面影:「Himizukaze-Rebirth」@Tenri Cultural Institute。

先日開催された、独立記念日恒例の「ホットドッグ早食い競争」は、嘗ての日本人チャンピオンの小林君が「非公式ガッツ」を見せ付け、日本人として溜飲を下げた。

そもそも小林君が件の大会に出れなくなったのは、競技会側の「嫌がらせ的」契約条項に拠る物で、アメリカの独立記念日の記念行事で、日本人が毎年チャンピオンになるのを防ぐのが目的だったらしいが、結局小林君はその「正式な」競技会には参加せず、同じ時間に別会場でイヴェントを行い、「正式」競技会と同時刻に早食いをスタート。結果は「正式」チャンピオンが62個食べたのを尻目に、小林君は何と69個を食べ、7個差の大差を以って勝利した。こうなると「正式」の方は面目丸潰れで、小林君を無視するしか道は無いのだが、これも実力の世界、見る人が見れば実力の差は明らか…こう云うガッツを見ると、気持ちがスカッとする。

反面、九州電力の小賢しいインチキメール作戦等の報道を見ると、日本人は此処までセコイかと思うばかりで本当に情けなくなるが、小林君のこの「非公式」な勝利は、誰が何と云おうと、正式だろうが非公式だろうが、自分の実力を見せる事だけを実行し、見事勝利した事に意義がある…小林君は、日本の鏡である!

さて昨晩は、友人である元「鼓童」メンバーで笛・太鼓奏者の渡辺薫君が、「雅楽」奏者達と演奏すると云うので、チェルシーのTenri Cultural Instituteへ妻と足を運んだ。

このイヴェントは、$10の参加費が震災義援金として寄付される事に為って居り、出演は薫君の他、「龍笛」の柿谷貞洋と「笙」の福井陽一、そしてパーカッションのBarbara Merjan各氏で、雅楽とは云え、インプロヴィゼイションを含んだ現代的な演奏に為るとの事。本来ならば、此処に盲目のダンサー橋本真奈さんが参加予定だったのだが、来週に延期されてしまった…残念だが仕方が無い。

会場ではクラシック・ピアニストのK氏夫妻、領事館のK氏等の知り合いともバッタリ会い、四方山話。そうこうしている内に奏者達が現れ、展示されている現代美術をバックに演奏が始まる。

先ずは柿谷氏に拠る、東儀和太郎作曲の「追慕歌」…被災し亡くなられた方々への、厳かな追悼で有る。その後は笙も入って、雅楽の中でも最も有名な曲の一つである「越天楽」が演奏された。この「越天楽」は、舞は既に無くなって演奏のみが存在している曲で(これを「管弦」と呼ぶ。舞が付く物が「舞楽」)、この曲には「平調(ひょうじょう)」「盤渉調(ばんしきちょう)」「黄鐘調(おしきちょう」の異なる三調子が有り、「盤渉調」が最も古い形とも云われているが、この晩は我々が最も耳にして居ると思われる「平調」で演奏された。

結婚式などで良く耳にするこの「平調」の「越天楽」は、これまた宴会で良く聞く「黒田節」に、旋律が非常に似ている。これは当然と云えば当然で、「黒田節」は「今様越天楽」と呼ばれ、「越天楽」に歌詞を付けた物だからだそうである…ウーム、世の中本当に知らない事だらけだ(オレだけか?)。

続く2曲は薫君の曲で、「HIRAKI」と「Together Alone」。この2曲には、素晴らしいパーカッショニストのBarbaraが参加したのだが、特に「HIRAKI」の演奏は本当に素晴らしく、何か大自然の中から「神」が忽然と登場し、雷や嵐、風や雨、そして陽の光を大地に降り注ぐ光景が見えた様で有った!その後は、薫君の笛(篠笛など)のソロ・パフォーマンスを経て、Kenny Endo作曲の豪快な「Symmetrical Soundscapes」へのメドレー…迫力満点であった。

そしてこの晩最後の曲は、今回のコンサート・タイトルにもなっている「Hi Mizu Kaze(火水風)」。

この曲は現代曲で有るが、作曲家はこの曲を四万十川をイメージして作ったそうで、或る冬の一日の移り変わる様を表現している。日の出、鳥や植物達が動き出す、「大地の一日の始まりの光景」から始まるこの曲は、その後雪が降り、雲が陽を遮るのを目撃し、冷たい風の吹きすさぶ月夜で終焉を迎える。龍笛・篠笛・太鼓・各種パーカッションに拠るこの演奏は、雅楽神道の根源的要素が見え隠れする作品で、非常に興味深い。

コンサート終了後は、薫君を始め奏者達と歓談…筆者も知らない事だらけで恥ずかしかったが、柿谷氏との雅楽の興味深い話は尽きず、例えば「舞楽」には2人のダンサーが居て、それらは「左舞」と「右舞」に分けられ、左舞は唐を経由して伝来した物、右舞は高麗を経由して伝えられた舞だと云う事等は、如何に当時の日本がその両国の影響下に有ったかと云う事や、例えば聖徳太子法隆寺を「高麗尺(こまじゃく)」で造営した様に、5-6世紀も寺院や古墳は高麗仕様の物が多い反面、その後の薬師寺等は「唐尺(からじゃく)で建てられている事等を思い出させた。

何とも後味の良いコンサートだったのだが、帰りしな近所の「B」に行って食べた「フローズン・ティラミス」が、これまた「今年最高」に旨いデザートだった事が、この晩をより幸福な一夜にした事も付け加えておこう(笑)。

最後に、筆者がこの「Himizukaze」と題されたコンサートに偶然にも着ていったT-シャツが、この間ライヴを観に行って購入した「Earth, Wind & Fire」(土風火)のロゴが大きく前面に入った記念T-シャツだった事と(笑)、「追慕歌」の詞を此処に記して今日はお仕舞い。


面影を、 面影を想い浮かべて 沁み沁みと
逝きにし人を、 逝きにし人を 偲ぶ今日かな