「ホーリー・モーターズ」。

小平市住民投票率が50%に満たず、却下され封印された。

それはそれで仕方無いが、笑止千万なのが市長の「50%に満たないと云う事は、民意を反映していない」との発言で、その市長がたった37.2%の投票率で当選した事を考えると、その意味で自分の今の地位が本当に民意を反映しての物と思っている処が、全く以て信じられない。

こんな政治家の登場を許しているのが、最低限投票率を決めていない現行選挙法で、70%に満たない投票率の選挙は無効にすべきでは無いか。そして、投票しない人には国のサービスを止める等のペナルティを課すべきで有る…橋下の弁明と共に、全く以てイライラする。

さて、香港から戻った…未だ絵画・器物の中国美術オークションが控えていたが、日本での仕事が待って居たからだが、帰りの飛行機は再び奈良美智さんや小柳敦子さんと同じ便で、奈良さんにはトランクが出てくるの待ちながら、那須での「植木」の話や「Art Basel」で気に入った作品の事等を聞いたり。

そんな今日は、先ずは香港クリスティーズで開催された「アジア20世紀&現代美術イヴニング・セール」の結果から。

50点のオファーで45点売れ、ヴァリューで91%売れたこのセール、総売上は4億1495万香港ドル(約54億1000万円)。トップ・ロットは常玉「Two Standing Nude」で、4467万ドル(約5億8000万円)、以下趙無極の「Water Music」が3291万香港ドル(約4億2800万円)が高額第2位、3位が曾梵志の「Society」で3011万香港ドル(約3億9000万円)で有った。

日本人アーティストの作品は、残念ながらトップ10入りは果たせず、最高額作品はその奈良さんの「Life is Only One !」783万香港ドル(約1億200万円)、以下藤田嗣治「人形と少女」の579万香港ドル草間弥生の「Hi Konnichiwa Nao-chan !」が、543万香港ドルと続いた。

が、特筆すべきは、オークション初登場の名和晃平の作品「Pixell-Koyote #3」が279万香港ドル(約3630万円)で売れた事で、クリスティーズの下見会やArt Baselでも名和作品は存分に注目を浴びて居たのだが、良い作家の良い作品に良い結果が出て良かったと思う。

また、「トップ10」全てが中国作家(ウーキーはフランス人だが)にドミネイトされ、その中でもウーキーの作品が半分を占めた事と(2、4、6、7、10位)、「トップ10」全ての買い手が恐らくは全て中国系で有る事も、未だ衰えぬ中国景気と中華思想を証明しているだろう。

そんなこんなで、未だに「此処は何処?私は誰?今何時?」な時差ボケと闘いながらも仕事を始めたが、去年の「ニューヨーク・フィルム・フェスティヴァル」(拙ダイアリー:「NYFF50 Diary」シリーズ参照)でどうしてもチケットが取れず、観る事の叶わなかった作品を滔々観て来た。

その作品とはレオス・カラックス監督・脚本、何と21世紀になってから初の長編作品「ホーリー・モーターズ」。

監督本人が冒頭で「Le Dormeur(眠る人)」として登場し、リムジン内で変貌し続ける「役者」が主人公のこの一風変わったファンタジックな作品では、何はともあれ「11の役柄」をこなす主役オスカール役のドニ・ラヴァンが素晴らしいし、リムジンの運転手セリーヌ役のエディット・スコブの年を取っても美しいフランス女振りや、懐かしいカイリー・ミノーグ、そして「ゴジラ」のテーマ曲を含めた音楽迄、見処・聴き処が満載だ!

さて、本作でカラックスが持ち出すテーマは、実は愛すべき「映画」と「役者」だけに留まらず、全ての人間は「見えないカメラ」に撮られ続ける人生を演じる「役者」だと云う事で有り、それは或る意味、最近作家平野啓一郎氏が提唱する「分人」に通じる気もする。

真に最高の役者とは、数多の役柄を全く意識せずに「分人」を使い分けている、日常生活に於ける一般人の事かも知れないが、しかし、ストレッチ・リムジンの中で着替え変装し続ける主人公オスカールに垣間見る、疲労感や倦怠感、そして絶望感は、生身の人間の持つ人生の苦悩その物なのだ。

そして本作の最後の最後に、オスカールを「家」に送り届けたリムジンのドライヴァー、セリーヌが車を降りて付ける「仮面」…リムジンを運転する「仕事中」にだけ、「素顔」を見せる事が出来る彼女は、「仕事中」だけ自由と高揚感を得るオスカールと共に、リムジンと云う「守護天使」に護られながら演じ続けねばならない、淋しくも哀れな「奴隷」を象徴する。

また、「ストレッチ・リムジンの中での、大都市の1日」と云うシチュエーションで思い出すのは、クローネンバーグの新作「コズモポリス」(拙ダイアリー:「サイバー・キャピタル、ロスコ・チャペル、そして狂気:『コズモポリス』」参照)。

閉ざされた「資本主義経済社会」の権化とでも呼ぶべきストレッチ・リムジンの中で、刻々と変化する人間自身とそれを取り巻く世界情勢、感情と他者との関係性…これ等2作品を見比べるのも一興だろう。

このフランス的な、余りにもフランス的な「ホーリー・モーターズ」は、昨晩友人に連れられて行った代官山のビストロ「A」で食した、旨過ぎる「鮟鱇のほっぺのフリット」や「鰯のガスパチョ」と共に、嬉しい意外性、スタイリッシュで風味豊かな「ニュー・フレンチ感」溢れる作品でした(個人的には、最後の「車の会話」は要らんが…)。