時間概念の再構築」等、云ってみればそう新しいモノでは無い。が、「夢」が何層にも紡がれて居る事と、主人公とそのチームが「無意識下でのアイディア泥棒」で有る事、そしてその泥棒が「盗む」では無く「植え付ける」のが任務で在る所(TV版「スパイ大作戦」等では、「意識下」で良くやっていた)を、最新映像技術を以て飽きずに見せる監督の技量は、大したモノである。

そして最後の最後、ディ・カプリオが回したコマが「止まらない」事で、この作品を観た者は、複雑な想いを胸に劇場を後にする…「Basic Instinct」のラストの様に。

中々良く出来た、センス有る作品で有った。