"ONIMASAーA Japanese Godfather"を観た。

何だかんだでバタバタしている内に、明日から日本ー香港ー日本の長期出張。

震災後初の帰国だけに、不安が無いでも無いが、こればかりは仕方が無い。3月のセールが成功した事を「売り文句」に、良い作品を集めるだけである。聞く所に拠ると、4月の美術倶楽部の大会には、何と屏風が一点も出品されなかったとの事で、確かに震災後数週間だったので運送の都合も有ったと思うが、日本のマーケットがかなり停滞しているのも当然の事だろうから、オークションのチャンスは有る…頑張らねば!

さて、先日友人の中国系アメリカ人のCからパッケージが届いた。

開けて見るとDVDが一枚入っていて、タイトルは「Onimasa」…以前Cと、その旦那さんで大ヒット番組「Law & Order」のプロデューサーのRが云っていた「日本のゴッド・ファーザー」映画とは、この作品の事だったのだ。

しかし、どうも「Onimasa」と云う名前に聞き覚えが有ったので良くジャケットを見ると、其処には仲代達矢と美しき故夏目雅子の姿が…そう、この「Onimasa」とは、宮尾登美子原作、五社英雄監督作品の「鬼龍院花子の生涯」の英語タイトルだったので有る!

普段、外国映画の変な邦題を見慣れている身としては、この逆バージョンには恐れ入った…何と云っても「Japanese Godfather」なのだから(笑)。そこで、久々に1982年度制作のこの映画を観てみると、仲代の過剰な演技や女優陣(岩下志麻中村晃子新藤恵美、佳那晃子、夏木マリ等)のお色気、ヤクザ映画には欠かせない個性派男優達(梅宮辰夫、成田三樹夫室田日出男)、夏目雅子演ずる「松恵」の少女時代を演じる、若き(そして懐かしの)仙道敦子ハンダースの「アゴ&キンゾー」や若くて吃驚の役所広司等、「そうだったのか」的キャストも楽しめるが、見所は云う迄も無く「夏目雅子」である。

何しろこの女優は美しい…しかし、こんなに美しい女優がこの作品の3年後に他界する等、一体誰が想像しただろうか!

先日亡くなった田中好子さんの葬儀での、夫で有り夏目の兄でも有る小達氏の「私は妻も妹も癌で無くした…癌が本当に憎い」と云う会見は、皆の涙を誘わずには居られなかった。そして、この夏目雅子と云う女優は、27年と云う短い生涯にも関わらず、「世紀の日本女優」と云う様な存在感を残し得たのは、偏にその女優としての或る種の決死さ(東京女学館出身の「お嬢さん」で有ったのに、ヌードも厭わず)故に、演出家に可愛がられた事に尽きるだろう。

そしてこの映画で夏目が見せる、夫の遺灰を貰いに夫の実家に行き、邪険にされ追い返させられそうに為る時に放つ、公開時大流行語にも為った「土佐弁」の名台詞「なめたら、なめたらいかんぜよ!」のシーンは、今回再び観ても、彼女の女優としての「代名詞」と云っても良い程に、鬼気迫る素晴らしい演技であったのだった!

夏目雅子と云う女優に、今でも「理想の女性像」を見る男性は、筆者の周りに非常に多い…その理由は、そのお嬢様的美貌や可愛らしい笑顔に当然有るのだろうが、彼女が短い生涯を「女優」として「決死の覚悟」で駆け抜けた事実が、男達のみならず女性に迄も感動を与えているに違いないと、在り来たりでは有るが再確認した作品であった。

そして最後に、日本美術を生業としている者として記しておきたいのが、この作品中の後半、鬼政の娘花子が夏祭りの最中に敵対する一家に誘拐されるのだが、その夏祭りの夜店に配置されている提灯や看板絵が、「絵金」なのである。

ご存知無い方も多いと思うが、「絵金」とは「絵師金蔵」の略称で、元々狩野派を学び、土佐に帰って芝居絵の二枚折屏風や提灯絵を描いた、幕末の絵師の事である。画風は所謂「血みどろ」絵で、芳年暁斎、上方絵の系譜に位置付けられる、特異な絵師なのだ。

本作での「祭り」はどこの神社での物か確かで無いが、今でも7月の第3週目末に開催されている「絵金祭り」では、軒先に絵金の屏風絵等を飾り、一種独特の雰囲気を醸し出すと云う…この映画で、花子が家を抜け出し、この「絵金」を背景に祭りを彷徨う姿は何ともデカダンで、その後娘の奪還に赴く、白地に般若の着物を血塗れにした鬼政の姿を、予言しているかの様で有った。

最近の暁斎蕭白芳年、狩野一信等の人気を見ていると、若しかすると次はこの「絵金」辺りが、展覧会で脚光を浴びるかも知れない…楽しみである。

18日からは、久々の「ジャパン・アート・ダイアリー」となる…どんなアートに巡り合うか、こうご期待!