「物語絵」と「肖像画」@メトロポリタン美術館。

今日は「3・11」。

あれから1年…その間本当に色々な事を考えたが、結局「死者」を弔う事も大事だが、より大事な事は「生者」の事を考える事だ、との結論に達した。

「死んでしまった者」より「生きている者」の方が大事と云うと、誤解を生むかも知れないが、しかし、つい先日父親を亡くした者がそう確信しているのだから、仕方が無い。

つまり、「人災」で有る原発の問題を直ちに解決しなければ、幾ら「あの日を忘れない」と涙を流し過去を悔いても、母であり鬼である「自然」は決して待ってはくれず、明日、いや1分後に起こるかも知れない新たな「天災」に因って齎されるかも知れない、今「生きている者」の死は防げないのだから…。

だから個人的には、一刻の猶予も無い「生者」の命を救う事だけを、1分1秒考えて行きたい…あれから1年経って筆者に云える事は、只それだけで有る。


「一大事と申すは今日只今の心也」
「動中の工夫は静中に勝る事百千億倍」


さて一昨日の土曜日は、時差ボケを利用して早朝3時半頃から御伽草子や金銅仏、室町絵画等に就いての調べ物をし、午後からはメトロポリタン美術館に赴いて、「日本美術ギャラリー・ツアー」を行った。

このツアーは、筆者が日本クラブで持つカルチャー講座の一企画なのだが、その目的は、METの様な海外の超一流美術館が如何に日本美術を収集し、保存して居るかを知り、またその一級品の収蔵品を実際に観る事に拠って、海外に居ながらにして日本美術や日本文化を学び、受講者が日本に帰国した際、更に深く勉強して頂く為の「準備」的意味合いを持たせて居る。今回のツアー参加者は、都合13名…皆さん熱心に収蔵品を観覧、レクチャーを聴いて頂いた。

今回ツアーした日本美術ギャラリーでは、現在「Storytelling in Japanese Art」(「日本美術に於ける物語」)と題された展覧会が開催されて居るが、この展覧会は、もうすぐ定年退職されるMETの日本美術担当学芸員、渡辺雅子さんの最後の企画展で、MET所蔵作品のみならず、全米各地の美術館や有名個人コレクターからの出展も多い。

その上、出品作のクオリティもかなり素晴らしく、古くは平安末の個人蔵「鳥獣戯画絵巻断簡」から、MET所蔵鎌倉期の重要作品「北野天神縁起」や出光美術館旧蔵・現MET蔵の室町期「秋の夜長物語」、江戸期の「大職冠」等の絵巻物、麻布美術工芸館旧蔵で現個人蔵の「一ノ谷・屋島合戦図」等の屏風絵、御伽草子や奈良絵本も揃い、何しろ見応え充分の展覧会と為っている…流石、竹取物語源氏物語等の「物語絵」を専門とされる雅子さん、面目躍如で有る!

そして、特に今回出展されている絵巻物を観ると、それらが伊達に「アニメの原型」と云われていない事が容易に判るし、我々日本人の想像を絶するイマジネーションが、少なくとも12世紀から、ゴジラスター・ウォーズアバターレクター博士シリアル・キラーやゲイ・カルチャー迄をもカヴァーしている事に、驚きを禁じ得ないのだ。

そしてこの日、今METで開催中のずっと観たかったもう1つの展覧会、「The Renaissance Portrait from Donatello to Bellini」を観る事が出来た。

この展覧会も、これまた凄い…ピエロ・デルラ・フランチェスカの如き「プロファイル」を描く、フローレンス派の画家や美しきボッティチェルリ、ベリーニや驚愕の「ロレンツォ・ディ・メディチデスマスクのキャスト」等、もう涎物揃いのラインナップだが、個人的にはやはり、ハンス・メムリンクとピサネーロ、ヴァン・デル・ワイデンの作品に尽きる。

この「ルネッサンス肖像画:ドナテッロからベリーニ迄」展は今月18日で終了してしまうので、「日本の物語絵」(こちらは5月6日迄)共々、是非とも観て頂きたい。

特に現代美術関係者に取っては、数百年前に日欧で創られた「当時の現代美術」が、今以て全く古びていない処か、そこいらの現代美術よりも新鮮で、より「現代的」で有る事に気付かされる良いチャンスだと思う。

しかし、判っちゃあ居るが、METとは何とスゴい美術館なのだろうか…(嘆息)。