2時間睡眠後の「2人の女」、そして「日本文化存亡の危機」。

一昨日、ハッキリしない天気の日本に来た。

この「ハッキリしない」感は、何も天気に限った事では無く、此処何年か日本に来る毎に感じる、特有の感覚なのだが…一体何なのだろう?

さて、この日のANAのビジネス・クラスは意外と混んで居たが、以前と何処と無く雰囲気が異なって居る気がして、理由を良く考えると、成る程客に外国人がかなり増えた事だった。ANAが外国人客を取り込む為に、今どんなプロモーションをしているのか、興味深い。

そして今回の機内エンターテイメントのラインナップも中々良くて、最近気に為っていた映画2作品を観る事が出来た。

先ずは、作品賞を含め今年のアカデミー賞5部門を受賞した、ジャン・アザナヴィシウス監督のフランス制作映画、「The Artist」。
この作品はご存知の通り「サイレント」だが、その奇を狙った作風だけで賞を総嘗めにした訳では無い…そしてその事は、この作品を見終われば、誰もが納得する。何故なら、主演のジャン・デュジャルダンベレニス・ベジョ、そして犬のアギーの素晴らしい演技と、脚本の完成度の高さが並大抵では無いからだ。

トーキー黎明期のノスタルジーだけでは無い、デボラ・カーの「めぐり逢い」を思わせる捻った箇所も有る脚本、そしてデュジャルダンもかなり上手い役者だと思うが、それにも況してベジョの余りにも可愛く溌剌とした美しさと、甲斐甲斐しい「出来た女」の演技が、ワタクシの「フランス美女讃歌」を限り無く助長させる(笑)…「映画」を愛する者には購え無い、堪らない作品で有る。

そしてもう1作は、「The Iron Lady(邦題:鉄の女の涙)」。

此方は、メリル・ストリープアカデミー賞主演女優賞受賞作品。タイトル通り元英国首相マーガレット・サッチャーの半生を描く作品だが、この作品のスゴさは、確かにストリープの恐るべき演技力に尽きる。

が、本作に於ける彼女の演技力とは、伝記映画に良く有る「ソックリにメイクし、その人に為り切る」と云う「真似事」だけでは無く、彼女が扮した女性が喩え「マーガレット・サッチャー」では無く、何処かの1人の無名の女性だったとしても、十分に感動的な演技なので有る…メリル・ストリープとは、何と凄い女優なのだろう!

そんな素晴らしい、2人の全く異なるタイプの女性を堪能したフライトは、何と30分も早く成田に到着し、ここぞとばかりダッシュで神保町の自宅に戻ると、約束していた現代美術家S氏の「割烹」にお邪魔し、ご亭主と新素材研究所の建築家S氏と呑みながらの打ち合わせ。

眠い眼を擦り擦り行ったこの打ち合わせも、美味しいツマミと示唆深い会話に眼も覚め、皆で「日本文化衰退の危機」や「キャピタリズム・アート」等に就いて熱く語る。

その後、そのアーティストS氏の作品が掛かる青山のカッコ良いバーに繰り出すと、偶然にも美術ライターのF氏が友人と居て、合流し5人で呑む事に。

「出来た女」と「鉄の女」、或いはベジョとストリープ…そして「日本文化存亡の危機」に彩られた1日は、2時間睡眠後の筆者の眼を、漸く夜中前に閉じさせたのでした…。