過去への回帰。

コネチカットで、悪夢がまた起きてしまった…。

今度の銃乱射事件の被害者は、20人の子供と6人の大人…オバマの涙の会見も見たが、アメリカに今必要なのは、云う迄も無く「悔恨の涙」等では無く、「法律」で有る。此処でも毎回云って居るが、アメリカの闇は恐ろしく深い。

そして、もう1つの悪夢…これだけ大事な選挙でもこれだけ低い投票率(戦後最低…6割に満たない)と、自民が単独過半数を取った「最悪の」総選挙の結果で有る。

今回投票を棄権した者、自民に投票した者は、これから始まる憲法改正原発推進国防軍設置等の、悪夢の「アジアでの日本孤立」「極右政治」に我が国を委ねたと云う事を、決して忘れないで頂きたい。

また新政府には、違憲状態で有る定数を是正し、全く民意を反映しない「比例代表制」を早く止め(「復活当選」って何だ?)、首相公選制を実施し、投票をしない国民に対してペナルティを課す様な仕組みを、早急に作って頂きたい…自民党には死んでも出来ないと思うが。

こんなウンザリする、暗くなる話はこれ位にしよう…今年も後2週間、3月のオークション出品作品探しも酣だが、忘年会も右に同じ(笑)。

先週末は、日頃お世話になっている懇意の古美術商氏と、日本橋で久し振りに一杯。この人と話すと何時も勉強になるのだが、何しろ「モノ好き」で人柄の素晴らしい人との食事は、料理の味も倍増すると共に食欲も増し(笑)、誠に楽しい。

その翌晩は、学生時代の仲の良かった友人達と久し振りに会い、中国薬膳料理を六本木で頂く。最近テレビにも出る様に為ったらしい、ゲイの「しげる」を含めた総勢5人で、素晴らしく旨い「茸鍋」を突つきながらの近況報告…昔の友人は気が置けなくて宜しい。

そんな中、やっと「007 スカイフォール」を観た。

前にも此処に記したが、誰が何と云っても筆者は「007」が大好きで有る(拙ダイアリー:「憧れの人」参照)…が、この50周年記念作「スカイフォール」では、ボンドは嘗て無い程センチメンタルで、ストーリーも或る意味「母子物語」の如く為って居たのも、サム・メンデス監督の為せる技だろうか。

スコットランドの美しい風景や、上海の煌びやかなネオン、主題歌を歌うアデールの歌声や最後に見せるボンドの「涙」、肉体同士の闘いへの執着、新「Q」役のベン・ウィショー(拙ダイアリー:「『輪廻転生』の交響詩:『Cloud Atlas』」参照)、「過去への回帰」と「過去との決別」迄見処も多いが、本作の最大の見処と云えば、やはり敵役のハビエル・バルデムの「恐怖の演技」だ!

ハビエルは今筆者が最も好きな俳優の1人なのだが、本作に於ける彼の存在感は非常に大きく、「優しい狂気」の入った「ホモセクシャル」を思わせる演技や「甘えん坊」の様な演技は流石で、今回の007は彼の存在に因ってかなり締まったと思う。

また、本作の最後には一寸した「驚き」が待って居るが、それは見てのお楽しみ…が、007の新作は、残念ながらボンド・ガールを含め「イマイチ」だった事を、記しておかねば為るまい。

さて話は此処で、先週末体験した4つの展覧会へと移る…先ずは、千葉市美術館で開催されていた、「須田悦弘展」(本展は昨日終了)。

この展覧会は、何しろ「ウォーリーを探せ」的展覧会で、作品リストに有る全作品を見つける事が、先ず以て非常に困難で有る(笑)。只でさえ繊細で壊れそうな、本物ソックリな須田の作品は、「銀座雑草論」や「東京インスタレーション」等の独自のインスタレーション空間を持つ作品のみならず、千葉市美の会場の床や展示ケースの隅、隠された電気プラグの脇、そして「須田悦弘による江戸の美」展示セクションでは、展示された浮世絵の隣等に「ささやかに」存在する。

須田の作品が確かに引き継ぐ「木彫」と云う日本工芸の伝統、インスタレーションとスーパー・リアリズム、そして「見せ方」の現代性が加味された今回の展覧会は、美しさと楽しさを併せ持った物だった。

千葉を後にした後は六本木に向かい、大型の新作絵画6点が展示された、オオタファインアートでの「草間彌生 新作絵画 II」(来年2月2日迄)と、素晴らしいリヒターの展覧会「Gerhard Richter New Strip Paintings and 8 Galss Panels」を開催中(来年1月26日迄)のWako Works of Artを訪ねる。

草間は相変わらず草間だった…が、リヒターの新作ストライプ作品は、ニューヨークでの展覧会を見逃した事も有って楽しみにしていたのだが、観てみるとやはりスゴい。目が眩み、直視出来ない様な「これでもか」的ストライプスと、今度はガラス板が「斜め」に組まれて居る為、そのストライプが映り込んだ「8 Glass Panels」は、流石「現役最高価格作家」と唸らせる素晴らしい物で有った。

そして、最後の展覧会…もう日本人を辞めたく為る程の昨日の選挙結果にも決してめげない(笑)、ワタリウムで開催中の「坂口恭平 新政府 展 未来編」で有る。

この展覧会は、建築家、作家、絵描き、踊り手、歌い手、そして2011年5月に樹立した「日本新政府・初代内閣総理大臣」の肩書きを持つこの作家の、「新政府」の活動と行動を紹介する試みで、5万部以上を売り上げたと云う著作「独立国家の作り方」を基盤とした、新しい貨幣や都市計画を含めたドローイング、ヴィデオ、写真、インスタレーションを、その展示の日々の変化のプロセスをも含めて展示する。

しかし、この坂口恭平と云う作家は何しろスゴい!建築学科3年の時に、隅田川沿いでホームレスをする「鈴木さん」と出会い、例えば図書館を「本棚」と呼び、公園を居間として使い、ソーラーパネルをブルーシートに設置、車のバッテリーで全ての電力を賄うという、「公共」を「個人所有」化する鈴木さんの思想に驚愕する。

その後、「不動産」概念を排除した移動住居「モバイルハウス」を制作した「建てない建築家」坂口は、3・11を機に故郷熊本に築80年、200平米の土地家屋を3万円で借りて首相官邸とし、新政府を樹立したのだ。

坂口の新政府樹立の理由はただ1つ…原発事故後、政府がセシウム放射能線量に関して、正確な情報を開示しない状態は、つまり「無政府状態」で有るとの認識を持ったからで、その新政府樹立に至るプロセスを、この展覧会で確認出来る。

それ以外にも都市計画を題材とする「襖絵」や、ドローイング等魅力的な作品も並ぶが、最上階で上映されている本人出演のビデオが大変興味深い…自身の制作料を含めた「貨幣価値観」や「経済観」を含めて必見で有る。

最後にもう一度云うが、こんな事ならば「いっそ坂口総理大臣でも良いか」とマジに思ってしまう程の、昨日の選挙結果…昨日投票を棄権した者、そして3年前と変わって居ないばかりか、より右傾化し、旧態依然どころか「新しい顔」が何一つ見えない自民党に投票した者は、心して欲しい。

「過去への回帰」は、何も「007」だけでは無い…戦前の様に、「南の島」処か「国民の命」迄をも危うくさせる機会を作ってしまったのだから。