「カルビスト」の誕生日。

カタログ作業も、愈々追い込み…そんな中、そして極寒の中、昨晩は友人のジャズ・ピアニストH女史のバースデーを祝う為に集った。因みに今日のダイアリーは、「ニューヨーク・フード・ダイアリー」なので悪しからず…アートに関する話を期待している人と、お腹が空いている人は、今日は読まんで下さい(笑)。

さて昨晩の誕生会のディナー・メンバーは、ジュエリー・デザイナーのN氏、バースデー・ガールのH女史、そして地獄夫婦である。そして場所はトライベッカに程近い、焼肉屋の「T」。この死ぬほど旨い「T」に関しては、以前此処にも記したが(拙ダイアリー:「白隠と焼肉」参照)、昨晩行った時も小さい店内は略外人で満席、人気の程が窺えた。

このH女史と筆者との長い付き合いは結構長く、知己を得て10年を越そうとしている。そもそも、お互い裏千家のY先生宅でのパーティーの常連だったのだが、何しろこのH女史は良く食べ、良く飲む。恐らく彼女は、筆者の人生で出会った「最も食べる女性」の1人で、その食欲は当然H女史のバイタリティ、ピアノやアフリカン・ドラムの演奏にも顕れていて、いつも陽気で元気満点な空気を醸し出しているのだ。そしてこのH女史は、筆者のソウル・メイト為らぬ、所謂「フード・メイト」なのである(笑)。

筆者がいそいそとオフィスを抜け出し、「T」に着いて暫くすると、コンサートに顔を出してから来ると云うN氏以外のメンバーが直ぐに揃い、待ちきれない様子で早速アペタイザーのオーダーを始める。「生レバー」に「湯挽きミノ」、「ユッケ」等を注文したが、それらの料理が来る迄到底待ちきれる訳も無く、「突出し」として出た、非常に旨いソースの掛かった「生キャベツ」とキムチを貪るように食す。

初めは皆、N氏の到着を待って「焼き物」に突入の考えであったが、所謂「虫起し」(腹が減って少し食べてしまうと、「空腹の虫」を起してしまって、より一層腹が減る)をしてしまい、当然この日の主役であるH女史のご決断も有り、N氏を待たずに焼き物のオーダーをする事に。

「取敢えず」のオーダーは、タン塩、カルビ、ハラミを2人前ずつ。そしてそのオーダーの直後にN氏が合流し、我々は「待たずに食べた」自責の念を持たずに済んだ(笑)。注文した肉々は直ぐに運ばれ、先ずは「タン塩」から頂く…ウンマイ!更に間髪を入れず、「カルビ」へと突入…そして「ピアニスト」と「スペシャリスト」の我々は、遂に「カルビスト」と化したのだった(笑)。

あぁ、こんな旨いカルビがニューヨークで食べられるなんて!そしてこの「T」と云う店は、所謂「日本の焼肉屋」なので、その味付けからしても当然「白いご飯」が欲しくなる。と云う事で白飯を注文し、程良く焼いたカルビやハラミを、白飯に乗せて頂く…もう、もう、パラダイスである!

すると、それを観ていたプリンス妻が、筆者の白飯を盗ろうとしたがそれを制し、「欲しけりゃ、自分で頼め!」と突き放すと、それを合図に全員が白飯を注文し、テーブルは「カルビスト・ウォー」の様相を呈してきた(笑)。

しかし、「カルビスト」達の本領発揮は其処からであった。

余りの美味さに言葉も少なくなりがちで有ったが、其処はH女史のバースデー、会話も弾む。そしてその会話の合間に、再び「厚切りサイコロ・タン」や「肩ロース」、野菜等を注文し食べ続ける。が、肉を食べ続けるに連れ白飯も減るのは必然、しかしオトナな我々は白飯の「お替り」を躊躇していたのだが、それはH女史も然り。

肉と白飯を交互に食べるバランスは、駅弁を食べる時の、おかずとご飯の割合を計りながら交互に食べるに等しく難しく、況してや「激ウマ・カルビ」ともなれば、冷静な判断を下し辛いこの状況を、読者の方は容易にお分かりに為るだろう。

悩み抜いた協議の末、結局バースデー・ガールのH女史の同意を得て「白飯」をおかわりし、「中落ちカルビ」を「最後の肉」として注文した。良く焼いた「中落ちカルビ」を、炊き立ての白飯に乗せて食べる幸福…ホッペが落ちるとはこの事、3週間休み無しの疲れも、アッと云う間に何処かへ吹き飛んで行った。

そして至福の「肉時間」の後は、「T」の名物ソフト・クリームで締め…「トッピング全部乗せ」(塩キャラメル・ソース、胡麻、きなこ、白玉等)を頂く。「ダイエットは明日から」等の言葉は、もう我々の辞書には無い…クイーン曰く、「地獄へ道連れ」である。

そしてH女史のバースデーは、当然「T」だけでは終わらずに、相変わらずチェルシーの「B」へと持ち越され、其処でパーカッショニストのミノ・シネル達と食事をしていたダリルと共に、ハッピー・バースデーの大合唱。ロウソクが点された「B」名物の「トルタ・ディ・パルミジャーノ」が運ばれ、「カルビスト」H女史はその灯を一気に吹き消した。

そしてダリルに、その晩食べたカルビの話をしたら、興味深そうに「Is it such good ? I wanna try it, man !」と零れ落ちそうな眼を輝かせて笑っていた…一流ミュージシャンの世界での、新たな「カルビスト」の誕生の予兆かも知れない(笑)。

最後に、何時もならば「B」の後必ず行く筈の、「T」のラーメンを我慢したH女史の意志の強さに敬意を払うと共に、今年の彼女のご健康をお祈りして、此処で一句(H女史と筆者は、珠に「歌」の交換をしているのだ)…

注文の 絶へてしなくは 中々に 肉をも飯も 恨みざらまし     孫一

H女史、お誕生日本当におめでとう御座いました!