時差ボケと豚と牛。

昨日は「灰の水曜日」。ニューヨークの街を行く人の額には、時折灰で描かれた「十字架」が見えた。

最近モスリムに対する弾圧的な動き(とその反対運動)がある中、しかしそれでもニューヨークと云う街は、よくもこれだけの宗教・人種が混在しているのに治安が保たれている物だと、こう云う時に強く思う。そしてそんな中、神道系日本人ニューヨーカーな筆者はと云うと、下見会は来週末からだと云うのに、南蛮屏風等を観る為に来社した数々のアメリカの国内の美術館キュレーターや修復家、著名コレクター等に、「時差ボケ」を抱えながら応対し続ける…いやはや、何とも忙しくなってきた!

さて、その「時差ボケ」である。今回は日本から日曜日に戻り、早速翌日から仕事だったのだが、しかし実は今回の日本出張は、この何時もの酷い時差ボケを矯正する、非常に良い機会で有ったのだ…(涙)。

それは、「China Institute」での「New Year Gala」ディナーに出席した時の事(拙ダイアリー:「『Year of Rabbit』@Cipriani」参照)である。同じテーブルに、1人の中国系の男性が座って居たのだが、その男性は話してみると全く気取った所が無く、何とも気さくで本当に良い人であった。話をしている内に、このCと云う男性がハーヴァード・メディカル・センター勤務の研究者兼医師である事が判明した。聞くとCの専門は「睡眠」で、筆者が旅の多い仕事で、日頃時差ボケに悩んでいる事を告げると、親切にも「時差ボケ防止マニュアル」をメールで送ってくれると云う。

そして筆者が旅程を送ると、翌日Cからメールが来て、インストラクションと色付きのチャートが一緒に送られて来たのだが、それに見ると、ニューヨークと日本での、出発と到着の前後2日間の過し方が「時間別チャート」に色付きで記されており、例えば「この時間帯は、なるべく陽の光を浴びる様に」「この日の夜のこの時間帯は、煌煌と照らしたライトの下に居る様に」「この日の昼の時間帯は、外に出てもサングラスをする様に」等のインストラクションが示され、カフェインの摂取制限や、メラトニンの処方も記されていたのであった。

これはスゴイ!これなら、長年の悩み「時差ボケ」が解消されるかも知れない!と意気込んだのも束の間、こんなストリクトなスケジュールがこなせる訳が無い、と半ば諦めモードになったのが、運の尽き。「こんなの、実はハーヴァードの人体実験じゃないのか!」「客飯も出来ないじゃないか!」等と、色々と云い訳を付けては、Cの云う事を「何一つ」実行しなかったのである…当に因果応報。

そうして、ニューヨークに戻って来た夜は「地獄茶会」、そして月曜は友人のC&Rのカップルに誘われて「サックリング・ピッグ」を食べに、チェルシーの南米料理店「N」へ。この「N」、がらんとした店内で少々心配だったが、この店の「豚」は、マドリッドで食べた「コチニーリョ・アサード」と呼ばれる、今迄の人生で食べた最高に美味い「豚の丸焼」を髣髴とさせる程の味で、大満足。到底全部は食べきれず、残りを家に持ち帰ったのだが、帰宅後30分経つと再び夫婦でその持ち帰りを食べ始め、食欲の恥辱に塗れた(笑)。

そして昨日の晩は、焼肉仲間の年配の友人S氏のお誘いで、「豚」に続いて今度は「牛」と云う事になり、ブルックリンの老舗ステーキ・ハウス「P」へ。昨日のメンバーはS氏の他、若手目利き古美術商のKY氏とYHさんのカップル、現在来米中の陶芸家のSTさん、そして我等地獄夫婦である。

さてさて、「P」に来たのは、もう何年振りだろうか!そこで相変わらずの超満員も「P」、その「待ち時間」に感じた、前回来た時と最も異なる点は、何と云っても中国人の客が非常に増えていた事で、こう云う所でも「世界経済」が端的に判るのが、ニューヨークの面白い所である。「P」は場所的にも行き辛く、支払いはキャッシュ・オンリー、未だに店員に金を握らすと、順番や車の止め場所に便宜を図ってくれたりする古式豊かなレストランで、男客の比率が異常に高い。今回も、隣の席の男だけ8人の団体等は大声でしている会話の中に、3言に1言は「Fワード」が聴こえる勢いである…全くアメリカ人ってヤツは…(笑)。

待たされて腹も減り、早速注文をする。「トマトとオニオンのサラダ」を二人前、「ハッシュド・ポテト」を一人前、「ポーター・ステーキ」の「Stake for Two」を二人前、そして「リブ・ステーキ」を一人前…6人で、その内女性2人ならば充分であろう(笑)。そして肉が来ると、皆ガツガツと社交など何処吹く風、で無言で食べる、食べる。しかし、アメリカの旨い肉は、日本程サシも脂っこくも無く、肉の味がして大変美味しい…年のせいも有るかも知れないが(笑)。そして流石S氏、「醤油」を持参して来て頂いたので、「P」自慢のラディッシュ・ソースも旨いが、醤油を掛けて和風でも頂く…ウンマイ!!

食べ捲くったディナーは11時頃には終了、残った肉は当然「お持ち帰り」をしたのだが、S氏の運転で帰るすがら、陶芸家ST氏とKY氏を49丁目の某所「U」で降ろし、その後は自宅迄送って頂いて、ステーキと共に無事帰宅。

そして今晩の「宮殿ディナー」は、当然「ステーキ丼」に決定…アツアツのご飯に残ったステーキを乗せ、山葵と醤油を掛けて頂く…想像するだに涎が出る!

今日の様な、雨で鬱陶しい日は、再び食欲の恥辱に塗れるのが宜しい…早く帰ろうっと(笑)!