ハリケーン到来時に於ける、ニューヨーカーの「最大の危惧」に就いての考察。

超強力ハリケーン「サンディ」がやって来た。

しかし、毎回ハリケーンが来ると思うのだが、何故ハリケーンの名前は何時も「女性」の名前なのだろう?男的には、その理由は何と無く分かるのだが(笑)、別に「マイケル」でも「ジェームズ」でも、はたまた「ウィントン」でも良い筈だ。

気になって調べて見たら、驚くべき事に、1979年以降は男女差別を無くす為に、男女の名を「交互に」付けて居るそうなのだが、しかし1979年以前は女性の名前だけだった訳だから、最初にハリケーンに女性の名を付けた人は(多分男だろう)、流石としか云い様が無い(笑)。

そして記憶に残って居るハリケーン名を思うと、やはり「カトリーナ」「アイリーン」「ジェーン」等の女性名ばかりなのだが、日本も台風を「1号」「2号」等と呼ばずに、「台風・優(ちゃん)」とか「台風・まさみ」とか気象庁の担当者の趣味で付けたら良いのに、と思う…また雅味有る人だったら、「台風・桐壺」とか「台風・松風」、「台風・万葉」(最も強そう…:笑)とか命名するかも知れないし。

そんな日曜日の午後、クオモ・ニューヨーク州知事は、午後7時を以て全ての地下鉄を休止し、9時を以てバスをも停めると云う声明を出し、会社からも月曜は臨時休業とし、予定されていた「19世紀絵画」セールも11月1日に延期するとのメールが来た。

その後、街中が文字通り「嵐の前の静けさ」の中、筆者が向かったのはサザビーズ…幾らハリケーンでも、アート・フリークの好奇心を止める事等出来ないのだ!…と格好を付けても、実は「版画セール」の下見会に展示中の「或る作品」を見たかっただけなのだが、3時前に着くと、何とハリケーンの為後10分で会場を閉めると云う。

大急ぎでその作品を見つけ出して「アンフレーム」して貰い、作品の状態だけはチェックする事が出来たのだが、他の作品は碌に見る事も出来ない侭タクシーに飛び乗り、今度はパーク・アヴェニューのフィリップスで開催中の「Editions」の下見へ急ぐ。

此方も閉店では無いかと心配したが、行って見ると下見会は未だ開いて居り、しかし月曜に開催予定だったオークションは、イヴニング・セールは水曜の夕方、そしてデイ・セールは木曜の朝に延期された事を知らされる。

しかし嵐の前のひと時、略無人の下見会は静かで中々居心地が良く、作品をジックリと楽しめた…そして此処で目に付いた作品を挙げれば、マーク・クインのブロンズ製の蘭「Crystal Worlds」や、バルデサリのモーターでパタパタとカードが動く作品「Jacob's Ladder: Love」、アルマンの6脚組の椅子「Cello Chairs」と云った所だろう。

何時も思うのだが、プリントやマルティプルの価格は思ったよりも高く無く、頑張れば手が届く範囲の作品も多い。好きなアーティストの好きな作品が、たった数十万円で買えると思えば、そのエディションが例えば、かなり多い1,000とか2,000だとしても、この広い世界に自分を含めてたった千人しかその作品を持っていないと考えると、若しその作品を買って所有出来たら、素直に「嬉しい」と思うのでは無いか、と感じるのは筆者だけだろうか?

そんな事を考えながらも、万が一の為に、帰りにスーパーに寄って買い物をしたのだが、そのスーパーの信じられない混み様にウンザリする。水やスナック等の一寸した食料は全て売り切れ、どのキャッシャーにもオニの様な長さの列が出来た上、携帯も中々繋がらない…結局やっとゲットした水やアイス、チップスやナッツ等のジャンク・フードを「いざ、と云う時」の為に買い込み、並んでから支払いを済ませる迄30分以上を要した末、潮の匂いのした強い風の中、漸く帰宅した。

家に帰ってからはニュースを見続け、ハリケーン情報に気を配って居たが、ふと気付いた大きな問題が有って、それはハリケーン到来時の「食欲」で有る。

何しろその日の我ら地獄夫婦のお昼は、近所の美味しいチャイニーズのデリバリーを「多め」に取って、それには「万が一ハリケーンが早く来ても、大丈夫な様に」と云う理屈が付いていた。また思い起こせば、スーパーで並んでいた大勢の人々が、カート山盛りに買っていたのはビールやスナック菓子、タコチップやハム、チーズ等…要はパーティー・フードで有った事も記して置かねばなるまい。

そして想像するに、グロッサリー・ストアで何時もより遥かにお金を費やした彼らは、ハリケーンの来ない地域で開催されているフットボールや野球、映画やドラマを観ながら、カウチに重い体を沈め、「万が一」の為に買って来た筈のチップスをボリボリ食べ、その指を舐め舐め、ビールや酒をガブ飲みし、無意識的に謂わば「プレ・ハリケーン・パーティ」の如き食行動をしてしまうのだ。

そう云う我々夫婦も、ハリケーン到来に拠る気圧の低下と、その巨大さへの不安から、夕食を作る気が起こらず、先ずは昼に残して有った中華の残りを完食、そしてスナックへと突入…もうパニック映画級の「アンストッパブル」の様相を呈した(笑)。

こう云った行動の理由を考えるに、自己弁護では無いが、これは恐らくは人間の哀しき性…危険が迫っている時には「今度、何時食べる事が出来るか分からないから、今食べておかなくちゃ!」と云った本能が働くのでは無いか。

等と考えながらも、翌月曜の朝起きても外は至って静かで、6階の自宅の窓から見ても、道が少し濡れていただけで、人々もランニングをしたり家族連れで楽しそうに歩いたりしているでは無いか…ん?「サンディ」ちゃん、もう行っちゃったのか?

いいや、ハリケーンは何と此れからだそうで、では何故昨晩7時に地下鉄止めたんだ?との疑問も束の間、昼前に漸く雨と風が少しずつ激しくなって来たのを見て、クサマヨイと筆者は「或る決断」をした。

「今の内に、食料を買って置こう!」(笑)

早速昨日のスーパーへ行くと、未だ昼前だと云うのに、何とこの日も行列が出来て居るでは無いか!と云う事は、皆昨日の「非常食」は食べてしまったに違いない…「同じ穴の狢」とは当に我々の事で有った。

と云う状況の中、再び会社から全社メールが届き、其処には「ハリケーンの為、火曜日も休業とする」旨が記されて居た。何と云う事だ…また食べ続けねば為らないでは無いか!

ハリケーンに拠って被害を受けている方々には、誠に申し訳無い…。

が、個人的には逹さんのインスタレーションが心配なのと、そしてマンハッタンに住むニューヨーカーの、恐らく7-8割の人々の「今の所の」最大の危惧とは、建築中の90階建て高級アパートメント(「レジデント」としてマンハッタンで最も背が高く、ペントハウスは1億1,500万ドル、最も安いアパートでも700万ドル位はするらしい)の、70階部分で折れてぶら下がって居るクレーンが落ちるかも知れない事を除けば、ハリケーン一過後の自分の「『体重』の増加」に他ならない。