アルモドヴァルの、美し過ぎる「フランケンシュタイン」:「The Skin I Live In」。

肌寒くなって来たニューヨークだが、先週の土曜日は髪を切った後、昼過ぎからパーク・アヴェニュー・アーモリーへと向かった…数人のディーラーから招待状を貰っていた、「The International Fine Art & Antique Dealer Show 2011」を見学する為であった。

筆者はこのフェアが何時も楽しみで、それは何故かと云うと、古代美術やトライバル・アート、東洋美術は云う迄も無く、宝石や銀器、デコラティヴ・アート等の各分野に於ける世界の一流ディーラー達が集い、一級品を展示販売するからである。

さてアーモリーに着き会場に入ると、何処と無くその「一流」の香りがする(笑)…面白い物で、作品とその所有者、顧客達が醸し出す雰囲気には、自然とその「香り」が有る物なのだ。

素晴らしい14−15世紀フレミッシュの象牙の「聖母子像」や、1920年代と云うカルティエのアンティーク腕時計、ローマ時代の大理石像や8世紀インドの砂岩石製の釈迦頭部等、世界の逸品に目を奪われっ放しだが、そんな中にもアニッシュ・カプーアの作品やピカソの陶磁器コレクションを出している店も有って、飽きる事が無い。

そんな中、例えばロンドンからの常連ディーラーMichael Goedhuis等は、展示ブースを如何にも「誰か」のリビング・ルームの様に設え、其処には自分が気に入った物のみ、例えばエジプトのテラコッタやブロンズ作品等を飾った棚と共に、ソファーの上に白髪一雄の大作や山口長男の小品等も展示して居り、そのデカダン的趣味の良さには毎年感心する…眼福の一時であった。

そして昨日の日曜日は、待ちに待った映画を観にチェルシーへ…ペドロ・アルモドヴァルの新作「The Skin I Live In」である!

そこで結論から云えば、いや何しろこれはスゴい作品で、アルモドヴァルと云う男は「やはり、狂っている」としか云い様が無い(笑)。

先ず、主演の皮膚移植を専門とする整形外科医役のアントニオ・バンデラス、此れがまた最高にシブく格好良い!その隠された「変態性」を微塵も表に出さない狂気の演技と、ムンムンする男の色気…男でも惚れてしまいそうな程である(これは或る意味、この作品の1つのテーマでも有る)。

そして「ヴェラ」役のエレナ・アナヤは、余りに美しいアルモドヴァル風「フランケンシュタイン」を演じ、もう最高!とても36歳には見えない、可憐さとセクシーさとを供え持つ彼女の顔とボディは、観る者に彼女の「過去」(此処が見てのお楽しみ、なのだ)等、本当にどうでも良いと思わせてしまう程、超魅力的なのだった!

「カット」のみならず、セットや小道具も相変わらず素晴らしく、旧い石造りの屋敷に置かれる赤や青、白の原色を使ったモダン・デザインの家具、車(今回は白のBMW)、その家屋を改造した超近代的な実験・手術室等も見応えがある。また今回衣装はジャン・ポール・ゴルティエとのコラボ、劇中ヴェラが参考にし制作する彫刻はルイーズ・ブルジョワ、と云った「趣味の良さ」…流石アルモドヴァル、で有る。

しかし、それでは一体何が「狂っている」のかと云えば、それズバリ「ストーリー」なのだ。

この「心理スリラー」とも「サスペンス」とも、ヴェラと云うファム・ファタル的存在に拠る「フィルム・ノワール」とも、「SF」ともフランケンシュタイン的「怪奇映画」とも、そして「究極のラヴ・ストーリー」とも呼ぶ事が可能な本作は、メインの登場人物がどんどん死んで行く「愛と復讐」をテーマにした、恐るべき狂気の物語なので有る!

此処で詳しくその物語を語る事は、止めて置く…興味がある方は、何しろ作品を実際に観て頂きたい。アルモドヴァル・ファンならば必ずや喝采を送る事間違い無しの、傑作である。

アルモドヴァルの狂気に触れた後は、ゲルゲル妻とピアニストH女史との夕食に、急遽建築家Sと日本より来訪中のSのご両親もジョインする事に為り、ライターM女史ご推奨のチェルシームール貝の店「F」でディナー。

ベルギー・ビアやワイン、鳥海山(!)を頂きながら、Sのご両親との会話は「左」に行ったり「右」に行ったり(笑)…M女史お勧めの「魚介フリッター」や「クラブ・ケーキ」、「ツナ&サーモン・タルタル」や「トリュフ・オイル付きフレンチ・フライ」、フレイヴァーの異なるムール貝3種、そして〆の「揚げドーナッツ」迄、余りに旨い料理の数々をガンガン頂いた。

家に帰ると「夢見」のゲルゲル妻は、「今日は絶対に、『アルモドヴァル風』の夢を見るに違いない!」と宣言してベッドに入ったが、「アルモドヴァル風」の夢等悪夢の極みで有ろうから、ハッキリ云ってそんな夢は見たくないと思った…が、あんな「美し過ぎるフランケン」が出て来るならば、そんな夢も是非見てみたいと、直ぐに思い直したので有った(笑)。

男とは、何と悲しい生き物なので有ろうか(笑)。