オバマの勝利と、日本の敗北の理由。

サンディが去って、米大統領選挙も終わった。

そして、アメリカがバラク・オバマにこれからの「4年」を託したこの日、ワシントン州コロラド州では大麻が合法化され(税収が増える)、昨日のニューヨークは初雪の猛吹雪…序でに株価は急落した。

そんな吹雪の夜、クリスティーズで行われた「印象派・近代絵画イヴニング・セール」もバンピーなセールだったが、何だかんだ云ってもロットで7割、ヴァリューで8割を売り、総額2億480万ドル(約163億8400万円)を記録。

その内1000万ドル以上で売れた作品は計6点で、トップ・ロットはセールの目玉だったモネの「睡蓮」の4376万2500ドル(オークションでのモネ作品史上高額2位:約35億円)、ニュー・アーティスト・レコードを樹立したカンディンスキーの「Study for Improvisation 8」が次点で2304万2500ドル(約18億4500万円)、後はミロ、ピカソブランクーシジャコメッティと続いた。

さてアートの話はこれ位にして、大統領選で有る。

フロリダを除いた、303対206と為った「electoral vote」(しかし何故「e.v.」を「選挙人」と呼ぶのだろう?)の結果だけ見ると、全得票数や得票率(50%対48%)程の接戦では無かった。これはオハイオやペンシルヴァニア、ウィスコンシンと云った、「electoral vote」数の多い各州でオバマが勝利したからで、選挙直前のこの地域での最終行脚作戦、そして「サンディ」の被害への対応の早さも効を奏したのだろう。

中でも特に、選挙前日にオバマが再訪した「天王山」オハイオでは、同様に同地を訪れていたロムニーの会場からたった16キロしか離れていないオバマの会場に、Jay-Zブルース・スプリングスティーンが応援に現れて大盛り上がりと為り、「中間層」のハートを鷲掴みにした事も記憶に新しい。

投票権の無い筆者だが、6割以上が投票したニューヨーク州民と同様に当然オバマ支持だった訳だが、今回の選挙戦で最も強く感じたのは、オバマの非常に辛抱強い人間性と、日本の選挙制度の早急な改革の必要性で有る。

先ず政治の舞台で、あれだけ一般の支持者が熱狂出来ると云う事が、本当に羨ましい…「お祭り騒ぎ」にも見えるが、今の日本に、一般大衆が誰かの勝利を我が事の様に喜ぶ如何なるシチュエーションが、スポーツ・ファン以外に存在するだろうか?それだけ国民の政治に対する意識が高く、候補者も魅力的なのだろうが、これは上に記した様に、偏に日米間の選挙制度の違いの顕著な例では無いかと思う。

その違いの最たる物として、当然「国家元首直接選挙」が有る…米国民は、自分が直接選ぶ元首には「4年」と云う任期が有るので、暗殺されるか重大な病気に為らない限り、その4年間は否が応でも「私の大統領」として認めねばならない。日本の様にヘマをしても辞任すれば済んで仕舞う程甘くもないし、国民が辞めてくれと願う程酷いブッシュJr.の様な大統領でも、4年は我慢せねばならない。

そしてこの「直接選挙」は、日本の政治家やマスコミの大好きな「任命責任」を当然国民に課すので、4年間後悔しない様に確りと人と政策を見極める「眼力」を、国民に植えつける効果も有る。しかし、何故日本のマスコミは首相の「任命責任」ばかりを追求して、自分達国民の「任命責任」に関しては無視するのだろう…これこそ無責任極まり無いのではないか。

自国の元首は、自分を映す「鏡」で有る。間接とは云え、その「首相や大臣を選んだ議員」を選んだのは国民である。そしてその無責任な国民と、まるで他人が選んだ様な顔をして、利巧振って批判するだけのマスコミ程無責任な者も居ない。彼らは、嘗てマケインが大統領選敗戦後、オバマに関して「私は負けた。意見の違う所は有るが、今日から彼が『私の』大統領だ」と云った事を思い出すべきだ。

しかし若しかしたら、より重要なのは大統領選に至る迄の、その「過程」なのかも知れない。

複数の立候補者の中での、激しいディベートや予備選の洗礼を経て、最終的に各党1人ずつの大統領候補者に絞られた上に、全国民やメディアの厳しい眼に晒されながらの「プレジデンシャル・ディベート」や、全州を廻っての遊説のハードさに至っては、日本の生温い候補者選びの比では無い。

そして、金が掛かり過ぎる点だけは正さねば為らないと思うが、この厳しい過程を経る事に因って、候補者自身にも国民にも、国家や政治、選ぶ事、選ばれる事に対する「責任感」が生まれるのだと思う。

それは、今回も色々な処から聴こえて来る様に、大統領選に敗れた候補者のスピーチの方が勝者のそれよりも端的で美しく、内容が有る様に聴こえる、と云う声にも顕れていると思う。しかしそれは何故なら、「もう終わった」候補者が、潔く美しいスピーチをするのが容易な立場に居るからで、況してやロムニーの様な舌先三寸の男なら尚更、だからだろう。

オバマは我慢強い政治家だ…それは彼のスピーチの慎重さや、彼が勝ち取ったアメリカ大統領と云うポジションが、「彼自身の1票」(「自分自身を『米大統領』に推挙する」1票で有る)をも含んだアメリカ全土の「責任」の集積に他なら無く、アメリカのみ為らず、世界に取っても重要極まりないその任務は、我慢強くなければとても完遂出来ない。

今回の選挙結果は、色々意見は有るだろうが、この4年間を振り返った時に、アフリカン・アメリカン初の大統領と為ったオバマが続けて来たこの我慢の「政治」と「大統領職」は、今のアメリカに於いてお坊っちゃまな「口先ロムニー」にはきっと出来ないだろう、との国民の判断に他ならない。

日本の今の「敗北状況」の最大の理由は、こう云った国民と政治家双方の責任感の余りの無さと、我慢の無さに有るのでは無いだろうか…日本での「首相直接選挙」の早期実施を、強く望みたい。

そして筆者は今日、その「我慢の出来ない国」でのビジネスへと向かう…ニューヨークとは暫しの別れで有る。