「輪廻転生」の交響詩:「クラウド・アトラス」。

先ずは、ウチのクサマヨイ(旧「ゲル妻」)が、以前「教授」と共演した「ストーン」でのライヴに関して(拙ダイアリー:「『テンスな、余りにテンスな…』: 坂本龍一&ゲル妻@The Stone」参照)、教授が語っている新聞記事を「つい最近」見つけたので、取り敢えず此処に掲げて置く(→http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/120623/ent12062318000011-n1.htm)…しかし、何で今頃に為って見つかるんだろう?(笑)

そして今日は、大統領選の投票日。

大接戦が予想されているが、オハイオ州オバマが取れば、その侭オバマの勝利へと進むだろう。しかしニューヨーク市民には、ハリケーン・サンディが余りにも直近に来てしまったので、「それ処では無い感」が強いが、ニューヨーク、ニュージャージーコネチカット各州は民主党の票田なので、しっかり投票して頂きたい(筆者は永住権は持っているが、市民権は無いので、投票出来ない)。

しかし、東海岸に於けるサンディの「aftermath」は未だ深刻で、それはこの急激な「寒さ」(明日は恐らく0度迄下がる)と、明日水曜日に再びやって来ると予想されている「ストーム」で有る…電力が回復していない地域の人々に取っては、それこそ大統領選処では無いかも知れない。

そんな中日曜日の夜は、若い友人のギタリストS君のバースデー・ディナーを、最近ニューヨークに来た彼女のSちゃんのウエルカムも兼ねて、4人で近所の「44 & X」で。

「44 & X」は、このヘルズ・キッチン界隈では稀なるオサレな店で、味も中々宜しい。この店と2件先のバーも経営している地主らしいゲイのオーナーは、筆者の大ファンなのだが、と云うのは嘘で(笑)、以前この近所に住んでいた空飛ぶ建築家Sの大ファンで、筆者の顔を「その連れ」、若しくは「彼氏」として覚えていて、道で会っても挨拶を交わす仲なのだ。

この日皆で食べた、「44 & X」のポーク、ビーフ、ダック、ロブスター、ホタテ等何れも美味しかったが、何しろ量が多い。2コースでもうお腹一杯に為ってしまい、「ドギー・バッグ」のお持ち帰りをしたその後は地獄宮殿に戻り、もう一杯…現代美術家で有るSちゃんのお父さんの話や、映画の話で盛り上がり、S君のバースデー・ディナーは楽しく終了した。

さて、地獄宮殿で飲んだ時にも話に出たのが、今日のダイアリーの本題…クサマヨイと久し振りに映画館に赴いて、ディナー前に観て来た数日前に始まったばかりの新作映画、「クラウド・アトラス」で有る。

タイムズ・スクエアのAMCに行ったのだが、何しろ上映前にプロジェクターのトラブルが有って、予告篇は映像無し。007の新作を含む全ての予告編を、音声のみで「聴いた」末、10分遅れで始まった本作品だったが、そんなアクシデントが有ったのにも関わらず、「クラウド・アトラス」が終わると、一般上映では珍しく観客席から拍手が起こった…それ程に、この「クラウド・アトラス」は素晴らしかったのだ!

何しろ西暦1849年の南太平洋の島から、「The Fall」と呼ばれる地球文明崩壊後の2321年のハワイ諸島迄の、過去と未来を繋ぐ「輪廻の『交響詩』」とでも呼びたくなる様な、様々な「革命や改革」をテーマとした本作品の成功の理由は、先ずはディヴィッド・ミッチェルの、「6つの時代」の「6つの土地」に於ける「6つのストーリー」を1つに纏め上げた恐るべき巧みな原作、そしてその映画化を1億ドル以上の「ファンディング」で実現させた、かのウォシャウスキ姉弟の情熱に拠る所が大だろう。

と云う訳で、本作は「映画史上、最も高額な『インディペンデント・フィルム』」と為ったのだが、実際そんな事はどうでも良い。そして原作、プロデューサーと共に、疑い無くこの素晴らしい作品を創り上げた大貢献者として、以下に挙げる文字通り八面六臂の演技をした俳優達を挙げない訳には行かない…その俳優達とは即ち、トム・ハンクスハル・ベリージム・ブロードベントヒュー・グラントジム・スタージェスベン・ウィショーヒューゴ・ウィーヴィング(「マトリックス」のエージェント・スミス!)、スーザン・サランドンジェームズ・ダーシー、キース・ディヴィッド、周迅、そしてぺ・ドゥナ

彼らは、異なる6つの時代と異なる土地設定全てに(上記2箇所の他に、1936年のエジンバラケンブリッジ、1973年のサン・フランシスコ、2012年のロンドン、2144年のソウルが舞台と為っている)、全く異なる役柄で登場する。そしてその全ての演技が須らく良いのだが、此処に敢えて2人を特筆するならば、1936年の英国で若き同性愛者の作曲家を演じたベン・ウィショーと、南太平洋での法律家役を演じたジム・スタージェスだろう…彼らの繊細な演技は、群を抜いて素晴らしかった!

また、この作品を観終わって、強く感じた事が2つ有る…その1つ目は、「『因果応報』的輪廻観」がこの作品には強く出ている事だ。

それは、同じ役者が「違う役柄」を「違う時代と土地」で演じるので、役者自身が或る意味「輪廻に於ける『魂』」の役割を果たしているのだが、この作品ではトム・ハンクスの一役を除いて、最初に悪い人間の役だった役者は、全ての時代・土地に於いて悪い人間を演じ、良い人間役は何時でも何処でも良い人間を演じて居る…これは非常に重要で、過去の行いが現世に報い、そして来世に報うと云う思想を、本作品に色濃く残す。

そしてもう1点は、輪廻の世界観に於いても「世界は狭い」と云う事で有る。

それはどう云う事かと云うと、筆者も実は常々そう思っているのだが、現世で自分に関係の深い人々は、過去に於いても立場は違えども深い関係に有り、そしてそれは非常に限られた人々で有る、と云う事だ。良く「貴方の奥さんは、前世では貴方の妹でした」と云われた等の話を聞くが、要は「リーインカーネーション」が本当ならば、それはこの「クラウド・アトラス」の様に、小人数のグループが「常に一緒に」輪廻しているのでは無いかと云う事なので有る。

唐突かも知れないが、それで思い出すのが、骨董業界で云う処の「相目利き」だ。

「相目利き」とは、モノに対する共通の美意識を持った極く一部のコレクター達の事で、例えば、非常に味の良い粉引の盃が某骨董屋に有ったとする。その盃を観た目利きコレクターAは即それを買って、友人のこれも目利きのコレクターBに自慢しようとして見せる。するとAはBに「何だ、俺が昨日某骨董屋に売ったモノじゃ無いか!」と云われガックリする、若しくは喜ぶ、と云う様な事で、美に対する眼の付け所が似ていると云う意味。

そしてこの「相目利き」は、若しかしたら「人の運命」や「人生」に於ける、何と云うか「魂のテイスト」の様な物にも有るのでは?と思うのだが、それは「自分の周りの人々は、何故自分の周りに居るのだろうか」と云った疑問を解く時に良く使う、「類は友を呼ぶ」と云う常套句がその良い例だろうと思う…況してや輪廻転生の際は、なのでは無かろうか。

この作品はこの他にも様々なテーマを含んでいるが、それは見てのお楽しみ。そして各時代、各土地、各人に鏤められたストーリーは、劇中に登場する「Cloud Atlas Sextet」と題された非常に美しい音楽に拠って、壮大な「交響叙事詩」の如く紡がれて行く事を最後に記して置きたい。

クラウド・アトラス」…必見の大作である。