バッファローとエルク、ビッグバンドの夜。

NYの人間の筈なのに、日本発「2泊4日のアメリカ弾丸出張」をして、日本に舞い戻って来た(涙)。

さてその出発前夜は、業界内の飲み会「T会」に出席。メンバーはVIPコレクターT氏、重要ディーラーO氏とそのギャラリーのTさん、現代美術ギャラリーSのKさん、ディーラーT氏と世界的アート・フェア勤務のNさん、そしてこの会の名前の由来と為って居る、某現代美術館のキュレーターT女史と僕の8名。

麻布十番の「U」で、刺身や油揚げ、アジフライやじゃこ炒飯等の旨い魚飯を頂いた後は、近くのシャンパン・バーへ移動し盛り上がる。次回の「T会」は台湾か京都で開催との噂も有るが、何れにしても超楽しみだ!

その翌日、僕はアメリカ中西部へと飛び立った訳だが、実は今回の出張は、或る目利きの顧客との仕事の為だった。そして彼の地では、その顧客から実に興味深い数多の話を伺ったのだが、それ等は決して面白いだけでは無く、誠に勉強・参考に為った事は云う迄も無いだろう。

例えばその昔、顧客が有名コレクターとひと月半に及ぶ車でのアメリカ横断旅行をした話や、彼が長年に渡って付き合って来た、世界の著名コレクターや大ディーラー、そして名品達の事。また最近の業界の情報や作品の見方・検分に至る迄、側で聞いて居て全く飽きる事が無い。

さて、着いた日の中西部の街の天候は寒く雨模様で、この日は仕事の無かった僕等が地元美術館の見学からホテルに帰り、軽い夕食を取って居た頃には、たった一発では有ったが、経験した事の無い位の物凄い音と振動を伴う雷が近くに落ちて、ナイフとフォークを持った侭飛び上がった程だった。

が、翌日仕事本番の日は、前日とは打って変わってこの上ない上天気…ワイルド・ウエストの天気は「じゃじゃ馬女」の気持ちの様に変わり易い物らしいが、これも「晴男」を自認する顧客と僕の所為に違いない。

そうして気分良く、重要な弾丸仕事を無事に終えた夜は、地元美術館学芸員のD氏を誘い、D氏オススメの「街で最も古いレストラン」でディナーをする事に。この「B」と云うレストランの創業は、1893年…そして此処の「売り」は、顧客も僕も未だ食べた事の無い「バッファロー」のステーキで有った!

「B」に着いてみると、店内は流石歴史を感じさせる「味」の有る造りで、赤い壁と云う壁にはバッファローや鹿、熊やプーマ、鴨や孔雀迄の「剥製」が所狭しと飾られて居て、思わず名和晃平の作品を寄贈したく為る(笑)。

そして「新聞」の体裁を取ったメニューを見ると、「メイン」の欄にはバッファロービーフ、エルク(鹿)、ラム、ヘン(鶏)、クエイル(鶉)、サーモン、ポークと「game」な肉が各種並んで居たが、驚愕したのは「スターター」の欄だ。

先ずメニューのトップに記された、オススメの「マウンテン・オイスターズ」…ん?山のオイスター?訳が分からずD氏に聞くと、何と「仔牛の睾丸」の事だと云う。そして目を下に遣ると、今度は「フライド・アリゲーター・テイル(鰐の尻尾の唐揚げ)」。が、極め付けは、この日ウェイターが僕らに告げたスペシャル・アペタイザー、「蛇の唐揚げ」では無かったか…。

「せっかくだから…」と、顧客と仔牛の睾丸やワニの尾、ヘビ・フライの注文を検討してみた物の、気の弱い僕らは結局「バッファロー&エルク」や、「ヘン・ダック・クエイル盛り合わせ」セットを注文。そして、生まれて初めて食したバッファロー&エルクの肉はと云うと、柔らかくて思ったより癖が無く、大層美味しかったので有る!

彼の地の歴史に思いを馳せながら頂いた、「B」でのワイルド・ウエストなディナーに大満足すると、其の後はD氏オススメのジャズ・クラブ「D」へと出陣。

調べてみるとこの夜の出演は「地元の高校生ビッグバンド」だったので、どんな演奏かと不安だったが、行ってみたらビッグバンドで演奏して居たのはオジサンばかり(女性ギターが1人)。席に着き、指揮を取って居たオジサンのトークを聞くと、どうも彼等は弁護士や学校の先生等の本業を別に持って居る、アマチュア・ミュージシャンズらしい。

然しサックス、トロンボーン、トランペット、ベース、ドラムス、ギター、ピアノ等、総勢20人程のビッグバンドに依る、コール・ポーター等の懐かしい曲の演奏は中々迫力が有る。そして彼等が演奏を終えると、その前に演奏を終えて居たと思しき10名以上の高校生達がステージに上がり、親子程も年が離れ、肌の色も職業も全く異なる彼等が一緒に演奏し始めたのだ!

云ってみれば、この晩のステージは「アマチュア・ナイト」だった訳だが、30人を超える大編成ビッグバンドと為った彼等の演奏には、正直「スゴい!」処は見つけられ無かった…が、中西部の街中の、何の変哲も無いジャズクラブでの彼等の演奏は、音楽の持つ究極の素晴らしさ〜年齢・性別・国籍・宗教・人種・職業・立場等を全て乗り越え、一緒に楽しめる事〜を、その暖かさとハッピーさを以ってして、改めて僕に思い出させて呉れたのでした。

成田に着き、時差と距離で疲れた体を引き摺りながら戻った部屋で、今回の旅の間に撮った作品の写真を見る為に、iPhone中のアルバムを開くと、其処にはD氏が撮って呉れた、歴史を感じさせる「B」の赤い看板の前に立つ、年齢も体格も経験の深さも異なる、目利き顧客と「まだまだ」な僕が居た。

弾丸な、然し学ぶ事の多い、思い出に残る良き旅でした。