美術館、茶の湯、そして冒険。

昨日の日曜日は、頑張って早起きして、先ずは来日時恒例の「墓参り」。

12月にしては、かなり暖かかった事も有ったのだろう…紅葉の綺麗な霊園には、珍しく多くの人が見受けられた。

そしてご先祖様へのお参りを済ませた後は、久々に実家へ帰る。此方でも、真っ赤に色付いた庭の紅葉を眺めながら、とろろ汁等のアッサリとした昼食を両親と取り、のんびりと過ごした。やはり実家は、良い所だ(笑)。

さて今日は、来日後酷い風邪で寝込んでしまった数日間と、その後のアジア出張中に読了した本のアレコレを、今日は記しておこうと思う。

先ずはプリツカー賞受賞の建築家、SANAA西沢立衛著「美術館をめぐる対話」(集英社新書)。

21世紀の美術館建築の在り方と、アートと建築のファジーに為りつつある境界等を、ゲストと考察する。

本書に登場する対談相手は、建築界から青木淳妹島和世の両氏、美術館界からは南條史生氏、アーティスト代表はオラファー・エリアソン、そして作家平野啓一郎氏の5人。

対談相手のラインナップを見ても、平野氏以外は何処と無く無難な人選に思え、云ってしまえば「予定調和」的とさえ感じられた。対談内容も、正直イマイチ刺激不足であり、個人的には、よりラディカルな提言を期待していたので、残念であった。

次に、武者小路千家家元後嗣、千宗屋著「茶 利休と今をつなぐ」(新潮選書)。

一言、この本は大変素晴らしい。先ず何しろ本作は、単に「茶の湯」に留まらず、優れた日本文化論になっている。我々の日常生活の中で、非常に現実的に「茶」を捉えた上で、生活の中の「一瞬のハレ」、若しくは「現実生活に於ける、一時の異界」としての茶(例えば、毎朝台所で点てる「朝の一服」をも含む)等も提案する。

そしてこの著作を読むと、著者が千家茶道の家元として、如何に茶と千家の歴史、道具、点前所作、そして「茶の心」を大事にしているかが、素直に読者に伝わって来ると同時に、「茶の湯」とは或る意味「人生そのもの」で有る、と云う事が読み取れるのである。

また、昨今メディアを騒がす幼児虐待やイジメ、引きこもり、極度のコミュニケーション嫌いや内向性の是正にも、この人と対面しての究極の思い遣り文化で有る「茶の湯」は、きっと効力を発揮するに違いないと思う。

もう1点付け加えるならば、橋本麻里氏が担当された本書の「構成」も非常に良く考えられていて、茶道の知識の無い読者にも非常に読み易い筈…「超オススメ」の一冊である!

そして、村上龍著「歌うクジラ」(上下巻:講談社)。
坂本龍一が音楽を担当した電子書籍ヴァージョンも話題になったが、筆者が読んだのは、勿論「紙」の方である。

最近何故か、幾篇かの「近未来SF小説」を読む機会が有ったのだが、この新作も舞台は近未来、しかし本作の根底に流れるテーマは、著者の永遠のテーマとも云えるであろう、「他者との邂逅」である。

物語は、所謂少年の「成長冒険譚」の体裁を取っている。少年の登場人物との様々な出逢いを通して、著者独特の「脱出→旅立ち」論が展開され、正直臭い箇所も有るのだが、「犯罪的春樹文学」とは大いに異なり、「外向き」の希望を持たせる作品となっている。

全く毛色の異なる内容の本であったが、「内向き」「超ナイーブ」「外国嫌い」「高望み」の、日本の若者に今最も必要なモノ、それは「自国の歴史文化の勉強」と「冒険」に違いない、と熟く感じた三冊であった。