「龍の刺青を持つ少女」。

マイナス11度の極寒だった昨日から、オフィスに出ている。

3月のオークション出品作品は、今月中旬迄探し続けるが、1月は所謂「カタログ」の月で、此れからは出品作品に関する調べ物等に、大概の時間が奪われる…寒くなって来る時期に、このオフィス仕事は有難いのだが。

さて数日前、この寒いニューヨークのイスラム教モスクやヒンズー教寺院等数ヶ所に、火炎瓶が投げ込まれたらしい。

新年早々物騒な事件だが、昨年グラウンド・ゼロ近くにイスラム教の一派が土地建物を買い、モスク建設の計画中に反対運動が起きたの覚えて居る方も多いだろう。

そして、ブルームバーグニューヨーク市が、この計画を許可してからも未だに建設されて居ない所を見ると、燻り続けている色々な民族・宗教問題、そして利権問題が有るのだと思う。

アメリカに於ける民族・宗教問題の歴史は、ご存知の通り非常に長く複雑だが、云う迄も無く「9.11」以降の中東人・イスラム教徒に対する差別・中傷は後を絶たない。しかし国家的に見ると、アメリカの「双子の兄弟」と云っても全く差し支えの無い中国でも、これに似た問題が近い将来起きるのは必然で、多民族・多言語、そして「多通貨」を統べねばならない国家の苦労は一潮で有ろうと思う。

その中でも、少なくとも人と金の往き来に絶対的に必要な「通貨」に関して云えば、本土から外国のみならず、香港、台湾(人民元から香港ドルや台湾ドル)への高額送金ですら容易で無い中国が、この辺をどの様に解決していくのか見物である。

さて、此処からが今日の本題。

今年は御存知の通り「辰年」で有る…そんな辰年の年始にピッタリの映画を寒空の下、タイムズ・スクエアで観て来た。

その作品とは、2011年度デヴィッド・フィンチャー監督作品、「The Girl with the Dragon Tatoo」。

この作品の原作は、スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンの一大ベストセラー・ミステリー(邦題:「ドラゴン・タトゥーの女」)だが、既にスウェーデンで映画化されているので(2009年)、このフィンチャー作品は米国版のリメイク作品と云う事になる。

先ず、本作開始早々の非常に凝ったタイトル・バックは黒一色、そしてそのバックに流れるのは、何とツェッペリンの「移民の歌」のコピー…そしてこのタイトルバックは、何処か「007シリーズ」を想起こさせるのだが、これも主演のダニエル・クレイグの所為だろうか?

ストーリーは、クレイグ扮するジャーナリストが富豪に雇われ、40年前に失踪した少女を探す仕事を依頼されるのだが、その調査アシスタントとして、自分のスキャンダルを暴き窮地に追い込んだ筈の、非常に優秀なハッカーだが性格も思想もかなり変わった、龍の刺青を全身に持つ女調査員を雇う事になる。

そしてこのコンビが真相に迫るに連れ、過去の連続殺人事件との関連性が浮かび上がり…と云った具合である。

流石フィンチャーらしく、お洒落な北欧住宅や家具デザインをフィーチャーしながらも、レイプや拷問シーンもふんだんに出て来るが(北欧らしく、BGMに「エンヤ」を掛けて拷問したりするのだ!)、しかし何と云ってもこの作品の白眉は、その「ドラゴン・タトゥーの女」調査員役を熱演しているニューヨーク出身、26歳のルーニー・マーラだろう。

眉毛を剃り落とし、鼻ピアスをしたその「超パンク」でエッジーな出で立ち、そして高い知性を持ちながらも、投げやりな、暗い影を醸し出す素晴らしい演技も然る事ながら、時折垣間見せる透き通る様な美しさや、少女の様な幼い素顔を見せる可愛さの表現、そしてレイプ・シーン等の体当たり的過激演技をも含めて、この作品のマーラには「女優魂」を非常に強く感じた。

そして最も驚くべきは、こんな風変わりな役にも関わらず、この「パンクなマーラ」の知的でセクシーな魅力に、筆者が完全に参ってしまった事で有る…何と末恐ろしい女優なのだろう…。

そして、全編を通しての北欧の凍てつく「寒さと暗さ」が立て込める中、「大家族を持つ大富豪に雇われた人間が、閉ざされた土地で起きた『隠された家族の過去と犯罪』を調査し、犯人に妨害されながらも最終的に真相に到達する」と云うテーマは、何処か金田一耕助を主人公とする「横溝正史」作品を思い起こさせた…こう考えると、この作品は日本人好みなのかも知れない。

原作本、またスウェーデン版映画の方とも、是非とも観較べてみたいハードな作品で有った。