憧れの人。

先ずは告知から…講談社の雑誌「セオリー」で筆者連載中の「オークションの目玉」、今月号は「張大千」をフィーチャーし、熱狂の中国美術市場レポートを絡めてお届けしています。是非ご一読を!

さて数日前、某日系有名ホテルのニューヨーク駐在の人と会った。

その人と話していて、震災の影響大で外国からの東京への旅行者が減り、TやOやN等の大手日系ホテルも今大変らしい。その時にまた「憎いあんちくしょう」(拙ダイアリー:「絶対に勝たせてはいけない、『憎いあんちくしょう』」参照)の話が出たのだが、それはその「あんちくしょう」の「東京観」についてだった。

あの「あんちくしょう」は、懲りずにまた「オリンピック招致」を声高に叫んで居るとの事…「●●の一つ覚え」とは、当にこの事で有る。某ホテル駐在氏にも云ったのだが、世界の人が「東京」に魅力を感じ、行ってみたい、行かねばならぬと思わせる都市に、「土台」から変えて行かねば意味が無い。そして、それはニューヨークと云う街を見てみれば一目瞭然であるのだが、要は南の島(確かガラパゴス?)等に行く暇があったら、ニューヨークに来てこの街を勉強しろと云う事だ。

過去のデータに拠ると、ニューヨークでオリンピックを開催しようと云うと、当時少なくとも4割の市民は反対した。それは、ニューヨーク市民はオリンピック等と云う一過性の経済効果等必要とせず、却って面倒臭くて交通渋滞等の問題が予想されるからだが、究極的にはこの都市が世界の人々の「憧れ」の街で、黙っていても世界中から人・金・文化・芸術の全て、しかもその「トップ・ランク」がやって来るからである。我らが「あんちくしょう」も、「●●の一つ覚え」では無く、長期的展望に立って「東京」を「ニューヨーク」化する術を、真剣に考えるべきであろう。

それには、何しろ先ず羽田空港を完全に国際空港にする。東京を世界の文化芸術の中心地にする様、レヴェル・アップを図る。例えば美術品業界を例に取っても、外国人も参加できる様に、美術倶楽部に対して公開オークションをする様圧力を掛け、早急に本当の意味での市場開放をする。中国人が日本で堂々とオーションを開催しているのを、唯々横目で観ているだけなのは何故なのか、皆目見当が点かない。オリンピックなど、その後で十分だと思う。

と、怒るのはこの辺にしておいて、今日の本題である(お分かりだろうが、今日の「憧れの人」とは「あんちくしょう」の事では無い:笑)。

いきなりだが、世の中には男のロマンを理解出来ない女性が、何と多い事か…何の話かと云えば、それは「007」の事。

ニューヨークでは、多くのケーブル・テレビ・チャンネルで24時間映画をやっているが、当然アメリカ人好みの映画が多くなり、それはハリウッド製アクションだったりホラーだったりするのだが、その中でも「007シリーズ」の放映回数と人気は凄い。

何を隠そう筆者も、昔からジェームズ・ボンドの大ファンで、最近のシリーズに関しては、ハッキリ云って話の筋等大した事も無いのでどうでも良いのだが、しかしタフでピンチにも動ぜずジョークをかます。そして何より女にモテるボンド…古今東西、自信が有って喧嘩が強く、見掛けが良い上にジョークのセンスが有って、危険な香りのする男に女は弱いのだ(笑)。

そこで、今上に上げた「モテる男の条件」を一切持たない筆者を含めた男達が、「My name is Bond...(2秒置いて), James Bond」、若しくは「Vodka martini, shaken not stirred」等と、ブリティッシュ・アクセントで呟く時のボンドに(くーっ!)、「憧れ」を抱くのはもう自然の摂理と云っても過言では無い。

なのに、である…ついこの間、大好きなエヴァ・グリーンも出ている「Casino Royale」を観ていると、ウチの妻がさも軽蔑した様に「こんな下らない映画、一体何百回観たら気が済むの?」と筆者に告げ、徐にチャンネルを変えた。

何と下らない質問をするのだろう…「何回観ても面白い物は、面白いに決まって居るでは無いか!そんな事も判らんのか、お前は?そう云うお前だって、俺からすると史上最低に下らん『S.A.T.C.』の再放送を、何百万回と観ているでは無いか!」と妻に怒鳴り散ら…す事も出来ず、唯チャンネル権を譲ったのみ…。

そう云えば、前に「007」を一緒に観に行った、ニューヨークでゲイ・クラブを経営する傍ら、自分のビルの屋上に茶室と庭を造る様な、教養豊かで知的なフランス人の友人Pもかなりのボンド・ファンで、映画を観終わって出て来た時には、この日仏2人の男はボンドに成り切って、眼を細め注意深く辺りを見渡したりして、一緒に行った女姓陣がドン引きする程であった…知的で教養豊かな男程、愚かにも危険に憧れ、モテる男に憧れるのだ(笑)。

酒を一滴も飲めず、カタログ編集疲れで帰る筆者は今晩、「憧れの人」ボンドに倣って、妻に「Aojiru...shaken, not stirred…」(「青汁」をシェイクしろ、掻き回すな…)と、冷たく云ってみようと思っている(笑)。