本を糺せば…。

ニューヨークのTVでは、昨日から或る一人の「勇気有る」(?)男の話題で持ち切りである。その男は、格安航空会社「JET BLUE」に勤務する、39歳の客室乗務員スティーヴン。

昨晩のNBCュースに拠ると、話は一昨日の月曜日、スティーヴンを乗せたピッツバーグ発ニューヨーク行きは、無事JFK空港に着陸した。飛行機は未だサテライトに着かず、シートベルト着用サインが点灯していたにも拘らず、或る乗客が立ち上がり頭上の手荷物を下ろし始めた。スティーヴンは、当然注意をしたのだがその乗客は云う事を聞かず、大口論となった。虫の居所が悪かった(かも知れない)スティーヴンは、如何なカスタマーと云えども滔々キレてしまい、アナウンス用マイクを手にすると、「F・ワード」をふんだんに使って以下の様に叫んだらしい。

「To the passenger who called me a m...f...er, f... you! I've been in the business 28 years. I've had it. That's it!」

するとスティーヴンは、機体のドアを開け非常脱出用シューターを作動させると、ビールを両手で掴みそのシューターを颯爽と滑り降りた。そしてその後、彼は悠々と自分の車まで歩き、運転して自宅に帰ったと云う。その夜、スティーヴンは自宅で「迷惑罪」か何かで逮捕されたらしいが、彼はこの2日間で一躍「勤め人」達のヒーローと為った訳だ。

しかし、このスティーヴンの気持ちは「痛い程」良く判る。筆者も、例えば無知な成金クライアントからの理不尽な要求、鑑定や査定に関しての文句、況してや罵倒等されようものなら、成金が大枚を叩いて何処かのインチキ骨董屋から買った、目の前に在る趣味の悪い伊万里の壺を粉々に叩き割ったり、ニセモノ版画をビリビリと破り捨てたりして、クールに捨て台詞を残し、意気揚々と去って行く…あぁ、オークションハウス・スペシャリストの「夢」である!!

さて本題。最近偶々立て続けに眼にしたり耳にした、複数のトピックスがある…ご存知の方も多いかも知れないが、紹介しようと思う(内容に誤りが有ったら、是非御知らせ下さい)。

1.アリゾナ州で、不法入国移民を取り締まる新法案が州議会に提出された。これは、不法移民「らしき」者がいたら、捜査令状無しに職務質問が出来、身分証の提示を求める事が出来る。そして、その時に身分証明を所持していない場合には逮捕拘束が出来る、と云う内容である。しかし、アメリ連邦政府はこの法案を差し止めた。

2.今年インドで10年に1度の「国勢調査」が行われている。この調査は住所、性別、年齢、使用言語、宗教、職業、財産等の多岐の項目に渡るが、今年はその上に「銀行口座」、「コンピューターの有無」(!)そして「カースト」の項目が追加されたそうだ。インドでは「カースト制度」は1950年に廃止されたが、その時依頼下級カーストの援助を目的とする政策が取られている。今回の「カースト」項目追加は、廃止以来60年経った今、その優遇策を見直す目的との事。

3.先日、国連勤務の中東専門家から聞いた話。無知な筆者は、レバノンはてっきりイスラム教国だと思っていたが、実はキリスト教徒が何と40%も居るらしい。この恐らく中東で最も文化度の高い国(国立オペラ座のオープニングには、パヴァロッティを呼んだ程)には、イスラエル建国以来難民となったパレスチナ人が、数多く住んでいる。しかし、こんな文化度の高いレバノンでも、国会ではキリスト教系政党が力を持っている為、パレスチナ人が「就く事の出来ない職業」が70種類以上も有るそうで、仕事も無く祖国にも帰れないパレスチナ人は、彼らを自国民と同様に扱ってくれるシリアやヨルダンに流れて行くそうである。

4.「グラウンド・ゼロ」の跡地近辺に、「イスラム教モスク」の建設計画が有るのだが、地域住民や9・11被害者の遺族達が、その建設に対し猛反対をしている。しかし最近、ブルームバーグ市長及びNY市は、その建設許可を与えた。

5.在日3世で母親が「北朝鮮」籍、父親が「韓国」籍である、北朝鮮のサッカー代表選手の鄭大世が彼の「バックグラウンド」に関しての質問を受けた時の答え。「北朝鮮のイメージが世界的に良くないし、色々な政治的問題が在るのも良く知っている。でも、好きだろうが嫌いだろうが、『母』を変える事は出来ない」。

これ等の話が、自分の中でどう繋がっているのか、巧く説明が出来ないのだが、一点だけ、日本で生まれ育ち、バリバリの神道の家に育ちながらキリスト教の学校に都合18年通い、現在ニューヨークの外国企業で10年以上働く者として思うのは、人間は如何なる人種、宗教、国籍、階級、性別に於いて、差別する事は物理的に不可能だと云う事である…。何故ならば、本を糺せば、全ての人類はアフリカに存在したと思われる「イヴ」に行き着くのだから。そしてこの事は超社会主義的「略」単一民族国家に長く住んでいたりすると、ともすれば忘れがちな事実であろう。

筆者は明日、人種・宗教・国籍・階級・性別の坩堝ニューヨークから「その国」に帰国し、2週間半滞在する予定…「ジャパン・アート・ダイアリー」再開である。