最悪の展覧会?

超ハード・スケジュールだった日本出張も、そろそろ終わり。

前回此処で記した、連夜のレセプションを含む4日間の「クリスティーズ・ジャパン・オフィス『40周年展覧会』」も無事に終了したが、その最終日の終了間際、現代美術家山口晃氏が駆け込み乗車的に、下見会に間に合った!

それは、最近筆者が読了した氏の近著「ヘンな日本美術史」の中で氏が触れて居た、河鍋暁斎の代表作「大和美人図」を今回展示する事に為ったので、是非ともこの機会に観て頂きたい旨をミヅマアートギャラリーに知らせて居たからなのだが、下見会ならではの至近距離で一心不乱に観て頂いた山口氏の姿に、ホッと一息。

さて、アート中毒のもう一人の同名氏は、今回のたった5日間の日本滞在中の激流の如きスケジュールの中でも、仕事の合間を縫って、幾つかの全く異なる分野の展覧会やレセプションに顔を出して来たので、今日はその事を。

先ずは、以前此処でも記した、菊池寛実記念智美術館美術館で開催中の「三輪壽雪・休雪ー破格の創造」展の内覧会。

本展は、十二代三輪休雪とその父である三輪壽雪の作品を展示するが、実質的には休雪の回顧展と云っても過言では無い。迫力有る壽雪の「鬼萩割高台茶碗」や、休雪の「ハイヒール」や「卑弥呼の書」、最新シリーズの「龍人伝説」、また両作家の個性的な書迄、其処に展示された52点の作品は、萩焼三輪窯の二代に亘る「造形の歴史」を端的に紹介する。

会場には林屋晴三館長を始め、多くの学者やコレクター、ディーラーが集まり、知った方々も多く華やかな雰囲気だったが、力強い展示作品の数々が、そう云った観者達に伝統的陶芸の歴史と未来を見せた上で一考を促す、「智美術館開館10周年記念展」に相応しい必見の展覧会で有る。

次に訪れたのは、YUKA TSURUNOで開催された、現代美術家流麻二果の2年振りの個展と為った、「可視線 Visible Edge」のオープニング。

この展覧会で流は、今迄の自身の大きなテーマで有った「他人への視線」が、3・11後の東北での仕事を境に「風景への視線」へと変化したその結果を、其処に視た不安を媒介とした10点の絵画のインスタレーションに拠って表現する。

作家の名前の通り、流れる様な美しい構図と繊細な色遣いの、美しい絵画インスタレーションを堪能しながら、レセプションで会った「ニューヨーク繋がり」の友人達との歓談も楽しい一時で有った。

そして3つ目は、目利き古美術商「ロンドン・ギャラリー」の「小さき 愛らしきもの」展…が、ハッキリ云って、これがまた信じられない展覧会だったのだ…。

「美術品の持つ『凄さ』とは、決して『大きさ』や迫力だけでは無い」

そんな事は分かり切った事だが、この展覧会で展示されている作品達は、その事を改めて確認させてくれる程、小さく美しく、そして何よりも超高品質で有る。だが、この素晴らしい展覧にも個人的に「最悪な事」が有って、それは何処かと云うと、何しろ「欲しくなってしまう」事なのだ(笑)!

中でも、例えばズングリ・ムッチリ系の平安期の金銅如来立像(9.9cm.)や、これも平安の一寸茸の笠の様な四角形の蓋を持つカワイイ経筒(15cm.)、鎌倉期の厨子如意輪観音菩薩坐像(像高7.1cm.)や元興寺仏(6cm.)、李朝鉄砂龍文扁壺(8.3cm.)や元時代の梅花形螺鈿香合(径6.7cm.)等、欲しいと思った物は、もう枚挙に暇が無い…ウウム、財布が軽い者に取っては、全く以て酷な話では無いか!(笑)

これ程「悪魔の購入欲」を起こさせる展覧会も無いが、それも全てこの「ロン・ギャラ」田島氏父子の「眼の為せる技」…そしてこの「技」の凄さを知らしめて余り有るのが、この晩呈された天現寺「青草か」の「蟹」と、今回の展覧会内容を体現している小さめの、しかし美し過ぎる図録だろう。

そして懐の寒い筆者は、嘗て禅僧が空腹を抑える為に暖かい石を懐に抱いた様に、この「小さき 愛らしき」、可愛い図録をムッチリとした胸に抱き締め、美しくも素晴らしいこの「最悪の展覧会」を後にしたのだった。

その夜は、現代美術家S氏とギャラリストK女史、ニューヨーク「三大『KY』」の内の2人、即ちギャラリストY氏と筆者の4人で、筆者と同名の何とも有難い名前の寿司屋で美味しいお寿司を頂き、その後は、ドアを開けた瞬間、一瞬の内に昭和40年代にタイム・スリップして仕舞う「昭和スナック」で、カラオケ三昧。

「コーヒー・ルンバ」や「王将」、「なみだの操」(殿キン!)や「月光仮面」、「ハイそれまでヨ」(植木!)等を、レトロなチューリップ型ライトの下で歌ったが、次回迄にはきっと、この「ハイそれまでヨ」の「『骨董』版替え歌ヴァージョン」が完成しているに違いない(笑)。

しかし、それに付けても頭を過るのは、最高だった「最悪の展覧会」の名品の数々(笑)…ぐぉ〜、欲しいっ…欲し過ぎる!

と、筆者が今地団駄を踏んで居るのは、成田のラウンジ…今から再び、零下の街ニューヨークに帰る。


ー筆者に拠るレクチャーの開催告知ー

日時:2013年2月9日(土)午後3時半-5時
場所:朝日カルチャーセンター新宿
講演タイトル:「渋谷の『白隠』と海を渡った『白隠』」
講座サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=188251&userflg=0
展覧会サイト:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_hakuin.html

奮ってご参加下さい!