「十字軍戦士」達の帰還。

東京で桜が開花し、中国では習近平氏が国家主席と為り、ヴァティカンには「ポープ・フランシス I」(日本では「フランシスコ1世」)が誕生した。

教皇はアルゼンチン人だが、欧州以外からの教皇はシリア出身のグレゴリウス3世以来1300年振りだそうで、アメリカ大陸からは初めて。今回、個人的には何気にアジアからの新教皇を期待していたのだが、近い将来フィリピンや韓国出身の教皇も可能性が出て来るだろう。

さて、未だに最低気温はマイナスのニューヨークの筆者はと云うと、昨日から愈々下見会が始まった。

初日だと云うのに朝から大忙しで、アメリカ・日本・ヨーロッパからの有力コレクター・美術館・業者が軒並み訪れ、嬉しい悲鳴を上げる。ランチタイムは、日本美術の或る分野の大コレクターと近い将来のビジネスに就いて議論を交わし、夜は夜でグッゲンハイム美術館での「Asian Art Week」のキック・オフ・レセプションに出席…もう初日から、クタクタだ。

そして今日のダイアリーは、話がドンドン遡る(笑)。

一昨日は下見会のセッティングが無事終了…マジにクールな展示なので、是非観に来て頂きたいのだが(下見会は、来週火曜日の2時迄)、その後はプレス・ヴューイングと、突然現れた超VIP顧客への作品紹介を済ませ、夜は日本から居らした作家S氏ご夫妻とのディナーを、ロウワー・イーストサイドの中華「F」で。

今回のディナー・メンバーはS氏ご夫妻の他に、最近ミッドタウン・イーストに移り、リニューアル・オープンした和食店「嘉日」のK社長と一保堂茶舗のW専務(前回のダイアリー参照)、A姫&P王子のカップル、M女史とライターD夫妻、そして我ら地獄夫婦の豪華キャスト!

ロウワー・イーストサイドの中華「F」に集合し、早速この店は4年振りと云うS氏のメニュー選択で、激ウマのアサリのトムヤン風スープやミル貝、鴨舌、三枚肉、魚等をたらふく頂き、その後はA姫のエリザベス宮殿に移動。

着いてみると、玄関前には「Happy Birthday」の横断幕、そして皆が隠し持っていたオモチャ笛等を鳴らして、つい先日誕生日を迎えられたS氏の為の「サプライズ・バースデー・パーティー」を決行したのだった!

宮殿内では、中華を食った食後だと云うのにP王子厳選のワインとチーズ、プロシュート等を堪能してしまったのだが、S氏が「アイズ・ワイド・シャット」化し、以前出演した映画の登場人物の様に為った頃、〆に海老蔵似の天才パティシエKさんが作った、ハンサムな似顔絵付きの「ピスタチオ・ケーキ」が運ばれ、祝福タイム&撮影会と為った…筈だったが、そこで大事件が起きてしまったのだ!

そしてこの事件の事は、「KGB」が関わっている可能性も有り(笑)、色々と問題が有るので此処に詳しく書けないのだが、何しろ溜息と爆笑、そして「結果オーライ」だった事だけを記して置きたい(笑)。

以上、全く以ってイヴェント・事件目白押しの今週だったのだが、今日のダイアリーのメイン・イヴェントは それらとは別で、それは「『十字軍戦士』達の帰還」の話…しかし「十字軍戦士」と云っても、エルサレム奪還の為に送られた聖戦の戦士達の事では無く、この間の日曜の夜に「ブルー・ノート」で観た、「ジャズ・クルセイダース」の事だ!

ご存知クルセイダースは、テキサス出身のウェイン・ヘンダーソントロンボーン)、ウィルトン・フェルダー(テナー・サックス)、スティックス・フーパー(ドラムス)、そしてジョー・サンプル(ピアノ・キーボード)が1961年に結成したジャズ・フュージョン・グループ。

70年代ー80年代初頭は、ウェザー・リポートやスタッフ、スパイロ・ジャイラ等と共にフュージョン/クロス・オーヴァーの旗手として大活躍したが、1991年に解散、2002年よりウェイン、ウィルトン、ジョー、スティックスに拠って「ジャズ・クルセイダース」が再結成されたが、今回のギグではドラムスにジョエル・テイラー、ジョーの息子ニックがベースを担当する。

ウェイン、ウィルトン、ジョーは3人とも小学校時代の同級生で、以来60年に渡り一緒に付いたり離れたり、プレイしたりしている訳だが、演奏の合間に語られるウェインやジョーの「昔話」は真に面白く(結局ウィルトンだけは、唯の一言も喋らなかったが…)、例えば最初のPOPチャートでの大ヒット曲「Pass the Plate」は、何とラジオのDJが語る「天気予報」中に掛けられて居た曲だったと云う話や、ローリング・ストーンズアメリカ・ツアーの前座をやった時の話(当時アメリカでは、黒人アーティストがストーンズビートルズ等白人スターの前座としてプレイする事に為っていて、スティーヴィー・ワンダーやプリンスもストーンズの前座を務めた事が有る)等、聞いていて飽きないが、しかし老人の所為なのか、一寸喋り過ぎの嫌いも有る(笑)。

そして、ウェインは杖を衝いて歩くのも大変で、プレイは座った侭、ウィルトンも一寸元気が無く、唯一ジョーだけが3年前に同じブルー・ノートでのトリオ演奏を観た時と変わらず元気そうだったが(拙ダイアリー:「これぞ『ジャズ』!:JOE SAMPLE TRIO@BLUE NOTE」参照)、しかしそれでも3年前に比べてかなり老けて居て、何処か「老人会」を思わせた(笑)。

が、それでも彼等が開演後暫くして演奏した切ないバラードや、筆者が始めてクルセイダースを知り大ファンに為った、老舗中の老舗のライヴ・ハウス「Roxy」でライヴ録音した大名盤、「スクラッチ」に収録されているファンキーな名曲「ハード・タイムス」を演奏した時等は、「こいつ等、半世紀以上も一緒にやったり、喧嘩別れしたりして、さぞかし色々有ったんだろうなぁ」等と考えてしまい、不覚にも涙ぐんでしまった…一流グループのミュージシャン達が背負って来た「歴史」とは、きっとそう云う物なのだろう。

正直、今回の彼等のパフォーマンスに過度の期待をして行った訳では無い。だが彼らの年齢を考えると、「今度」はもう無いかも知れないと思ったからで、もうそんな悲しい経験はジェームズ・ブラウンロバート・パーマーで十分だからだ。

60年と云う年月を培った、「十字軍戦士」達の帰還…この孫一、確かに見届けさせて貰いました!

オークション迄、後4日…そして「辛抱」も後4日で有る。