ボクの「ファッション・ウィーク」。

金曜日は、今リンカーン・センターで開催されている「New York Fashion Week: Fall 2011」に、或るデザイナーのショウを観に行った。

そのデザイナーとは、Tess Giberson。そもそもこのデザイナーを知ったのは、仲の良い友人でファッション・ジャーナリストのA姫が彼女の友人で、以前「自分のショウで、来場者に日本茶を出したい」と云うテスの相談がA姫を通じて来、筆者が「I」と云う海外でも大規模に日本茶の販売を展開している老舗会社を紹介したのが、テスと彼女の作品との出会いであった。結局その「お茶」の企画は没になったのだが、その時のチェルシーでのショウを観に行き、挨拶をした彼女は非常に薄いナチュラルなメイクで、繊細な感じの細身の、静かな雰囲気が印象的な女性であった。

それ以来テスは、我々に案内を送ってくれていたのだが、今回の彼女のショウ「"Collage" by Tess Giberson, 2011 Fall」が、リンカーン・センターの会場「The Box」で行われるとの案内を貰い、筆者は顧客と、そして妻はお能の友人との食事で前夜かなり遅かったにも関わらず、頑張って早起きをしてピリピリと寒い朝9時の冬空の下、アパートを後にし会場へと急いだのだった。

「The Box」に着いてみると、朝から結構な人の数と熱気で、ちょっと吃驚する。何を隠そう筆者は、かなりの「ファッション音痴」なのだが、実はこう云う場所に来る事自体が初めてで、朝っぱらからのムンとする香水の匂いと、動き回る多くの「如何にも」ファッション業界の出で立ちの人達に、軽い眩暈を覚えたのも事実である。

受付で名前を告げて、レジストレーションを済ませ、パンフレットを貰って入場する。会場前に行ってみると、既に列が出来ていたが、中からは音楽が聞こえて来るので、もうショウは始まっている様だ。黒カーテンを開けて入ると、其処には勝手に想像していた「Runway」は無く、会場の真ん中に作られた簡単なセットをバックに、テスの作品を纏った「16人」のモデル達が立っていた。

黒、白(アイボリー)、グレイのモノトーンを基調とした洋服は、ニットやウール、レザー等の素材を生かし、何ともナチュラルな雰囲気。デザインは極力装飾を取り除いた最低限の物だが、その最低限の中だからこそ映える、美しいカットの作品達。前にも記したが、筆者はファッションの「フ」の字も知らない人間だが、テスに選ばれ、ナチュラルなメイクを施された、細身の本当に「自然な」モデル達も、そして当然彼女達が纏う新作の服たちも、決して気取らない、そして出来るだけ自然で存在しようとする、デザイナー本人の清潔な人間性やその思想の美しさがとても感じられて、このショウが朝から行われたと云う事も、如何にも当然の如く思われたのだった。大事な人に買って着せてあげたいと思わせる、清廉な作品が並んだ素晴らしいショウであった。

そして今回の「ニューヨーク・ファッション・ウィーク」中、筆者にとって最も重要な行事はと云うと、昨日の「年1回」のファッション・ショッピングであった(笑)。

「再び」何を隠そう、筆者は服を買うのが大の苦手、と云うか大嫌いである。筆者に取っては、「服」を始め「モノ」を店やデパートで買うのは、はっきり云って苦痛以外の何物でも無く、まともに一人で行ける店はと云うと「骨董屋」と「本屋」だけなのである。では日頃の服はどうしているかと云うと、これは全て妻が「自分の」趣味嗜好で買ってくるのだ…なので、どうしても花柄や妙にタイトなシャツ等、妻の好む所謂「ゲイ好み」の服を着る事になるのだが、文句も云え無い。

そんな状況の中、筆者が「妻と一緒になら」行って買い物が可能な唯一の洋服屋が、SOHOに存在する…それは、ロンドン・ブランドの「T」である。本当はもう一軒「P」と云うブランド店も有るのだが、精神的安心感からすると、「T」には比べ物にならない。そんな両ブランドの売りはと云えば、どちらもロンドン・デザイナー特有のスリム・カット、花柄等の可愛くも綺麗なデザイン、それと何と云っても「スーツの裏地」や「シャツの襟裏」「ポケット裏地」「タイ裏地」等の、「裏地」のお洒落さに尽きるのだが、忘れて為らないのが、店員全員がブリブリの「ゲイ」達であると云う事なのだ。

さて嘘偽り無く云うが、数年前この「T」に最初に行った時から、筆者はこの店で大人気で、もう会う店員、会う店員皆からウインクされ、筆者に何かと世話を焼いてくれ、そして隣の妻を見付けると、露骨に「ケッ!」と云う顔をするのだ(笑)。そしてスーツの試着等をし始めようものなら、筆者を取り囲み、腕を組んで頬杖を突き、汗をかいて試着し佇む筆者を上から下まで嘗め回して見た末、ニッコリと微笑んで「Humm...You look GORGEOUS!」等と褒めてくれたりする…こんな事も一度経験すると、癖になってしまうのだから、困ったものだ(笑)。

そして今回(今年最初で最後の)の「T」来店時も、何時もの店員達が迎えてくれた。背は低いが、恐ろしく鍛えられた上半身に細いウエスト、四角いおにぎりの様な顔に重そうな耳ピアスを何重にもした、いつもニコニコしたガッチリ系の黒人ゲイ。行く度にそっくりなコメディアンに間違えそうな、しかしセンスの良い中背の黒人ゲイ。背の低い、笑ってしまう程に某美術商に何ともそっくりな、日本人(!)店員、そして今回筆者の相手をしてくれたのは、エクアドル出身のケバいお姉ちゃんで、一時はどうなる事かと思ったが意外に優しくしっかりしていて、親切な娘であった。

が、親切なのは良かったのだが、周りのゲイ男達の目の厳しい事!得意客(と云うか、魅力的な客…勿論、彼らに取ってであるが)を盗られた悔しさと嫉妬が滲み出ていて、それが何故判ったかと云うと、彼女が筆者の側をちょっと外したりする隙に、スルスルと男性ゲイ店員達が寄って来ては、愛想を振りまいたり、肩や背中をちょこっと触って来たりしたからである…ウ〜ム、モテル男は辛い(笑)。

そうこうして、筆者の今年の「ファッション・ウィーク」は、スーツ2着と切り返しのかわいい「ピーコート」を購入し、終了。馴染みの「T」を出る時、ゲイの店員達は、これも馴染みの最高の笑顔と手振りで、筆者と妻を送り出した…一軒しか行くことの出来ない「T」、大事にせねばならない(笑)。