彷徨える「パンケーキ人」の喩え。

円がおよそ4年振りに一時99円台を記録し、「鉄の女」が逝った。

マーガレット・サッチャー、享年87歳…英国を再生させた「鉄の女」は、最近メリル・ストリープに拠って好演されたが(拙ダイアリー:「2時間睡眠後の『2人の女』、そして『日本文化存亡の危機』」参照)、実は桂屋家は長年大のサッチャー贔屓だった。

それは亡き父が生前偶に語って居た良き想い出話の1つに、サッチャーが来日した折、父の企画した浮世絵の展覧会を彼女が訪れたのだが、その時父がサッチャーに作品に就いてサシで色々と説明した話が有ったからで、父はそれを名誉に思うと共に、「首相は非常に聡明で明るく、好奇心旺盛で、『鉄の女』と云った冷たい感じでは全く無かった」と良く云って居た物だ。

今の日本に、彼女の様な女性リーダーが居れば本当に良いと思う…筆者に取ってのその理想の女性リーダー像とは「緒方貞子」氏なのだが、見識・経験有る断固とした女性が早く政界に出て来て欲しい。

そんなこんなで、漸くニューヨークも暖かく為って来たが、それに付けても先週末の「SNL」は凄かった!

ご存知「SNL(Saturday Night Live)」は、時事的且つ風刺的なコント(「プレジデンシャル・ディベート」ですら、投票前にコントにしてしまうのだ!)と一流の音楽で成り立っている、NBCのオトナ向け大人気コメディ生番組。

此の番組から巣立ったコメディアンも、ジョン・ベルーシダン・エイクロイド(元々「ブルース・ブラザース」はこの番組中の1キャラ)、スティーヴ・マーティンビル・マーレイマイク・マイヤーズ錚々たる面々で、略40年間続いてるモンスター長寿番組なのだが、もう1つこの番組の人気の点として、毎週のゲスト司会とゲスト・ミュージシャンの豪華さが有る…そしてこの晩のゲストは、今を時めく実力派スター、ブルーノ・マーズで有った。

ブルーノはアメリカ人だが、プエルトリカンの父とフィリピーナの母を持つ事から、彼の音楽にはレゲエやロック、R&B、そして時にはヒップホップ的な要素も垣間見え、ポップな魅力に溢れて居る。ブルーノの音楽はビリー・ジョエルレイ・チャールズを足して2で割った感じで、個人的には何方か懐かしい感じも有るのだが、小柄な身体から溢れ出る声量と存在感、そして才能は既に「大スター」の風格が有る。

そのブルーノのオープニング・アクトでの歌とダンス・パフォーマンスの素晴らしさ、そしてラジオ放送局が急に停電に為り、仕方無くアルバイト役のブルーノがマイケル・ジャクソン等のモノマネをして急場を凌ぐ、と云うシチュエーション・コントで観せたモノマネや(これがマジに上手い!)、実際に彼がぬいぐるみの中に入って、タイムズスクエアで観光客に手を降ったり写真を一緒に撮ったりする、やさぐれたアルバイト青年に扮したコントで観せた演技に、彼の「エンターティナー」としての卓越した才能を、そしてスーパースターの未来を観た!

閑話休題。さて今日の話は、翌日曜日のお昼の事…我々地獄夫婦とA姫は、長い間待ち望んで居たM女史お薦めのパンケーキを「Four Seasons Hotel」に食べに行った。

が、何と満員で入れず、最低でも1時間待ちだと云う!実はこの日の我々地獄夫婦には、その後ブロードウェイで観劇予定が有ったので、涙を飲んでパンケーキを諦める羽目に陥ったのだが、今から思えばこのアクシデントは、この日我々に与えられた試練、或いは降り懸かった「悪夢」の単なる序章に過ぎなかったのだ!

ミッドタウン・ウエストで日曜日に、然も予約無しで美味しいランチを探すのは、至難の技…ブロードウェイの事も有って、仕方無く歩いて行ける範囲で知恵を絞った結果、「Parker Melidian」に入って居るバーガー・ショップ「Burger Joint」にトライ。が、当然此方も大混雑で入れない。

この再びの「拒絶」に因って、「神罰に因り、現世と煉獄の間を彷徨い続けているオランダ人の幽霊船が、喜望峰近くで目撃された」という伝説が下敷きと為って居る、ドイツの詩人ハイネの詩を再構築したワーグナーのオペラの如く、「彷徨える『パンケーキ人』」と化した我々は、最終的に「Chambers」内のディヴィッド・チャンのレストラン、「Má Pêche」のバーに落ち着いた。

が、此処で食べたランチがまた「イマサン」も良い処で、「ポーク・バン」はまだ良かった物の、「Ramen」と名付けられた「ん?『ペ・ヤング』の焼きそばソースか…この汁は?」的汁麺と、「カルボナーラ風『トック』」とでも呼ばにゃあしゃあない、妙な韓国餅風料理が余りにも酷い。

悲しいかな、それでも腹が減って居た筆者は結局全部食べてしまったのだが(涙)、会計を見ると結構な金額に為って居て、皆大憤慨。熟く納得の行かない我々「彷徨える『パンケーキ人』」としては、「向かいの『Joe's Shanghai』の小籠包で、口直しをしよう!」と云う話に為り、盛り上がって行ってはみた物の、此処も激コミ且つ待ち人数の多さに辟易し、敢え無く退却。

「天は我を見放したか!」…と「八甲田山」の北大路欣也に為りかけたが(古っ!)、「こんな事で我々はへこたれ無い…せめてデザートだけでも、美味しい物を!」と意見が一致し、我々「彷徨える『パンケーキ人』」達は、遂にMOMAの「The Modern」に安住の地を見つけた末、美味しいチョコレート・ケーキに有りつけ、人心地と為ったので有った…「悪夢」が決して終わっては居なかった事等、知りもせずに…。

さて、MOMAでA姫と別れた後、我々地獄夫婦が急いだのは「Gerald Schoenfeld Theatre」…友人のプレイライトJの招待を受けた、アレック・ボールドウィン主演のストレート・プレイ「Orphans」を観る為だ。

超満員だった「Orphans」は登場人物が3人だけ、そしてストーリーはフィラデルフィアの安アパートのみで進行すると云う、かなり良く出来た、笑い有り涙有りのコメディ。ライル・ケスラーの素晴らしい脚本と、ギャング・スター役の、日頃「Jerk」な役がお得意のボールドウィンが見せた心温まる演技、そして孤児の兄弟を演じた俳優達の若さ溢れる舞台を堪能。

そして観劇直後、クサマヨイと筆者は家に帰る途中の9番街の路上で、止せば良いのに「昼の『悪夢』を解消するには、夕食をどうしたら良いか?」等と話し合って居たのだが、運悪く我々の道路を挟んだ目前には、大人気バーガー・ショップの「Shake Shack」が…。

「取り敢えず覗いてみようか」(笑)と行ってみると、何時もは外まで行列が出来ている「Shake Shack」もこの日は意外に空いていて、「おぉ、こんな調子ならテイク・アウト出来る!これで今日の悪夢も…」と思ったのも束の間、何故か「一寸待って!この先に『G角』が在るわよ…忘れたの?ねぇ、チョットだけ覗いてみたら?」と云う、大好きなミラ・クニスちゃん的悪魔の囁き声が、肉食系の我々の耳元で聞こえて来るでは無いか!

「Hélas, Mon Dieu d'Appétit !」(あぁ、食欲の神よ!)…我々地獄夫婦はその悪魔の誘惑に負け、その上昼の「彷徨える『パンケーキ人』」の悪夢をも忘れてしまい、丁度MOMAを観覧し終わったばかりのA姫を再び呼び出して、いそいそと「G角」に赴いた…が、その後我々は、その「G角」での信じられない程の不運、そして店からの余りに酷い仕打ちを受け、昼に味わった「彷徨える『パンケーキ人』の悪夢」が、未だ終わって居なかった事を痛感する事に為ったので有る。

食欲の神よ、何故貴方は我々「たかがパンケーキを求め彷徨う民」に、この様な厳しい試練をお与えに為るのですか!? … 「Mon Dieu... Pourquoi ?」(神よ、何故なのです?! って、何でフランス語?)

たかが、パンケーキ。されど、パンケーキ。

結局、あれだけ食べたかったパンケーキの「パ」の字も口に入れられ無かったこの日のラスト・サパー、G角に於ける「彷徨える『パンケーキ人』」の悪夢の結末は余りに酷過ぎ、悲し過ぎる為、未だ傷の癒えない筆者には到底記す事が出来ない…。

我々、彷徨える「パンケーキ人」の悲劇的な、余りに悲劇的な行く末と、この話から何を教訓とするかは読者の想像力にお任せすることにして、今日は此処迄(涙)。