年末所感:「空白は満たされた」。

超多忙だった1年も、今日でお仕舞い…。

だが、ここ数晩は例年に無く個性的な忘年会が続き、人の生死に就いて考えない日は無かった為に沈みがちだった今年も、何とか明るく締め括れそうだ。

そんな忘年会。一昨日は、大学時代の友人で現在編集者のNが結成したオヤジ・バンド、「御徒町ブラザーズ」(笑)のライヴ忘年会に赴いた。

いきなりのドゥービー・ブラザース「Listen to the Music」から始まり、クラプトンやイーグルス、はたまたベイ・シティ・ローラーズ(「Saturday Night」!)やサザンのカヴァーを経て、最後は「Born to Be Wild」の大熱唱で終了…途中MCの時に、Nの息が上がっていたのが泣けた(笑)。

そして昨日の夜は、仲の良い友人達を集めての「忘年会@歌舞伎町」。

場所はこのダイアリーでもお馴染みの、ママちゃん中華の「G」…今回のメンバーはと云うと、能役者、アーティスト、クラシック・ギタリスト、音楽教師、国立美術館学芸員、ロック・ミュージシャン、オークショニア、クリエイティヴ・ディレクター、キュレーター等、そして我ら地獄夫妻の総勢13人で、「アート界異業種・バトルロワイヤル」状態(笑)を呈して盛り上がる。

ビールや焼酎から始まった宴会も、終わる頃には紹興酒のボトルも6-7本空いて居たが、13人であれだけ飲んで食っても、総計ジャスト4万円!…この「G」、一体何でそんなに安いのだ?

ママちゃんのサービスに感謝しながら、風俗店街頭で声の良い能役者Mの音頭に拠る一本締めをし、こうして今年の忘年会は締め括られた。

…筈だったが(笑)、最後の最後にクラシック・ギタリストとバロック美術史家、そして我々地獄夫妻の3カップルで、何と「桂花ラーメン」に繰り出して「シメ」…「何故中華の後に、『ラーメン』を食わねばならないのだ?」と云う不条理極まりない疑問も、年末の「食べ納め」的食欲には勝てず、コッテリ・ラーメンを堪能した末に漸く解散と為ったので有った。

さて、此処からが今年最後の本題…上にも記した様に、筆者に取っての2012年は、毎日毎日「死」に就いて考え続けた1年だった。

それは今年1月の父の突然の死に始まり、弟の妻の父親、そしてクサマヨイの祖父が亡くなった事で、一家全員揃いも揃って「喪中」と為り、その他にも45歳で急逝した仕事相手等も居たりして、恐らくは筆者の人生に於いて、最も死が身近に有った「死の年」で有ったからだ。

そんな今年の秋も深くなった頃に帰国した際、タイミング良く出版された1冊の本を読了した…平野啓一郎の新作「空白を満たしなさい」(講談社)で有る。

そしてこの「空白を満たしなさい」は、純文学としての深く重いテーマと、エンターテイメントの様にズンズン読み進める文体(漫画誌「モーニング」に連載された)を以てして、筆者に取っては今年読んだ如何なる書籍の中でも最も秀れ、且つ感動を呼んだ作品と為ったのだ。

本書の内容は、「死者」を生き返らせ、その人生にスポットを当てると云う意味に於いて、「能」的要素も多分に含んでいるのだが、「能」のテーマでも有る人間に取っての根源的悲劇としての「死」と、「生」の最終的自発的決定権とも呼べる「自殺」の問題を、死から甦った主人公自身と、その家族や友人とのコミュニケーションを通して考えると云う重い主題なのに、不思議な事に決して暗い話には為って居ない処が素晴らしい。

さて、人は身近な者の「死」を経験すると、その死の理由を考え、生前に自分がその者に出来なかった事を後悔し、「今生きていたら」と云った想像をし、その過去や想像上の未来の美化を試みる。

しかし、もしその死者が生き返ってしまったら、それ等が一気に瓦解するのは必須…著者は、その「『決して有ってはならない事』が起きた後」を敢て読者に問い掛ける訳だが、本作が著者自身の人生を強く反映させて居ると考えれば、読者への問いが正しく著者自身へ問いに為ると云う、絵画で云う処の「自画像作品」に本作は為って居ると思う。

そしてこの「空白を満たしなさい」には、「自画像絵画」が何時も持つ処の、作者の真実を垣間見せる「リアルなフィクション」感(「自画像絵画」は決して「ノン・フィクション」では無い)が充満しているのだが、それこそがリアルな「死の年」を過ごした筆者の心を震わせ、本作の最後に描かれる「不安の中に見える『一筋の光』」が、明日から始まる新年に「生」の希望を持たせてくれたのだった。

「生」は「死」を考えてこそ、輝く…そして家族や友人の存在こそが、死の恐怖を和らげ、生きる活力を与えてくれる。

「死の1年間」を過ごした筆者は、年末に至って漸く、家族との時間や友人達との忘年会、そしてこの1冊の本に因って、身近な者達の死でポッカリと開いた「空白」を満たされた気がする…序でに「空腹」も、だが(笑)。

明日から始まる1年は、必ずや「生」の年に為るに違いない。

皆さん、良いお年を!