土曜日の芸術散策。

昨日、「『ニュートリノ』は光より早い」と云う驚くべき新聞記事の事を此処に書いたのだが、世の中では「あれは『誤差』だろう」とか「何かの間違いだろう」との意見が多いらしく、筆者の元にも幾つか意見が寄せられた。

しかしこの実験結果の真偽は兎も角として、「科学」の「か」の字の教養も無い筆者からすると、「光より早い物が、世の中には有るに違いない」とか、「アインシュタインの理論を覆すぞ!」位の勢いの科学者が居て欲しいし、何事も疑って掛からねば科学の発展も無いだろう。

これは、しつこい様だが原子力にも云える事で、「原子力が安全で最も安い」とか「代替エネルギー等、簡単には開発出来ない」等と云う困った人が居るが、筆者が仕事を始めたたった20-25年前には、今当たり前の様に使っている携帯電話もインターネットも日常生活に於いて「皆無」だった事を考えると、科学の進歩と云う物には、「出来ない事」とか「そうに決まってる事」を根底からひっくり返す力が有る訳で、それを追求しないのは「怠慢」と云っても良いのでは無いか。

そう云う意味で、今回の「光より早い」と云う話は、筆者に取っては大歓迎なのだが、そこはアートも然り…と云う事で、今日観て来た4つの展覧会を報告しようと思う。

先週に続き、家からテクテクと歩いて、先ずはチェルシーへ。

最初に行ったのは26丁目に在る「James Cohan Gallery」…ここで開催されているのは、第54回ヴェネチア・ヴィエンナーレ日本代表作家を務めた、束芋の展覧会「Dandan」である。

作家の束芋さんとは「お茶事」でご一緒した事が有り(拙ダイアリー:「ガチムチでシットリとした『夜咄』」参照)、小柄な可愛らしい物静かな女性で有ったのだが、その茶事の道具等を記憶を頼りに絵で記録した束芋さんの素晴らしい「茶会記」を、これまたその茶事でご一緒した橋本麻里さんから見せて頂いた時の驚きは、今でも忘れる事が出来ない。

今回の展覧会は、3つのインスタレーションをフィーチャーしている。最初の「guignorama」は、人の手と足の指や肌が渾然一体と為る不思議なビデオ・アート。次の「BLOW」は、漆黒のギャラリーの床にトンネル下半分の様な曲面を作り出し、その曲面を生かして人間の骨や器官、血管等をアニメーションで見せるビデオ・インスタレーション

そして奥に行くと大作「danDAN」となり、このアングルの付いた「3D」で見せる、何とも「昭和」なアパートの一室に入れ替わり立ち代り現れる家具や人、そして奈落に吸い込まれて行く部屋全体…不思議な感動を呼ぶ作品群で有るが、何しろ細部までかなり拘った力作で、ビデオに出てくる絵の旨さとそのアイディアに感服…ギャラリーに居た他の客達の評判も上々で有った。

James Cohanを後にし、今度は24丁目の「Bryce Wolkowitz Gallery」で開催されている、友人の作家インゴ・ギュンターが参加している3人展、「Live Theory」へ。

インゴの作品「Worldprocessor」(拙ダイアリー:「ニューヨークでしか味わえない、日曜の昼下がり」参照)は、筆者が云うのも何だが大傑作で、暗闇に置かれた国家的な色々なテーマ(例えば「核兵器を持っている国と、持っていない国」等)で色分けされた地球儀を、中に仕込んだライトで地球儀自体をライトアップさせ、暗闇に浮かび上がらせると云う美しくも啓蒙的な作品である。このギャラリーでの展示も、もう2人のアーティスト、Brigitte KowanzとShirley Shorの作品とも相性が良く、中々素晴らしいインスタレーションとなっている…是非一度ご覧頂きたい。

そして、この日チェルシーでの最後の1軒は、19丁目の「David Zwirner」…曽根裕の展覧会「Island」で有る。

この作家の作品を観るのは、実は初めてだったのだが、中々に素晴らしい!今回の展示では、大理石の塊の上部がマンハッタンの立体地図と為っている「Little Manhattan」(正直「欲しいっ!」と思った)、「扇形」や平たく極度にデザインされ、藤で編んで彩色された「椰子の木」のインスタレーションの「traveler's palm」が素晴らしい。筆者は個人的に、大きい物を豪快に作る作家が大好きなので、この作家には何かの時にお会いしてみたいと思う。

チェルシーでの作品群を大満足で後にすると、今度は「UN」も少々落ち着いて来たミッドタウン・イーストに向かい、ジャパン・ソサエティーへ…ギャラリーで公開中の展覧会「Fiber Futures: Japan's Textile Pioneers」を観る為で有った。

実は、この展覧会を観に行ったのには大きな理由が有って、それは我ら地獄夫婦の友人で、「イッセイ・ミヤケ」のデザイナー&ディレクター、藤原大氏の作品が展示されているからである。

今回の展覧会は、聞く処に拠ると多摩美との共催の様な形を取っているらしく、タイトル通り布地や繊維を使っての造形作品(ミラー・プレートを使った作品等も有ったが…)が多数展示されているのだが、その中で藤原大氏の展示作品は、色々な意味で他とは「全く」と云って良い程異なっているのだ。

その展示とは、彼が家族と住む、湘南の海を臨む山の上に建つ「太陽の家」(拙ダイアリー:「『愛の宇宙船』そして『医学と芸術』」&「Super relaxed Saturday with creative friends」参照)の模型と「ビデオ」なのだが、思わずニヤッと笑ってしまう程、何とも面白い。

この藤原家の斬新な「太陽の家」の事は、上記ダイアリーを読んで頂きたいのだが、何しろこの「ビデオ」が素晴らしい…「タッパー」の蓋と「太陽の家」の屋根(天窓)の関係性…これは見てのお楽しみ。

そして11月には、ジャパン・ソサエティーにて藤原大氏の講演予定が有るそうである…こちらも今から楽しみでは無いか!!

素晴らしい作品もイマイチな作品も、素晴らしい展覧会もイマイチな展覧会も…ニューヨークの「土曜日の芸術散策」は、至福の一語である。