「古代ローマ晩餐」と「木守」。

国立劇場で舞踊公演中の高麗屋が、「奈落」に墜ちた。

その昼間、偶々松竹の歌舞伎担当重役と会っていたのでビックリしたが、しかしその時、何故「せり」が下がっていたのだろう?…決して有っては為らない事故で有る。

この事故は、染五郎の父親(幸四郎)と娘さんも出ていた舞台で起きたとの事…染五郎の命に別状は無い様だが、これから期待大の役者だけに、非常に心配している。

さて、2週間に渡った「激湿」日本滞在も、今日で終わり…今、我等地獄夫婦は成田のラウンジに来て居て、これからニューヨークへの機上の人と為る訳だが、昨日一昨日の日本滞在最後の2日間は、かなり濃い内容だった!

先ず月曜の夜は、作家H夫妻と超カワイイ「これぞ赤ちゃん!」と云う感じのRちゃん、超売れっ子漫画家の「照前さん」(笑)ことYさんと「ハチ・クロ」のUさん、そしてクサマヨイと筆者の7人で「古代ローマ料理」を堪能。

その晩餐が開催された場所は、イタリア歴の長いYさんのみならず、Yさんのイタリア人の友人達も皆カムバックしたがると云う、御苑付近に在る「公衆浴場」、もとい、イタリアン・レストランの「V」。

その「V」のシェフS氏が次々と作り出すのは、古代ローマの食通だった「アピシウス」が用いた食材や調味料を、謂わばタイムスリップ的に用いた、そして現代日本人の舌をも唸らせる素晴らしい料理の数々で、これこそ当に料理版「テルマエ・ロマエ」(拙ダイアリー「全ての道は、羅馬に通ず」参照)!

そんな「古代ローマ晩餐」の出席者達の会話は、全員古代ローマ的、若しくはユニーク過ぎる個性故、そして料理毎に選ばれ出されるワインも手伝って、マンガ家の過酷な日々(涙)や小説家達、アートや食、そして古代ローマから桃山、昭和、現代へと時空を超え、盛り上がりに盛り上がって幕を閉じた。

因みに「テルマエ・ロマエ」は、トロント映画祭のオープニングを飾るそうだ…世界がどう反応するか、楽しみでは無いか!

そして昨日、日本滞在最後の夜は、憂国の同士K氏主宰の政経塾のメンバーに「お茶」を体験して貰おうと、以前から若宗匠にお願いしていた「茶道体験レクチャー」が実現。

この晩、東京タワーも眼に美しい、麻布に在る若宗匠のお茶室に集合したのは、IT企業CEOやCFO、テレビ・キャスターやアジア最高業績のファンド・マネジャー、編集者や損保会社パートナー等の都合10名…日頃谷中の全生庵で座禅を組んでいる人々なので、禅の心得はお有りだが、麻布高校茶道部出身のお1人を除くと、略全員「お茶初体験」と云う方々で有る。

杉本博司作「海景」と、炭化したお経を内蔵した青銅経筒で飾られた待合で、暗い空に浮かび上がる「東京タワー」と云う名の「世界で一番大きい燈籠」を見渡しながら、先ずは若宗匠に拠るイントロダクションを聞く。

イントロダクションが終わると、筆者を先頭にテラスの蹲で手と口を浄め、燭台の灯りだけが灯る暗い茶室に入る。

床は「和敬」の軸に、桔梗の活けられた、古格溢れるがミニマルな形状の古備前筒形花入。そしてそろそろとお茶が始まった。

「なんちゃって正客」の筆者の前には、赤坂塩野特製の涼しげなお菓子に続き、若宗匠の点てた薄茶が赤楽の平茶碗で出される。

炭の風炉の横、正客の座る位置は暑いが、ふと横の水指を見ると涼しげなガラスで、三斎好みの八角茶器には「野風」の文字が…連客に呈されたデンマーク製の総染付茶碗も含めて、猛暑の中、少しでも客が涼しくとの趣向で有ろう。

また、茶杓の銘は「四方の海」。待合に飾られた人類の歴史を集約する「海景」や経筒、「和敬」の軸とこの茶杓銘…昨今の竹島尖閣諸島問題を、如何に平和的に解決するか…憂国し、政治経済活動に勤しむこの日の客達への、亭主からのメッセージで有った様に思う。

美味しく和気藹々としたお茶の後は、近所の中華料理店「F」に場所を移し、夕食会。

此処での話題は、実は90%以上が「AKB」だったのだが(笑)、最も印象的だったのは「サシコの移籍」でも「前田敦子引退」でも無く(笑)、「武者小路千家に取って、最も大事な茶碗は何ですか?」とのメンバーの質問に答えた若宗匠の答で有った。

その茶碗とは、「木守」…利休が最も大切にした茶碗の一で、少庵、宗旦から受け継いだ武者小路千家から、主君で有った讃岐松平家に呈された、長次郎作の赤楽茶碗で有る。

関東大震災で壊れてしまったが、その破片を以て十三代楽吉左衛門惺入が再生し現在に至るこの「木守」は、主君に呈された後も、家元継承の際の茶事等には今でも必ず武者小路千家に戻されるそうで、江戸期には大名の様に駕籠に乗り、お供を連れて戻って来たそうだ。

そして、今も松平家に保管される「木守」…今回お骨折り頂いた若宗匠が家元を継がれる時も、京都のお宅に戻って来るのだろう。歴史とは、そうして続いて行く物なのだと思う。

古代ローマ料理」と「木守」…人類の歴史は、何時でも人とモノ、そして食を含めたアートと共に有る。
そんな事を考えた、誠に濃い「日本最後の2日間」でした。