"We had to destroy it in order to save it"@Christie's.

しかし、イチローの「ホーム・イン」は凄かった!

あのシーンをニュースで見てハッと思い出したのが、かなり古いが、漫画「ドカベン」の殿馬で有る。殿馬一人は明訓高校打線の2番バッターでセカンド、「秘打『白鳥の湖』」や「G線上のアリア」等を編み出した天才バッターで、天才ピアニストでも有る。あの時のイチローの走塁はまるで殿馬のそれで、キャッチャーのタッチを掻い潜り、避け、ジャンプしたりする殿馬を髣髴とさせた…あの運動能力を見ると、集中力さえ続けば、イチローの体も未だ未だ行けるのでは無いだろうか?

そして数日前、NBCの朝の生番組を観ていたら、何とピート・タウンゼンドが出て来た!

ピートは、ご存じモッズ・カルチャーを代表するスーパー・バンド「The Who」(「My Generation」「See Me, Feel Me」「Behind Blue Eyes」!)のメンバーで、横を向いた侭ジャンプしたり、腕を伸ばした侭円を描く様に振り回しながら弾き、終いにはギターを地面やアンプに叩きつけ、ブッ壊すパフォーマンスで有名なギタリストだ。

テレビに出ていたのは、最近そのピートが「Who I Am」と云う自伝を出したからなのだが、その内容は兎も角、何しろピートが見るからに「お爺ちゃん」に為っていた事に、酷くビックリしたので有る。

ピートは今年67歳だが、それにしても10歳は老けて見える…恐らく若い頃からのドラッグや酒、タバコの為せる業だと思うが、ストーンズのメンバーの外見の若さを考えると(ミック・ジャガーはピートの2つ上)、「大丈夫か?」とマジに思う…が、バンドのドラマーだったキース・ムーンが32歳で、そして天才ベーシストだったジョン・エントウィッスルが57歳で死んだ事を考えると、頑張って長生きしているとも云えるかも知れない。

若い時の「The Who」は恐ろしくカッコ良くて、ロジャー・ダルトリーと上記3人のパンクなライヴを映像で観ると、「あぁ、60年代に観たかった…」と切に思う。当たり前だが、ロッカーも年を取るのだ…ワタクシと同じ様に。

もう1つはテイトで起きた、ロスコの「後入れサイン落書き事件」…全く以て言語道断の事件だが、実はこの手の事件を聞く度に不思議に思って居た事が有った。それは、こう云った事件の殆どが美術館で起きていて、オークションの下見会では起きないと云う事実だ。

オークション・ハウスに勤めて20数年、下見会で客が誤って陶磁器を割ってしまったとか、版画を少し破いてしまったとか云う話は聞いた事が有っても、絵画や彫刻に悪戯書きをしたとか云う話は、正直一度も聞いた事が無い(因みに筆者は、恐らく江戸末か明治時代の頃に、所蔵家の子供が墨で落書きしたと思われる痕跡の有る屏風を売った事は有る)。

オークションに出品される有名美術館収蔵作品並みに重要な絵画でも、油彩絵画なら修復も出来得ると思うが、水墨画にインクでサインでも書かれようなら即アウトだから、考えるだに末恐ろしいが、幸いな事にクリスティーズでは、西洋絵画でも筆者担当の日本作品にも、知っている限りは起きていない様だ。が、これには幾つかの理由が有ると思う。

1.美術館の方が作品数が多く、人も多い為、警備が緩い「感じ」がする。2.美術館の方が、オークション・ハウスより名画が多いし、社会的に目立つ。3.オークション下見会は期間が短いので、短期決戦である(笑)。4.下見会作品には、「値段」(落札予想価格)が付いている。

この内の4.には、実は意外に効果が有る事を知って居て、或る時印象派の下見会で、ティーンエイジャーらしき若者が或る作品に顔を思いっ切り近付けて観ていたが、一度顔を外して価格の記されたロット・カードを一瞥すると、吃驚した様な顔をして徐に顔を遠ざけ、口を手で塞いで再び絵に対峙したのを見たからだ…因みにその絵はモネで、エスティメイトは1200万ドルで有った。

また、会場を走っていた子供にお母さんが、「貴方が今ぶつかりそうになった彫刻は、30万ドルもするのよ」と静かに諭すのも目撃した事が有る…こうなると「値段」は抑止力に為り得るらしいから、美術館も「購入金額」を絵の前に掲げ、

"Think wisely how much it'll cost, before you'll have done !"

とでも書いて置いたら、どうだろうか?(笑)

冗談はさて置き、盛者必衰の如く、形有るものは何時か壊れる…が、事故は許されても(拙ダイアリー:「破壊された『アート』と破壊した『人』」参照)、故意は決して許されない。厳罰に処すべきで有る。

さて、此処からが今日の本題。

メトロポリタン美術館で始まっている、"Regarding Warhol: Sixty Artists Fifty Years" 展…その評判を余り聞かないのは、何故だろう?それとも聞かないのは、筆者だけなのか?

実は筆者もこの展覧会は既に観ているのだが、それは別の機会に回し、今日はクリスティーズの「プーライヴェート・セールズ」ギャラリーで現在開催されている展覧会、"We had to destroy it in order to Savio it / Paintings in New York in the 1970s" (→http://www.christies.com/about/press-center/releases/pressrelease.aspx?pressreleaseid=5775)紹介しようと思う。

ロックフェラー・プラザに在る、クリスティーズの「オフィス」が入っているビル(49丁目のセール・ルームでは無く、1230 6th Avenueの方)の最上階に、今はチェルシーに移った「Haunch of Venison」が在ったのを覚えている方も多いだろう…あの眺めも中身も素晴らしい空間が、今「プライヴェート・セールズ・ギャラリー」と名を変えて、この展覧会の会場と為っている。

またこのショウは或る意味、METでウォーホルを観た後、若しくは前に観るには最適な展覧会で、何故なら、ベトナム戦争が泥沼化した中ニクソンが新大統領に就任し、マーク・ロスコとバーネット・ニューマンが死に、ウォーホルが既に活躍していた「1970年」を境にニューヨークで誕生した、それ迄のアートやその概念を打ち壊す勢いの「新たな世代」のアーティスト達の作品を観る事が出来るからだ。

本展に出品されている作家は、16人…何人かの名前を此処に挙げれば、ブライス・マーデン、ロバート・ライマン、ジャスパー・ジョンズ、フランク・ステラ、エルスワース・ケリー、ウィレム・デ・クーニング、ロバート・マンゴールド等の、何れも見応えの有る作品ばかり。

その上本展をキュレートした、クリスティーズの現代美術担当副会長のエイミー・カペラッツォが選んだ、ジェニファー・バートレットやスーザン・ローゼンバーグ、エリザベス・マレー等の女性アーティストの名品も堪能出来るのだから、更に嬉しい。

そして、本展が「プライヴェート・セールズ・ギャラリー」で開催されて居る事でも明らかな様に、全作品が売り物且つ「プライヴェート・コレクション」からの出展と云う点でも(当然、貴方も買う事が出来る!)、かなり興味深い展覧会だと思う。

本展の会期は今月27日迄、火ー金の11時から6時。入場無料なので、METの行き帰りにでも是非訪れて頂きたい。

因みに、この展覧会のタイトルに為っている "We had to destroy it in order to save it" とは、1968年にアメリカ軍がベトナムの一般市街地ベントレを爆撃した際、「何故、軍事施設の無い市街地を爆撃したのか?」と云う問いに対する匿名の軍部司令官の談話として、ニューヨーク・タイムズの戦争特派員だったピーター・アルネットが伝えた、「We had to destroy the village in order to save it」から取られた物で有る。