歴史とは「現代の連鎖」で有る。

日本での仕事も佳境を迎え、ラスト・スパート。

が、金曜日の午後は、仕事の合間を縫って知り合いの著名写真家のステュディオを訪ね、新作を拝見した。
写真家の新作は、或る自然豊かな島の木々を撮影した連作だったが、作品からその草いきれの匂いや、鳥の声、動物が踏み締める腐葉土の音迄もが聞こえて来る様で、驚いた事に、作品を観た暗室全体が「森」に為った様だった。

嘗てゴダールは、或る映画を観て「この映画には何も映っていない…何故ならフレームの外に、何も映っていないからだ」と云った。自然世界の一部を切り取る写真や映画のアートとしてのクオリティは、その画面外にどれ位「世界」を想像出来るかに尽きるからで、そう云った意味で、この写真家の新作は本当に素晴らしかった…展覧会・写真集が今から楽しみで有る。

そして昨日は、土曜にも関わらず、朝から仕事。

顧客2人に会い、オフィスで経費精算をした後は、青山スパイラルで開催中の展覧会、「『レントゲン』貳拾周年記念企画展 功術其之貳 手練」へ。

この展覧会は、あるがせいじ、諏訪敦等19名のアーティストの作品で構成されている、「レントゲンヴェルケ」池内務氏渾身の企画で有る。

池内氏にご挨拶し、早速展覧会を拝見。中でも一際素晴らしかったのは、青木克世の「予知夢」で、この作品は展覧会の趣旨でも有る「功術」…日本美術工芸史に見られる、世界史上最高の技術技巧をそのまま具現化した「陶製ドクロ」である…一見をお勧めする。

梅雨独特の空の下、スパイラルを後にすると、今度はサントリー美術館へ。

日本滞在も後数日…観ておきたい展覧会ばかりなのだが、このサントリー美術館での「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」展こそ、必見と云えるだろう。

仏画や仏教工芸、屏風や陶磁器、染職、浮世絵版画から漆工芸品迄、アジア美術に於ける、鳳凰と獅子の意匠を抱く作品を集めたこの展覧会には、どの分野を観ても名品がメジロ押し。

有名処では、作者に就いて諸論紛糾の(伝?)若冲作、静岡県美の「樹下鳥獣図屏風」や、此方ははっきりとしている三の丸所蔵の「旭日鳳凰図」、「古九谷色絵鳳凰文大鉢」等が展示され、展示替え後は永徳の「唐獅子図屏風」も出るらしい。

しかし筆者的には、例えば南法華寺の重文「鳳凰文磚」や西大寺の国宝「金銅透彫舎利塔」、五島美術館の重文「鳳凰耳砧花生」の、美を伴った技巧の素晴らしさに、眼を奪われっぱなしで有った。

展示作品中、懐かしの再会を果たしたのは、個人蔵重文「木造獅子」。この作品は筆者が初めて関わった「指定品」で、普賢菩薩が乗っていた筈の木造の「象」とペアで重文と為っている。

嘗て作品が有った九州某所に、何度も足を運んだ事を思い出したが、昔扱った作品に再会するのは、旧友に会う様で何時も懐かしく、嬉しい物で有る。

この展覧会では、「手練」な日本現代美術のルーツを、確りと観る事が出来る。
そして歴史とは、「現代の連鎖」の結果で有る、と云う事も。