日本の「原風景」再発見。

風邪らしく、咳が出て喉も痛い。

街では茶番劇の末、猪瀬都知事が滔々辞任した。しかしこれで「責任」から逃れられた訳では決して無く、徳洲会マネーに関する捜査が始まるだろうし、石原慎太郎自民党もうかうかして居られ無く為るのでは無いか。都知事選は2月との事…某元芸人だけは勘弁、で有る。

そしてこの忙しい年の瀬に、吃驚するニュースが…!渋谷区松濤に在る観世能楽堂が売却され、銀座の松坂屋跡地に出来る複合ビルの1階に移転し、そして松濤の跡地はビッグ・カメラの手に拠る「迎賓館」(!)に為ると云う。

天下の観世流が…との思いが強いが、手を差し伸べるパトロンも誰も居なかったのだろうか?寂しい感じが否めないが、宝生、金剛(京都)、喜多の各流派は未だ独自の一軒家の能楽堂を持つ事を考えると、或る意味時代の「先鞭」を付けたとも云えるかも知れない。

そんな中、元観世流能楽師のマヨンセが漸く来日したが、その晩はかいちやうのお茶にお呼ばれ。

最近入手した茶碗を引っ提げ、アーティストやクリエイター等総勢7人の集う燭台の灯された茶席に入ると、今年最後のかいちやうの濃茶を素晴らしい青磁茶碗で頂き、コレクターA氏の持って来た黒楽と筆者の茶碗でも一服頂く(因みにこの二碗は、同じ「置屋」出身で有る:笑)。

我が家で愛おしんで居た茶碗も、この茶室で見ると、そしてかいちやうの手で点てられると、一段と良く見える上に、味も当然美味しく為り感動する。その後近所の中華料理店での食事会を経て、A氏と再びかいちゃう宅に戻ると、お互いの茶碗を交換して再び一服、かいちやうと3人で夜中迄お茶や古美術に関する四方山話…「忙中閑有り」な、幸せなひと時と為った。

そして翌晩は寒空の下、日本、パリ、ニューヨーク、マリ共和国(アフリカ)を結ぶ、文学、アート、ジャズ、ファッション、文化人類学各分野の友人達7人が集まり、某ホテルの中華料理店での忘年会。

猪瀬「前」都知事安倍総理、プーさん(ジャズ・ピアニスト菊地雅章氏)、呪い、ホレス・シルバーの死の真偽(実はガセだったらしい)、一夫多妻制から「バンバラ語」(笑)迄飛び出る展開だったが、盆暮恒例に為ったこの会も、作家夫妻の2歳になった女の子と3ヶ月前に誕生した男の子を加え、「やっぱり、『生きてる』ってイイなぁ」と熟く感じる、暖かい夜と為った。

と云う事で、此処からが本題…千葉市美術館で開催中の「川瀬巴水展ー郷愁の日本風景」に行って来た。

川瀬巴水と筆者の関わりは、意外と深い。それは、巴水の版元だった渡辺木版画舗の渡辺家との長いお付き合いや、嘗てのTV「美の巨人たち」巴水特集への出演、個人的理由に拠って集めて居る巴水版画の某シリーズ…が、何よりも在外では最大の巴水コレクターでクライアント、そして個人的にも家族ぐるみで親しいRの存在に拠る。

Rの事は、此処にも何度か記したが(拙ダイアリー:「90年後の記念撮影」「『大ボケ』と、Rの講演@国際浮世絵学会」参照)、脚本家、そしてディレクター/プロデューサーで有るRの最新作はジャン・レノ主演の刑事ドラマで、全世界20カ国以上にディストリビュートされて居る。

そのRの巴水コレクションが、再来年ヴァージニア美術館で開催される事も有って、勉強の為に出掛けた千葉市美術館で開催中の巴水展だったのだが、実に美しい展覧会で有った!

展示は、巴水が版画を手掛け始めた大正7(1918)年の作品から絶筆の昭和32(1957)年作「平泉金色堂」迄、作品がクロノロジカルに並ぶが、価格の事は差し置いても、矢張り「震災前」に素晴らしい作品が多い様に思う(関東大震災で版木が焼失したので、震災前の作品の方が相当高い)。

その中でも、大正8年に刊行された「旅みやげ第一集」中の「十和田湖千丈幕」、「仙台山の寺」や「しほ原雄飛の滝」、同年「東京十二題」内の大好きな「駒形河岸」、大正10年刊行の「旅みやげ第二集」の「雪の橋立」や「冬の嵐峽」、「越後のうら浜」等は、構図・色使い、摺り共に本当に素晴らしい。

勿論展示されて居る「震災後」の作品にも、巴水の真骨頂で有る「雨景」や「雪景」を中心に秀作が有るし、その上本展には付属展として、館蔵の「渡邊版ー新版画の精華」が開催されて居り、伊東深水や橋口五葉のみ為らず、フリッツ・カペラリ(オーストリア)やチャールズ・バートレット(英国)、エリザベス・キース(英国)等の、渡邊木版画舖を舞台に制作出版した外国人版画家の作品も観る事が出来て、非常に嬉しい。

さて「日本の『原風景』とは何か?」と聞かれ、「自然」と云う答えに異議を申し立てる申し立てる者は居ないだろう。

川瀬巴水の版画は、当時の日本人の日常生活を通して、外国人版画家迄をも魅了したそんな日本の良き時代の良き美しき自然を忘れつつ有る我々現代日本人に、「原風景」を思い出させ…いや、再発見させて呉れるので有る。

この「リディスカヴァリー」のチャンスは、来月19日迄…年末年始に如何だろう?