「冬時間」の終わりを告げた、「Edo Pop」と溝口健二。

この間の木曜金曜と「吹雪」に為ったにも拘らず、昨夜に早々と「サマー・タイム」を迎え、市民に1時間損をさせる羽目に陥らせた、此処狂気の街ニューヨーク・シティ…。

その先週のニューヨーク株式市場は、結局金曜日迄毎日閉場時の「史上最高株価」を更新し続け、金曜日にクリスティーズで開催された、現代美術の最も低価格作品を扱うセール「First Open」に至っては、最廉価版セールにも関わらず239点で1235万ドルを売り上げ、トップ10の内の7作品が個人コレクターに拠って買われる結果と為った…現代美術マーケット恐るべし、で有る。

そして円は、95円60銭まで下落…この狂った街でドルを貰って生きて居る身としては、また、始終仕事で日本に帰る身としては、何とも有難い状況に為っては来たのだが、個人的には$1=110円位が望ましい。神様、少しは楽をさせて下さい!…と切に祈る(笑)。

そんな此方はと云うと、時差ボケ&異常天候で最近全く体調が優れず、木曜の夜に有ったジャパン・ソサエティの新展覧会「Edo Pop:The Graphic Impact of Japanese Prints」のオープニング・レセプションも、仕方無く欠席する羽目に。

が、昨日土曜日は何とか起き上がり、「Edo Pop」展とその関連イヴェントとして上映される映画、溝口健二監督の「歌麿をめぐる五人の女」を観に、若い友人のギタリスト兼「茶杓師」(彼の作る茶杓は、マジに素晴らしい!)のS君を伴い、重い体を引き摺ってジャパン・ソサエティへと出掛けた。

さて、先ずは「Edo Pop」展。

この展覧会は、去年ミネアポリス美術館で開催された展覧会(拙ダイアリー:「"EDO POP"@Minneapolis Institute of Arts」参照)をモディファイした形で、ミネアポリス美術館所蔵の浮世絵版画と、その流れを汲むと思われる現代美術のコラボ展示企画で有る。

本展の詳しい展示内容とコンセプトに関しては、上記過去ログを参照頂きたいのだが、今回のJS展がミネアポリスのそれと最も異なるのは、その展示方法。

それは、ミネアポリスが浮世絵展示の後に付属的に現代美術を展示したのに対し、今回のJSはその二者の関係性を考慮した上で、両者をミックスしての展示を実現している点で、より江戸期と現代に於けるポップ・アートとしての浮世絵の影響が分かり易くなって居る。

その反面、ミネアポリスの展示に出て居た山口晃や奈良の作品、束芋青島千穂の映像作品や毘堂の「面」が出展されて居らず、それはスペース上の問題も有ったのでは無いかと思うが、ミネアポリスの展示を観た者に取っては、正直迫力に欠けたのも否めない。また、現代美術の強い色やサイズ、インパクトに、隣り合わせに展示された浮世絵の持つ、色や版の繊細さが薄れて見えて仕舞っているのも少々気掛かりで有った。

だが、この展示に拠ってきちんと伝わる展覧会コンセプトと、春信や長喜、写楽の「蝦蔵」、北斎の「百物語」等の重要且つ状態も素晴らしい浮世絵版画や、エミリー・オールチャーチや畠山直哉、松山智一の大作は一見の価値が有るので、是非とも訪れて頂きたい展覧会で有る。

展覧会観覧後は、愈々1946年度溝口健二監督作品「歌麿をめぐる五人の女」だ!

この作品は、美人画絵師で有名なご存知喜多川歌麿と、彼を取り巻く5人の女を描く物語だが、その女達とは歌麿の版画にも頻繁に登場する「難波屋おきた」や「大文字屋多賀袖」、ライバル狩野派絵師の娘等。

対する歌麿の周辺の男達も、蔦屋重三郎を始め、十返舎一九山東京伝歌麿の弟子の竹麿等の所謂「蔦重」一派、そして遊び人大名松平周防守迄、一癖も二癖も有る連中が登場する。

また演じる役者は、歌麿を当代三津五郎の父で有る六代目坂東簑助が好演しているが、何と言っても光るのは「おきた」役の田中絹代で、愛人の若旦那とその情婦を殺し自首する前に歌麿を訪ね、最後の別れを告げるシーンの演技等は「流石!」の一言で、大「映画女優」の貫禄を見せつける。

そしてゴダールを始め、トリュフォーやベルトリッチ、エリゼに迄影響を与えた「長回し」のショットや、光と「影」の多用、リアルな演出とカット割り等、今の映画には中々見られない「女を撮らせたら、右に出る者は居ない」(田中絹代への愛が、本作でも強く感じられる)溝口の美学が溢れている本作、本当に観て良かった!

溝口後はS君の彼女のSさんも合流し、行き付けの和食屋「T」で食事を済ませると、夜中前にチェルシーの行き付けイタリアン「B」に移動し、この夜ゲリラ的に「B」で開催されたジャズ・イヴェント、「Visible Sound」を体験。

この企画は、ジャズのミュージシャン達の演奏を元に、ペインターが壁に貼られた紙に筆や手、箒等を使ってその音楽にインスパイアされる侭に描いて行くと云う、インプロヴァイゼイション・ライヴだ。

ミュージシャン達は人気番組「サタデー・ナイト・ライヴ」に出ているプレーヤー達で、特にサックスとタイトなベーシストが素晴らしかったが、肝心の絵の方は正直「?」…ポロックか白髪が、はたまた牛ちゃんか?ってな感じで、正直少々古臭くアカ抜けしないパフォーマンスだったが、そこはご愛嬌。

結局夜中の3時半過ぎ迄「B」で盛り上がったライヴは(筆者は半分夢現だったが…)、冬時間の終わりに相応しい熱気の籠った物と為ったのだが、「1時間」を損した筆者が今書ける最後の言葉は…

「眠い」

の唯一言(笑)。

それでは皆様、お休みなさい…zzz.....。