スペインへ、「南へ」、そしてニューヨークへ。

日本滞在最終日の昨日は、朝から活動。

先ずはデパートに走り、午後オペラシティでのコンサートに出演する、友人のクラシック・ギタリストの益田正洋君と、これまたニューヨーク時代の友人で美術史家、長崎県美のキュレーター川瀬佑介君への差し入れとして、「たねや」のわらび餅と桜餅を買う。

勿論自分用にも買って帰り、薄茶を点てて頂いた…う〜む、何て美味いのだろう!一服頂くと、早目のお昼を近所の「M」で…ざる蕎麦を食す事に。「江戸っ子は、こうでなくちゃあ、いけねえ」てな具合に、ササッと蕎麦を啜ると、初台のオペラシティ・リサイタル・ホールへと向かった。

300人弱の観客で満員だった益田君+川瀬君のコンサートは、「スペイン!ギターと絵画の交わるところ」と題され、益田君はスペインの作曲家の曲を演奏、川瀬君は専門のスペイン絵画をスクリーンに映して解説…時代性や風俗等を通して、スペインの音楽と美術を堪能した、素晴らしいコンサートであった。

公演後は、義姉と打ち上げに参加し、両君と旧交を暖める。すると益田君からのご指名で、何と乾杯の音頭を取る羽目に…まあ、彼らを出会わせたのが他ならぬ筆者だったので、仕方無くやらせて頂きました。しかし、自分が紹介した友人同士が仲良く為るのは、嬉しいモノである。

義姉と別れ、初台を後にすると、今度は池袋へ。今回日本での「オオトリ」イヴェント、東京芸術劇場での野田演劇、蒼井優妻夫木聡主演の「南へ」を観る為だ!

「南へ」での相方は、「『隠れ』優ちゃんファン」で、優ちゃんを撮影した事の有る、某化粧品会社クリエイティブ・ディレクターのA氏。会場に着くと、思った通りの満員だったが、流石魔法の様にチケットを用意してくれたN氏、非常に良い席で有った。

そして、大きな音と共に「南へ」が突如開幕。

舞台は、富士山と思われる火山の観測所、場面と時間軸は嵐の様に目まぐるしく転換され、出番の無い役者も舞台の裾に設えられた椅子に座り、舞台を見つめると云う演出。優ちゃんと妻夫木は「嘘吐き」の役、その他の脇は渡辺いっけい藤木孝銀粉蝶や高田聖子が固め、勿論野田自身も重要な役回りで出演しているが、1つ驚いたのは、歌舞伎小鼓の家元、田中傳左衛門が作調と演奏監修をしていた事だ。

さてストーリーだが、詳しい内容は割愛する事にして、要はこの舞台は「日本人のアイデンティティー」を問うと云う芝居で、天皇家の血統・由来やファシズムへの疑義、そしてそれに代表される「日本的まやかし」をテーマとしている。タイトルの「南へ」とは、つまりは我が国の「象徴」が「北から来た」と云う事なのだが、世が世なら不敬罪で一発逮捕、若しくは「バンッと一発」、のノリであろう(笑)。

しかし、そういう思想的な正否や是非はさて置いても、残念ながら筆者は、このテーマ自体に全く新しさを感じなかったばかりか、どちらかと云うと「耳タコ」でちょっとウンザリ…またそのアプローチの仕方も80年代的で、古臭く感じてしまった。また、かなり回りくどい演出だったので、一体どれ位の観客が(特に若い人達)、このテーマを理解出来ただろうかとの、疑問も有る…しかし、この野田秀樹と云う人は、何としつこい人なのだろうか!

が、救いは、贔屓目抜きで見ても、其処はやはり優ちゃんで、少し心配していた「毬栗頭」も凄く似合って可愛く、演技も「女優魂」全開であった!そして途中で話の筋が見えて、執拗な演出に飽きてしまった後は、優ちゃんを眼で追い続けてばかりいた事を、此処に告白する(笑)…そして誰が何と云っても、将来彼女は、必ず日本女優の「顔」に為るだろう事を、此処に断言する。

閉幕後はA氏と歌舞伎町に赴き、大好きな中華「G」で(拙ダイアリー:「『此処は何処?』な忘年会」参照)、ディナー。行ってみると、店の外に広がる土曜の夜の歌舞伎町の喧騒とは別世界、客はたった一組しか居らず、相変わらず「何で?」と思う程空いている事と、ママさんの元気そうな顔とに、妙に安心する。
さっき観た舞台や、優ちゃんの特筆すべき女優的才能、A氏が朝観てきたと云う金沢文庫の運慶展に就いて等を話しながら、注文した定番料理の「牛肉とジャガイモの煮込み」や「豆苗炒め」、「韮卵チヂミ」と「長葱と豚ガツの辛味炒め」を頂いたが、何れも相変わらずメチャクチャ旨かった!しかしこの「G」、アジアンな優ちゃんは、絶対好きになるに違いない…いつか、きっと(笑)。

日本滞在「最後の晩餐」が歌舞伎町の中華か…と思いつつも、A氏と再会を約して別れたその帰り、パッキングしなければ為らないのを知りながらも、暫しの別れを告げに「B」に立ち寄ると、建築家O兄弟等が居て、ジンジャエールを一杯飲んでしまった。

目まぐるしくも、大満足だった昨日の日本最終日。

そして、後1時間で機上の人と為り、12時間半掛けてニューヨークに戻ると、愈々本番、下見会とオークションである。