「魔術師」達の夜は更けて。

天皇陛下の手術が、無事成功したとの事。

陛下に措かれましては、これを期にしっかりとお休みになられ、近い将来、そのお元気なお姿を我ら国民にお見せ頂ける様、心よりお祈りする次第である。

さて、こちらの健康状態はと云うと、無事「腑分」もされず(笑)、一泊人間ドックを終了。

上値を超えるのは「落札価格」だけにして欲しいモノだが(笑)、徹底的な血液検査では、今回「も」コレステロールが上値をワン・ビッド超え、毎年リフレインされる台詞、

「桂屋さん、来年迄頑張って、最低3kg落としましょうね!」

を内科の医師に云われ、イラッとする。

また水虫等をチェックした、「皮膚科」の若く可愛い女医さんは、筆者の顔をマジマジと観、何か恥ずかしそうな感じでモジモジして居るので、

「お嬢さん、俺に惚れちゃあいけねえぜ…ふっ!」

等と思いながら、彼女の瞳を眩しそうに見詰め返していたら、筆者の眼を見詰めていた彼女は、その視線を徐々に上方に移動させ止めると、こう宣った。

「あのぅ…桂屋さん、はっきり云います。『生え際』がかなり後退して来てますねぇ。最近ウチの皮膚科では、男性の為の『脱毛治療』をやっていて、良いクスリと通院で大分改善されると思いますよ!」

「くぉらぁ、何じゃあ?ふざけんな!俺の『生え際』問題に触れるんじやねぇ…全く余計なお世話なんだよ!」

と、数秒前のロマンティックな気分はぶっ飛び、可愛い女医を怒鳴り付け…ようと思ったが、「ん…?クスリ?」と女医の言葉を思い出して気を落ち着け、その「クスリ」のパンフレットを貰って待合室に戻って来た。

そのパンフレットを読むと、ハッキリとは書いて居ないが、「この薬は女性には効きません」、「前立腺に問題が有る方は、医師に相談して下さい」等と有るので、どうも「女性ホルモン」を多く含んでいるらしい。そして錠剤なので、所謂塗るタイプの「毛生え薬」では無いらしいのだ…しかし、「ハゲ」は何時から病院で治療する「病気」に為ったのだろう?

その日それから受けた、毎年恒例の大腸内視鏡検査(拙ダイアリー:「『自己体内で観るアート』?」参照)中も、肛門からの内視鏡が腸内を蠢く快感、もとい、苦痛を忘れる為に、モニターに映し出される美しくも儚い自身の腸内をボンヤリと眺めながら、「生え際」を復活させる事が出来ると云う、その「夢のクスリ」の事を考えて居た。

しかし、検査が終わり鎮静剤が切れる頃、或る事に気付いた。

待てよ…女性ホルモンが多いと云うからには、この「夢のクスリ」を飲み続けると、ワタシの「生え際」に新たなる小さな細い命が芽生えるかも知れないが、只でさえ鳩胸なのにこれ以上胸が出て来たり、只でさえガチムチなのにこれ以上体が円みを帯びて来てしまったら、「生え際」処の話では無くなるのでは無かろうか?

そして昨晩、人間ドックの帰りに、嘗て良く通った焼鳥と鰻、そして気の良いオバチャンの居る銀座の店「M」で久し振りに食事をした時、20年来の友人でも有る若手(ったって、もう全員40代だが…)古美術商2人にこの話をしたら、お互いがお互いの「生え際」を三つ巴に眺めた末に出した結論は、

「男には『生え際』よりも大事な事が有る…それは『男らしさ』だ!『生え際』の後退こそ、男としての勲章である!」

で有った(涙)。

眉毛から「生え際」迄の面積が、顔の粗三分の一を占める筆者とN君、それよりはほんの少しマシなK君の、我ら「『生え際』の魔術師」(若い人は「塀際の魔術師」こと、元阪急ブレーブス盗塁王福本豊も知らないだろうが)達の夜は、こうして更けて行ったので有る。

同病相憐れむ、では無い…決して無い…決して…(笑)。