おぞましき「美」。

寒い…そして時差ボケが全く取れない。

そんな中、昨日はオフィスにメール・チェックに出掛けた序でに、「メゾン・エルメス8階フォーラム」で開催中の、山口晃の展覧会を観に行った。

今回の展覧会は「望郷(TOKIO RIMIX)」と題されているが、エレベーターを降りて先ず眼に飛び込むのが、「忘れじの電柱」と名付けられた、如何にも「昭和」な巨大電柱に、これも「昭和」っぽい便器等を取り付けた、「何処から入れたんだ?」的な大規模なインスタレーションで有る。

お次に控えしは、作家自身のエスキースが壁に掛かった、これまた由緒正しく「昭和の日本」な事務所自体を「斜めに傾かせた」インスタレーション作品「正しい、しかし間違えている」、そしてまるで雪舟の「山水長巻」や鍬形惠斎の「江戸鳥瞰図」を思わせる、屏風仕立ての絵画作品「Tokio山水(東京圖2012)」の計3点が展示されている。

高級ブランド「エルメス」内に仕込まれたこそ「昭和な東京」をより味わえる、軽いタッチの、そしてノスタルジックな展覧会で有った。

さて筆者は、実は今日から「人間ドック」入りで有る。

何でそんな事を急に云い出したかと云うと、銀座エルメスを出た後に、或る意味「『人間ドック』に相応しい」展覧会(笑)に行って来たからだ。

その展覧会とは、横浜美術館で開催中の「松井冬子展 世界中の子と友達になれる」。

久々の横浜美術館…それなりに混雑していた会場に着き、先ず驚いたのは、何しろ入場者の大半が女性だった事と、しかもその殆どが10代後半から20代に掛けての、若い女の子達だった事だ。

松井冬子と云えば、業界では「美人」現代日本画家の代名詞に為っているが、彼女の描き出す絵画は、そのタイトルからして難解で、何の予備知識も無しに観れば、大概の人は、昨日展覧会場でいみじくも見掛けた中年夫婦の様に、絵を観る度に深い溜め息を吐き俯くのが、普通では無いだろうか。

其れにも関わらず、松井の絵画がこれだけ若い女性を惹き付ける理由は、彼女の描くアートが、現代の若い女性の肉体的、生理的且つ心理的な「イマジネーション」や「性(さが)」をストレートに、正直に、そして赤裸々に描いて居るからなのだろう。

朽ちて行く肉体、はみ出た臓器、長い黒髪、幽霊、狂犬…考えてみれば松井の描く、微に入り細に入る、そして時折恐ろしい迄の迫力とエロティシズムを持って観者に迫る全てのモティーフは、恰も少女が恐怖の余り両手で眼を覆いながらも、思わずその指々の隙間から観たくなってしまう様な、怖いもの見たさ的「誘惑」に満ちた、「おぞましき美」を持つ物達ばかりでは無いか!

確かに「グロテスクさ」に潜在する「美」は、人を妖しく惹き付ける…しかしその「美」を見据えるには、「苦痛」が伴う。

「おぞましき美」を描き続ける女性作家、そして彼女の絵画を列を成して観る若い女性達…「女性は男性よりも遥かに『苦痛』に強い」と昔から謂われる事実を、目の当たりにした展覧会で有った。

痛みに大層弱い筆者…「ドック」で「腑分」されねば良いが…(笑)。