早朝のお茶の水界隈「建築」散歩。

昨日、メルト妻と来日した。

日本行き全日空の機内では、マット・デーモン主演の「The Adjustment Bureau」を観る。

「人間は神が定めた運命を、変える事が可能か?」と云うテーマの作品で、映画自体はそこそこ面白かったのだが、実はその筋よりも相手役のエミリー・ブラントが魅力的で、またもや「イギリス女優」に参ってしまった(笑)。

業務通関を済ませ、成田空港を出ると、夕方着いたせいか、また今年のニューヨークの夏もかなり暑く湿気が多い為か、気温も湿気も其れ程酷いとは思わず、少し安心する。

ハンド・キャリーした版画を東京支社に預け、神保町の家に着くと、夜は神楽坂の弟の店「来経」で鯛茶等を軽く食べ、帰りはのんびり歩いて帰る事に。

帰るすがら、友人の作家夫婦の住むマンションの近くを通ったので、妻と「『ピンポン・ダッシュ』しちゃおうか!」と結構マジに考えたのだが、絶交されると困るので、止めておいた(笑)。

そして今朝、当然の様に時差ボケで早朝4時半過ぎに起きてしまうと、妻と神田明神にお詣りがてら散歩に出た。

子供の頃、まるで「原爆ドーム」の様に威圧的だった外観は、その名残も全く無くなり近代的高層ビルと為った明治大学の前を通り、人通りの全く無い大通りを、爽やかな風と蝉の声と共に歩く。

駅前の道を右に折れ、筆者も長く通っている有名な画材店「LEMON」の前を通り、聖橋に出て今度は左へ曲がる。お分かりだと思うが、この「LEMON」と云う名は、梶井基次郎の傑作小説「檸檬」から取られていて、お茶の水橋や聖橋を渡る時に、小説の最後で神田川に投げ込まれる檸檬の「軌跡」を何時も思うのも、お茶の水の魅力の1つだろう。

聖橋を渡ると、右手にこんもりとした森の中に佇む、都内でも大好きな建築物の1つ、「湯島聖堂」(昌平坂学問所)を過ぎる。

知らない人は、この名を聞いてキリスト教的な聖堂を思うかも知れないが、この湯島聖堂は、寺でも神社でも教会でも無く、五代将軍徳川綱吉が建てた「孔子廟」で儒学のメッカ、延いては私塾・学校の始祖とも呼ばれる建築物なので有る。
この湯島聖堂は、唐様の何ともおおらかなでドッシリとした建物で、宗教建築とは異なる、如何にも「知の殿堂」を思わせる、静謐且つ知的な雰囲気が大好きなのだ。

湯島聖堂を過ぎ、右に折れて暫く歩くと、今度は朱塗りの派手な色合いの神田明神(正式名:神田神社)に着く。

無人の境内が本当に気持ち良い。そして此処や日光東照宮等の、派手な色使いの神社建築を観ると、何時も日本の伝統的美術や建築の「色」は、決して「侘び寂び」的墨色・木地だけでは無いと云う事を確認出来る。

手と口を濯ぎ、二礼二拍しお詣りを済ませると、お宮の裏手に在る区の指定文化財の仕舞屋(しもたや)「神田住宅」を横目に、「ギャラリー・バウハウス」のかなり凝ったバウハウスっぽい(名の通りだが、中々良く出来た建築で有る)ビルを過ぎて、お茶の水駅方面へと戻る様に向かう。

駅に近付くに連れ、今度はジョサイア・コンドル設計の通称「ニコライ堂」(正式名は「東京復活大聖堂」)の丸い屋根と十字架が見えて来る。

このロシア正教の聖堂は、「質実剛健」しかし「陰翳礼讚」的な部分も感じる建物なのだが、このニコライ堂のお陰で、お茶の水界隈には昔から「サラファン」や「バラライカ」等の美味しいロシア料理店が点在して居たのだが、最近は少なくなったらしい。

時差ボケのお陰の、都合40分程の散策…お茶の水界隈は、建築音痴にも充分楽しめる、知的建築の宝庫で有る。

是非皆さんも、一度お試しを。