競る力。

数日前に香港に来た。

筆者に取って「香港」と云えば、何はともあれ「食」なのだが(笑)、今回の出張はその「食」や何時ものセールのアテンド以上に重要な「任務」が有って、それはクリスティーズが初めて「日本美術品」を香港での下見会で展示すると云う、「MI5」並みの任務で有る。

しかもその「作品」とは、最近中国人が買い始めた明治期の金工品や銀製品、はたまた金屏風等では無く、シリアスな鎌倉期の「木造彩色如意輪観音坐像」なのだった。

この「如意輪観音像」は、来年3月にニューヨークで開催されるアジアの宗教美術の逸品をフィーチャーした特別セール、「The Sublime and the Beautiful: Asian Masterpieces of Devotion」に出品される予定で、胎内からは嘉元2(1304)年の年記入りの願文や経文、印仏や摺仏、舎利迄が出て来た、美しくも重要な逸品だ。

最近、日本の仏像を買う中国人が増えて来た事から、今回の展示を思い立ったのだが、1人でも多くの中国の人に、日本の仏像の素晴らしさを観て頂きたい…そして序でにガンガン、ビッドして貰いたい!(笑)

そんな中、セールの方は相変わらずの絶好調で、先ず23日の夜開催された「Asian 20th Century & Contemporary Art: Evening sale」は、9億3497万5000香港ドル(約122億円)を売り上げ、クリスティーズ香港での最高セールスを記録した!

トップロットは曾梵志の「協和醫院系列之三」で、1億1324万香港ドル(約14億7800万円)、日本人作家では奈良美智のパネル作品「無題(Merry X'mas)」が、380万−480万香港ドルエスティメイトに対して628万香港ドル(約8200万円)で最高額だったが、個人的には会田誠の「Space Knife」が87万5000香港ドル(約1142万円)で売れたのが、何と無く嬉しい。

スパークしたこの「Asian 20th Century & Contemporary」カテゴリーだが、その翌日開催されたの3つのデイ・セールを合わせると、カテゴリー4セールスは都合12億7975万7500香港ドル(約167億1300万円)を売り上げ、その健在ぶりを見せ付けた。

そして昨日開催の「中国古書画」セールは、1億5061万5000香港ドル(約19億7500万円)を売り上げ、トップロットは清朝の画家董邦達の「石梁瀑布」(紙本著色)で、100万ー150万香港ドルエスティメイトに対し、売却額は3260万香港ドル(約4億2700万円)…何と下値の32倍迄上がった!

また、25点の古書画の個人コレクション「蘇竹庵コレクション」は、4171万8750香港ドル(約5億4700万円)を売り上げ、トップロットは清朝の書家傳山の草書七言絶句詩で、1204万香港ドル(約1億5800万円)…これもエスティメイトは150ー200万香港ドルだったから、此方の落札価格も下値の10倍近くに為った。

さて、落札額が予想価格の「10倍、20倍」に為ったと聞くと、驚く向きも有るだろうが、そもそも中国人は「競る」のが大好きで、オークションで誰かを捩じ伏せて自分が買う事を、最も喜ぶ。そしてオークション・ハウスはその心理を逆利用し、コンサヴァティヴなエスティメイトを付け、お値打ち感で買う気を唆らせて競らせるので、落札額が10倍20倍に為る事も良く有る事なのだ。

そして、国内外に於けるこの競争心こそが今の中国の国力の基礎と為って居る訳だが、運動会で子供に「お手手繋いで、皆で仲良くゴールイン」させて居る様な何処かの国には、到底真似出来ないだろう…。

世の中に出れば、至る所、凡ゆる局面で勝負をして勝たねばならない。が、勝ち負けだけが「全て」では無い。そう云う教育が何故出来ないのか?

日本では、大学入試にも「人格」とか訳の分からん事を云い出して居る様だが、「日本に於ける『日本人同士の真の競争』が復活するのは、一体何時の日に為るのだろう?」…と、熟く「競る力」の強さと有無を、改めて見せ付けられた香港でのセールで有った。