East Weets Mest:松山智一@Joshua Liner Gallery。

下見会が今日から始まった。朝からプレス向けのギャラリー・トークをし、もう既にくたくた・・・先が思いやられる。因みに今回の日本・韓国美術の下見会は、来週火曜日午後2時迄・・・素晴らしい写楽や能面、印籠や茶道具の数々を、皆様お見逃しの無い様に!

さてブルームバーグ市長に拠って、「9・11」10周年の日を狙ったテロに関する「信頼できる可能性」(変な言葉だ)が発表され、市内の警備が一際厳重に為って来ている。今週末のニューヨークは、昨日から始まったニューヨーク・コレクションの「Fashion Week」や今日から始まる「Asian Art Week」、それと「9・11」の式典に出席するオバマのニューヨーク来訪等が重なり、道は通れず、トランクは開けられ、機関銃を持った州兵等が闊歩すると云う、恐ろしい程の混雑に為る…どうなる事やら、である。

さて、昨日は下見会のセット・アップを何とか終え、夕方からメルト妻とチェルシーに向かった。アーティスト松山智一君の展覧会オープニングに出席する為である。

Matzuこと松山君は、筆者の学校の後輩でも有るが、海外が長い所為も有って英語も完璧、自身の制作過程や作品解説等も英語できちんと出来る、稀なる日本人アーティストである。さてギャラリーに着いてみると、人も多く既に賑わいを見せていて、アーティストの斉木克裕君夫妻や北出健次郎君、横沢典君や「ニューヨーク・アートビート」主催の藤高晃右君&アネタ夫妻等の、友人知人の顔も見える。

作品は平面と立体の両方が展示されていて、平面では新作大作の「Toys and Candy, 2011」や、「Just With You, 2011」等が並ぶ。平面作品ではこの2点が個人的に好きだったが、画中の人物の顔に細かい表情が描かれていないのにも関わらず、全て松山君に見えて来たのが面白かった。

しかし筆者は、松山君の立体作品が大好きでなのである・・・今回の立体2体は両作品とも大作、しかも素晴らしい出来であった!

先ずは地蔵菩薩をモティーフとした「Buddhamaton, 2011」。これは木製のオートラマの様な仕組みに為っていて、裏に廻ると「何と単純な!」と、制作者でない筆者などは却って驚く様な、所謂「モーター」で腕や首、舌等が可動する仕掛けなのだが、制作した方はさぞ大変だったろうと思う。目に「電球」を使われていたり、ポップでしかも超日常的な所が非常に気に入った。

しかし瞠目すべきは、もう一点の「Money Talks, 2011」である。この作品は「婆藪仙人」(ばすう・ばそうせんにん)と云う、殺生の罪で生きながらに一度地獄に落ちるが、仏門に入る事に拠って釈迦に救われると云う仙人をモティーフとした作品である。

FRPによって成形された半裸の婆藪仙人は、レインボー・カラーの眼を持ち(まるでカラー・コンタクトを入れている様だ!)、右手で木の杖を突いていて、普通なら経物を左手に掲げ持つ所を、松山君は何と「ピンクのブタの貯金箱」を持たせた!そして仙人の後ろで寛ぐ「鹿」はホンモノの「蝦夷鹿」の剥製で、その角は仙人の腰衣と共に蛍光カラーに輝く。そして一件黒漆塗りの様な(予算の都合で漆は無理だったらしい…)台には、コインが散らばっているので有る。

この作品のインパクトは凄い。以前松山君が制作し、今西海岸のコレクターの所に収まっている「酔っ払った『重源』像」(ゴメン、タイトルを忘れた…)の流れを汲む作品だが、それに勝るとも劣らぬ出来で、リアルなのに仄かに笑いを誘い、そして「金と芸術」的シニカルさも備えている。欲しいっと思ったが、如何せん筆者には高かった・・・(涙)。

この作品を観ると、今回の展覧会タイトルからも想像出来る様に、今後日本人としてのMatzuがアメリカとどう係わり、作家としてどの様に独自のアートを産んで行くかと云う、「動機」と「未来」が強く感じられたのである。

後輩「Matzu」の今後に、より一層の期待をしたい。