妻の「靖国」体験。

前にも書いたが、筆者は骨董と本を除く、如何なるショッピングも、大・大・大嫌いである。

なので、普段着の「パンツ」として、ジーンズと黒のチノパンをたった1本ずつしか持っていない訳だが、その事実(洗濯をすると、着る物が無くなる)に発狂寸前のメルト妻に、昨日は無理矢理買い物に連れ出された。

行ったのは銀座のGAPとUNIQLO、獲物はジーンズと短パン…さて此処で告白するが、筆者がショッピングの中でも洋服のショッピングが特に嫌いな理由は、所謂「試着」なので有る。

今回も、妻が選んだ最近流行りらしい細身・七分丈のパンツ等、20本近いジーンズや短パンを、取っ替えひっかえ履かされたのだが、何しろデブなので、殆どのパンツが腰回りで入らない。

そして、此れは毎度の事なのだが、「試着室の鏡」に因って、自分が如何に醜く、服が似合わないかを確認させられ、終いには気取った店員に上から下迄眺められた末に、「ケッ!似合わない癖に、若作りしやがって…」と思われるのだ。これはもう、十分拷問では無いか(笑)。

そして試着を繰り返す毎に大汗をかき、心拍数が増え、憔悴し絶望するのだ。あぁ神よ、この苦しむ子羊を助け給え…。

眼が虚ろに為りながら、「愛する夫を、何故こんな目に合わせるのだ?」と妻に当たり散らし、結局短パンと長パンを何とか2本ずつ買って、絶命寸前の体でユニクロを脱出…悪夢のショッピング・タイムは終了した。

その夜は、友人の高橋歩&林綾野さんカップルと、新宿で食事。「クレーの食卓」等の著者である綾野さんは、今月28日の「情熱大陸」に出演との事…チェキッで有る!

さて昨日は「終戦記念日」。

メルト妻が、どうしても終戦記念日靖国神社に行って「右翼」を見てみたい、と云うので、お連れする事にした。

神保町界隈でも朝から街宣車が走り、尖閣諸島原発問題を大声で糾弾していたが、靖国の周りは思った通り、機動隊の装甲車や黒塗りの街宣車で大渋滞。

そして我々は、正面の大鳥居から参道に歩を進めた。
猛暑の下、かなりの数の参拝者で溢れる靖国…しかし、思ったよりも右翼っぽい人が少ない。が、時折見る黒スーツにサングラス、角刈りの怖そうなお兄さん達や、特攻服に身を包み日章旗を掲げる直立不動の若者、軍服にサーベル姿の老人達など、8・15にしか見れない光景を目にする。

混雑と流れ落ちる汗の中、参道を歩きながら、妻は筆者に質問したり、愛国者の演説を聞いたりして、面白そうに辺りを見回していたが、靖国を後にした彼女が一番感心していた事はと云うと、何と「街宣車がカッコ良い」と云う事と、「右翼の人達の『顔』が、一般的な今の日本人と異なり、キリッとしている」と云う事で有った。

確かに、改造されて黒一色に塗られ、白で「愛国同盟」等と書かれたモノトーンな車体は、何処と無く「デコトラ」とは正反対にキッチュで、それが何台もコンボイを組んで走ったり止まっていたりすると、デコトラ琳派」に対する「水墨画」的スタイルを感じ無い事も無い(笑)。

また、裏事情を知っているので諸手を挙げて称賛は出来ないが、靖国で見掛けた特攻服の若者や、黒スーツのオジサン達の顔が、そこいらの街のニート若僧や疲れたリーマンの、ダラッとした意思の無い顔に比べると、凛とし、引き締まって見えると云うのも、何と無く首肯出来る。

成る程女性の眼と云う物は、時に新鮮で、しかも何かを見透す力が有る(時も有る:笑)。

そして今回、メルト妻が「靖国の中心で、愛国を叫ぶ」男達に見た、今の一般的日本人には中々見つけられ無い物、それは「自分の『意見』を持つ事と、誰が何と云おうと、それを恥ずかしがらずに主張する『勇気』」だったのだ。

そして筆者はと云うと、遠ざかる靖国を振り返りながら、カトリック系幼稚園に通っていた頃、シスターに毎朝靖国の前を通る時は、黙礼をする様に云われた事を思い出し、我が国に於いて、正当な愛国心を正当に叫べる日が、果たして本当にやって来るのだろうか…と不安に苛まれたので有った。