「ウディ・アレン」と「ラフマニノフ」に就いての話。

一昨日、ニューヨークに戻って来たのだが、TVを見て居て驚いたニュースが有った。

それは、1969年の女優シャロン・テートロマン・ポランスキー監督夫人)殺人事件の犯人、チャールズ・マンソンの「保釈申請」が却下された、と云う物だった。

筆者が驚いた理由は単純で、40年以上も前に、テートを含む5人を殺した罪(殺人・共謀罪)で服役したカルト教祖のマンソン等、とっくの昔に死刑に為ったと勝手に思い込んで居たからだ。

ニュースに拠ると、1972年にカリフォルニア州での死刑が一時的に廃止に為った際、マンソンの刑は死刑から無期懲役減刑されたらしい。

彼は今77歳…未だに「反省」の色が見えない為に、今回も保釈却下に為ったらしいが、次の保釈請求が出来るのは15年後と云う事だから、この歴史に残るカルト殺人犯が娑婆に出て来る事は無くなったと云って良いので無かろうか。

ヘルター・スケルター」(岡崎京子の漫画の事ではない…これはマンソンに多大な影響を与えたと云われる、ビートルズの曲の事だ。そして1976年アメリカ制作の同名映画は、マジ怖かった)は、未だ健在であったのだ。

と云う事で今日は、治った様な、治って居ない様な時差ボケに頭をボーッとさせながらも、ガラガラのANAのビジネス・クラスで過ごした12時間一寸のフライトの間に出会った、2つのアートを紹介したい。

先ずは、そもそもそんなに好きな映像作家でも無いのだが(彼の作品は、何故か野田秀樹の舞台を思い出させるのだ…)、最近の2作品「恋するバルセロナ」と「マッチ・ポイント」は面白かった、ウディ・アレンの新作。

此処ニューヨークでも、高い評価を耳にして居たにも関わらず観れずに居た、第84回アカデミー賞脚本賞受賞作「ミッドナイト・イン・パリ」で有る。

内容は、アレンお得意の「大人のロマンティック&ファンタジック・コメディ」。内容は、パリに住む事と小説家に為る事を目指している主人公のハリウッド脚本家が、婚約者とその家族と共にパリに遊びに来る。

が、「超アメリカン」で「共和党支持」な(笑)婚約者家族は、芸術的豊饒の街で有った1920年代のパリをこよなく愛する主人公とは、何もかもが噛み合わない。

或る晩、婚約者と大喧嘩をした主人公が真夜中のパリの街を1人で彷徨って居ると、クラシックなタクシーが止まり、それに乗り込んだ主人公を迎えたのは、何とゼルダ&スコット・フィッツジェラルド夫妻で、其処から主人公の毎晩の「Time traveler's life in Paris in 1920's」が始まる。

「『世界芸術史』に於ける最高の時代と場所」に登場するアーティスト達は真に魅力的で、夜毎主人公が出会い語るフィッツジェラルドヘミングウェイ、T.S.エリオット等の文学者達を始め、ガートルード・スタインピカソ、ダリ、マティス、ジョセフィン・ベーカーやコール・ポーターマン・レイルイス・ブニュエル等のアートの「スーパー・スター」達の言動は、20年代のパリが如何なるアートに於いても、パワフルでアヴァンガルドだったかを観る者に納得させる…この頃のパリとは、当に「芸術的前衛的才能の都」なのだ!

そして主人公は、夜毎の20年代での経験を経て、今の自分に最も必要なモノに気付くと云う、有りがちで単純なストーリーなのだが、俳優はと云うと、エイドリアン・ブロディ扮する「ダリ」の演技も笑えるが、特筆すべきはピカソからヘミングウェイに乗り換える奔放な愛人、主人公が恋に落ちるアドリアナ役の、マリオン・コティヤールだ。

何しろ彼女は余りに可愛く魅力的で、筆者ですら「もう、何でも我儘聞いちゃいます!」な勢いで堪らない…あぁ、「Vive la belle Française !」(「フランス美女万歳!」)で有る(笑)。

そして「もう1つのアート」は、クラウディオ・アバドベルリン・フィルを2002年に辞した後に結成した、「ルツェルン祝祭管弦楽団」に拠る2008年のライヴ・コンサート・ドキュメンタリー・フィルム、「シネ響6:クラウディオ・アバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団」。

ストラヴィンスキーの「火の鳥」や、チャイコフスキーの「テンペスト」等の演目の中でも大好きだったのが、恐らく現存する女性ピアニストでも有数の美女、エレーヌ・グリモーをフィーチャーした、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」で有った。

先ず、ロマンティック極まりないラフマニノフと云う作曲家が最高で、筆者の「オール・タイム・ベスト・コンポーザーズ」のベスト5に入る。そして彼の作品中でも、この「ピアノ・コンチェルト第2番」は、ミーハーだの「第3番の方が素晴らしい」だの云われても、これ程美しい旋律を持ちながら、たった1台でオーケストレーションを実現する「ピアノ」と云う楽器の特性を生かした曲も無く、文句無く筆者の、今度は好きなクラシック・ピアノ曲の3本の指に入る曲なのだ。

子供の頃からピアノを噛っていた筆者は、カラヤン指揮・ベルリン・フィルとワイセンベルグ(しかし昨年亡くなったアレクシス・ワイセンベルグは、本物の天才で有った!)のレコードを聴いて以来、ラフマニノフとこの曲が大好きに為った訳だが、ではこの曲を何れ位好きかと云うと、何しろピアノもオーケストラのパートも、最初から最後迄全て「空」で歌える位なので有る(笑)。

しかも演奏するのが、ラフマニノフを得意とする「愛しのエレーヌ」と為ると、これはもう堪らない…。

撮影当時グリモーは39歳の筈だが、相変わらずのナチュラルな美貌で、演奏中の真剣な表情と、演奏後の緊張の解けた笑顔の両方共に美しい。そしてこの情熱的な曲がグリモーとダブり、彼女もこの曲の「第3楽章」の様に情熱的なのでは無いか?、等と想像してしまう…これだから「フランス美人」は、世界遺産的に素晴らしい(笑)。

うーむ、ウディ・アレンラフマニノフを語る筈が、結局コティヤールとグリモーへの「フランス美人讃歌」に為ってしまった様な…。

まぁ、ワタクシらしくて良いか(笑)。