清朝の末裔。

中国美術オークションの為、蒸し暑くて疲れる香港に来て居る。然しそれでも、「L」の「ミル貝のシャブシャブ・スープ」と「クリスピー・チャーシュー」が相変わらず超美味いので、我慢が出来る(笑)。

さて、オークションで有る。先ずは「アジア20世紀&現代美術」のイヴニング・セール…54点のオファー中13点が売れなかったが、総額4億9266万5000香港ドル(約64億7000万円)を売り上げた。

トップロットは常玉の「鉢植えの菊」で、1800ー2200万香港ドルエスティメイトに対し、4604万香港ドル(約6億円)を記録したが、日本人作家では、奈良美智の「One Foot in the Groove」が904万香港ドル(約1億2000万円)、本作がイヴニング唯一の出品だったのが、少し寂しい。

「アジア20世紀美術」と「アジア現代美術」のデイ・セールは、各々1億8248万香港ドル(約24億円)と1億493万2750ドル(約13億8000万円)を売上げ、部門としては総計7億8007万7750香港ドル(約102億5000万円)を売り上げた。此の分野では、趙無極(ザオ・ウーキー)と曾梵志が相変わらず強い。

そして翌日開催の「中国近代絵画」は5億4876万6500ドル(約71億2400万円)を売り上げ、トップ・ロットはお馴染み張大千の「Lake of Five Pavillions」で、1444万香港ドル(約1億8000万円)。「古書画」の方は、1億9997万4750香港ドル(約26億3000万円)を売り上げ、トップ・ロットはこちらもお馴染み八大山人の「風景」で、4492万香港ドル(約5億8000万円)。

最終日の「器物セール」では、ペアの雍正年製粉彩桃文皿がトップロットで、4604万香港ドル(約6億円)、そして計5つのセールで総額5億4523万1875香港ドル(約71億円)を売り上げたが、エスティメイトの高い作品が上手く売れ無かった事も有り、少々バンピーな結果…「競って買う」のが大好きな中国人は、高いエスティメイトを敬遠して仕舞うのかも知れない。

が、例えば宋時代の定窯作品に代表される様に、高額に為る作品の年代が徐々に上がって来て居て、日本では質の良い唐三彩等も少しずつ高く為って来て居ると聞く…将来的には「漢の時代」が来るのかも知れない。

そんな最中、「清朝最後の王女」愛新覚羅顕蒅さん(95歳)が北京で亡くなった。

清朝親王(第十代)の末娘(第十七王女)だったこの女性は、学習院日本女子大に学び、鐘紡の北京支社に勤務中に終戦を迎えたが、川島芳子の妹で有った為スパイ容疑で捕えられ、強制労働等23年間に渡り監禁される。

然し、獄中から当時最高権力者で有った訒小平に無実の訴えの手紙を書き、其れが切っ掛けと為って、名誉の回復が為されたと云う過去を持つ、不屈の親日派中国人で有った。

だが、これで清朝皇帝の血が途絶えた訳では無く、愛新覚羅溥儀の弟溥傑の次女が日本人と結婚し、5人の子供が居る事を考えると、乾隆帝の家系の末裔が日本に生きている訳で、其処に筆者は強いロマンを感じる。

其れは革命に因って皇籍を追われ一市民と為っただけで無く、監禁迄された清朝末裔の死が、清朝陶磁器・工芸品がこれ程人気に為り、中国人達に因って信じれない高額で競られるオークションの開催中だったからでも無く、傀儡と言われ様が、今不仲に有る日中の架け橋だったラスト・エンペラーの子孫が日本で健在で有ると云う事実に、何と無く胸を撫で下ろすからだ。

清朝で最も人気の有る乾隆帝(愛新覚羅弘暦)の時代、所謂「乾隆年製」の工芸品を買い漁る現代中国人に、清朝末裔の死はどう映ったのだろう…。

そんな想いを抱いて、日本へと戻る。