Qui était Pina ?…ピナとは何者であったか?:ヴィム・ヴェンダースの「PINA」を観た。

今年も後数日を残すのみ…ニューヨークでの、アートに関する「やり残し」をやって置かねばならない。

と云う事で、久し振りの雨だった昨日は、この秋の「ニューヨーク・フィルム・フェスティヴァル」で上映されたのも係わらず、売り切れの為観る事の叶わなかったヴィム・ヴェンダース監督のドキュメンタリー作品、「PINA」をダウンタウンのIFCにゲル妻と観に行った。

行って見ると、上映期間が限られている所為も有ってか、会場は略満員。後ろの方に席を見つけて、漸く座る。

さて、この作品のタイトルに為っている「PINA」とは、ドイツの現代舞踊家振付家ピナ・バウシュの事である。

現代舞踊に疎い筆者もこの名前だけは知っていて、舞台も一度だけ観た事が有るのだが(拙ダイアリー:「ピナ・バウシュの『水の舞台』」参照)、ピナと個人的にも深い交流の有ったヴェンダースのこの映像ドキュメントは、ピナのダンス・カンパニー「ヴッパタール舞踊団」のダンサー達の、各々が持つダンス・レパートリーや、ピナに対する個人的な想い出を通して、ピナ・バウシュと云う稀代の舞踊家に迫る物だ。

この作品は、ピナの作品の重要なモティーフで有る「椅子」や「倒れ込み」、或いは「コミカルさ」を前面に出しながらの「名作舞台振付集」とも為っている訳だが、ヴェンダース独特の何処か「ロード・ムービー」を思わせる作りと、ダンサー達の生の顔とその「独白」が、ピナと云う人間を徐々に浮き彫りにして行く構成は、流石ヴェンダースである。

またこの作品は「3D」対応と為っているので、当然3D眼鏡を掛けて観たのだが、この作品での3Dの効果は図らずも絶大で、ダンサー達が舞う、舞台やスタジオ、また街中でのダンス・シーン迄、相当の臨場感と迫力が有る。

そして画面の中では、「Cafe Muller」や「春の祭典」等の「名舞台」を新旧録画で改めて堪能出来るので、例えばピナの振付に於ける「舞踏」からの影響(作品中、大野一雄に触れる箇所がある)や、音楽や衣装の選び方の妙(因みに、ピナとヴェンダースの共通項に、「山本耀司」が居る)、ダンサー達の厳しい練習風景迄、非常に「生」でリアルなピナの芸術性に触れる事が出来るのだ。

この作品のテロップに、「この作品は、ピナに『関する』物では無い…ピナの『為の』物である」とのヴェンダースの献辞が有る。

20世紀ドイツを代表する、2人のアーティストの「必見」コラボレーション…贅沢で美しい、ヴェンダースによるピナ・バウシュの「為の」、素晴らしい「挽歌」で有った。