Yoshitomo Nara:"NOBODY'S FOOL"@Asia Society。

しかしニューヨークと云う街は、ファッションと云う意味を含めて、街行く人の着ている物を見ると、本当に色々な人が住んでいるのだなぁ、と思う。

今朝などは、もう「木枯らし」かと思える様なハドソン河からの風が吹きつけ、ウールのインナーの付いた厚手のレインコートでは、もう薄ら寒い…にも関わらず、何とT-Shirt姿や薄手のジャケットを軽く羽織っただけの人々が、何とは無しに歩いているのだ!君達、体温高過ぎだろう(笑)。

さて四方田犬彦著「蒐集行為としての芸術」を読了し(この本には、非常に面白いテーマが有るので、それはまた今度)、磯崎新著「磯崎新の建築・美術をめぐる10の事件簿」に突入した今日この頃、全く関係ないが(笑)、Asia Societyで開催中の、奈良美智の展覧会「Nobody's Fool」に行って来た。

「Asia Society」はどちらかと云うと、中国、インドや東南アジアの文化芸術の紹介が中心で、ギャラリーに於いても日本や韓国のアートの展覧会は、余り多くないと記憶している。そんな中、この奈良美智の展覧会は、現役バリバリの日本人コンテンポラリー・アーティストの「ソロ・ショウ」と有って、誠に画期的な企画なのだ。

このアジア・ソサエティ・ギャラリーの姿勢は、「『あのアーティストの展覧会をやって、何故この人(自分の)展覧会をやらないのだ!」と云う批判が出るから』と云う理由で、現存アーティストの「ソロ・ショウ」はやらない(でも、何故かグループ展はやる)らしいジャパン・ソサエティとは、エライ違いである…。須らくアートに関わる美術館・ギャラリーは、自分達が良いと考えるアーティスト、紹介すべき作品だと思えば、生きて様が死んで様が、誰が何と云っても紹介すべきで有り、こう云う所にジェネラルな意味での「ギャラリー」の差が出るのでは無いだろうか…ガンバレ、ジャパン・ソサエティ

そこでこの「Nobody's Fool」で有るが、何しろ今迄、奈良美智の初期作品や回顧展等、まともに観た事が無い筆者に取っては、正直大変面白い展覧会であった!そして常々奈良美智と云うアーティストは、何処と無く「古典的で、孤高の芸術家」の香りが作品から漂い、それは単に絵画作品に於けるタッチや、美しい背景のグラデーション等の「技術・技法」に関する問題なのかも知れないが、若しかしたらその「画家としての姿勢」からかも知れず、勘太郎妻に「はてな顔」をされながらも、実際以前からこの作家に興味が有ったのも事実なのである。

さてこの展覧会は、通常のアジア・ソサエティのショウとは異なり、会場もかなり気合の入った作り・インスタレーションで満ちている。小屋の様な建物が幾つも並び、其処に入って作品を観たり覗き見したりする「Doors」や「House」、子供達が遊べる広場の様な「素描」空間も在る。しかし観る人に因っては、「良い歳して(作家は1959年生まれ)、『女の子』を書き続けるなんて…キモい!」と云う人も在るに違いない。

が、その作家の「ファンタジー」は特権的に永遠なのであって、嫌ならば会場を出て行けば良いだけであるし、そして「意外」にも、この展覧会に出品された「少女」や「犬」には、純粋に「美しい作品」も多く、この孫一ですら何と無く暖かい気持ちになったので有った。また作家所蔵の「貴重な」レコードジャケット・インスタレーションも有り、多くの画中に登場する「歌詞」等と共に、奈良の制作と「音楽」とが如何に密接な関係に有るか、と云う事を知る事が出来る(因みに作家に取っては、「ザ・ラモーンズ」がNO.1なのだそうだ)。

そして作品だが、先ず目に付くのはアジア・ソサエティの建物に入る前、パーク・アヴェニューの中央分離帯に立ち聳え、思いの外街並みとマッチしている、ファイバーグラス製の巨大な「White Ghost」(2010)である…この作品は、アジア・ソサエティの場所を知らない人に取っては、「目印」にも為って丁度良いだろう(笑)。そして会場に入ると、初期の木彫作品「Flaming Head」(1989)や、絵画作品「Make the Road, Follow the Road」(1990)等が観者を迎える。ちょっと今の作風からは考えられない様な作品だが、それでもその後の奈良作品に共通する「可愛いだけではない、(少)女の持つ危険性」や、「オトナには隠している、ひねくれた子供が持つイジワルさ」等を充分に秘めている。

歌麿等の浮世絵版画のパロディや、信楽で焼くと云うセラミック作品(と云う事は、「信楽焼」か?)、ちょっと「能面」チックなファーバーグラスや、アクリルのスカルプチャーも面白いが、気に入った作品を此処に挙げると、例えば絵画では、煙草を吸うパンク少女の「Too Young to Die」(2001)、そして左目に眼帯絆創膏をした女の子を描いた「No Hopeless」(2007)。これは作家が先ず「右目」を描き、次に「左目」を描こうとしたが、その「右目」が余りに巧く描けてしまった為に侭ならず、仕方なく絆創膏をさせたとの事(笑)…素晴しい逸話では無いか!またインスタレーションでは、3匹の犬が輪を作る「Dogs for Your Childhood」(1999)が可愛らしかった。

そしてこの展覧会では、会場構成も非常に考えられていて、時間の経過と作品を「至近距離」で楽しむ事が出来る。やはり奈良作品は、図録(この展覧会の図録は、非常に美しく素晴しい出来で有るが)やコンピューター画面で見るのとは全く異なり、「この眼」で観てこそ初めて、作品の色使いや構図、ニュアンスやグラデーションの「複雑さ」を目の当たりにし、そしてこの作家の「画家」としての技量に、驚きと尊敬すら感じるのだ!

最後になったが、今回のこの「Nobody's Fool」展では、今回筆者もご教授を賜った、アジア・ソサエティミュージアムの現代美術担当キュレーター、手塚美和子さんが大活躍されたらしい。彼女のこの素晴しい仕事に因って、アジア・ソサエティも今迄とは全く違った層のビジターを獲得し、その名を現代美術の世界にも広く知らしめたに違いない…友人の1人として、手塚さんに大きな拍手を送りたいと思う。

この「NOBODY'S FOOL」は、来年1月2日まで開催。「スーパー・フラット」とは或る意味正反対、そして実見する「絵画」の意外性・奥深さを堪能できるこのショウは、「奈良美智」の真の実力を感じれられる事、間違い無しである。