"NYFF50 Diary" Part I:お楽しみはこれからだ!

10月に入り、秋も深まったニューヨーク…今リンカーン・センターを占拠しているのは、今年記念すべき50回目を迎えた「ニューヨーク・フィルム・フェスティヴァル」(NYFF50)で有る。

本年の「NYFF」には、個人的にかなり観たい作品が沢山揃っていて、例えばレオス・カラックスの「Holy Motors」やブライアン・デ・パルマの「Passion」、ミヒャエル・ハネケの「Amour」やキアロスタミの「Like Someone in Love 」等々、超強力・超魅力的なラインナップが控えて居る。

が、しかし、この「NYFF50」が9月28日から始まっていた事をてっきり忘れていた筆者は、何しろ観たい作品のチケットが中々取れずに四苦八苦しているのだが、そんな自業自得な今年の「私的『NYFF』第1弾」として観たのが、アラン・レネ監督作品「You Ain't Seen Nothin' Yet(原題:「Vous N'avez Encore Rien Vu」)」(→http://www.filmlinc.com/nyff2012/films/you-aint-seen-nothin-yet)で有った。

2012年度フランス・ドイツ合同制作の本作は、本年度カンヌ映画祭出品作で、監督は先に記した様にアラン・レネ…この「去年マリエンバートで」の監督が未だ生きていたとは大きな愕きだったが、しかし「夜と霧」や「ヒロシマ・モナムール」(「二十四時間の情事」)、「恋するシャンソン」等の名作を生み出したヌーヴェル・ヴァーグの御大の齢90に為っての新作と聞けば、観ない訳には行かないでは無いか!

クサマヨイと共にリンカーン・センターの「Alice Tully Hall」に着くと、如何にも映画祭の雰囲気で、何だかワクワクする程賑わって居る…そしてホール内は略満席で、これまた当たり前だが、会場のあちこちからフランス語での会話も沢山聞こえて来た。

上映に先だって、映画祭プロデューサーや、フランスからやって来た本作のプロデューサーの挨拶が有り、愈々上映開始。

さてこの作品、例えばシュナーベルの名作「潜水服は蝶の夢を見る」や「007」のマチュー・アマルリックや、「マトリックス・リローデッド」のランベール・ウィルソン、「美しき諍い女」のミッシェル・ピコリ等のフランス映画界のトップ・スター達15人が、何と「本人役」で出演して居るのだが、その役者達の元に、彼らが嘗て一緒に仕事をした舞台脚本家が急死した、と云う電話が掛かって来る所から始まる。

こうして役者達は、脚本家の或る特殊な「遺言」の内容を聞く為に脚本家の屋敷に呼び出されるのだが、其処で彼らを待って居たのは、脚本家が生前に撮った「遺言映像」と、彼らが嘗て舞台で演じた事の有る作品を、若い役者達がニュー・プロダクションで演じて居る「舞台映像」で有った。

つまり、脚本家の「遺言」とは、呼び寄せた役者達にその若者達の舞台を批評させる事だったのだが、その舞台映像が上映され進行して行くに連れて、「屋敷での現実」と「映像内の演劇」、そして「嘗て名優達が演じた舞台」と云う3つの世界の境界線が徐々に消えて行き、ただ映像を見ていた筈の役者達は、現実と舞台、舞台と映像、映像と現実の間(あわい)を往き来し始め、自分が嘗て語った台詞を語りながら「再演」をする事に為る…。

この映画の見処は当にその「再演」なのだが、其処を見事に成功させたのは、何しろフランス的な、余りにもフランス的な「舞台脚本」自体が流石の出来だったと云う事と、役者達の演技の素晴らしさに尽きるだろう。

そして、その素晴らしい役者達の中でも、最も光っていたのが「恋するシャンソン」の名優ピエール・アルディティ。67歳の彼が過去の舞台を振り返って演じるのは「若い男」の役なのに、少しも違和感が無く、大人な演技が何しろシブく素晴らしい。

そしてもう1人忘れて為らないのが、「潜水服は蝶の夢を見る」でアマルリックと共演した、美しきアンヌ・コンシニで有る!

彼女はファッション・デザイナー高田賢三が監督を務めた「夢・夢のあと」でデビューした、筆者と同い歳(何と49歳!)の女優なのだが、そのスタイルの素晴らしさとプリティ・フェイスは健在で、世界の中でも「京女」と共に、年を取っても美しさと可愛さを持ち続ける、大人の色気が売り物の「フランス女、此処に有り!」(笑)的な存在感なので有った。

だが何しろこの作品、超フランス的、且つ哲学的な神話を元にした舞台脚本や抽象的台詞が長々とフィーチャーされ、その上ヌーヴェル・ヴァーグ的唐突さの有る演出なので、恐らく途中で参ってしまう人も多いと思うし(実際、筆者の近くの席で観ていたアメリカ人らしきオッサンは、劇中で「舞台の幕」(チャプター)が変わる度に、「未だ有るのか…」と云う意味での「Oh…My…God…」を連発していた:笑)、隣で観ていたクサマヨイに至っては、上映後顔中「?」マークだらけだった事を、念の為此処に記して置く。

つまり、何しろこの作品は「大人のフランス映画」なので、それが苦手な人には強くお勧めしないで置こう…が、役者達の演技は見ものだし、脚本も面白い…筆者的には「流石、アラン・レネ!」な、良い意味で「très français」(Very French)な作品でした。

(因みに、今日のダイアリー・タイトルの「お楽しみはこれからだ!」は、本作品タイトルの意訳)