「助六」は、歌舞伎のホームラン王です。

株価の下落と円高が加速している。

そして、あれだけドヤ顔だった安部総理が、この件に関して何1つ説明しない理由は唯1つ…皆さんご存知、己のプライドの高さだけだろう。

では今日は、先ずは来月から始まる筆者の「新連載」のお知らせから。

連載は、「DRESS」と云うGift社から最近発刊された月刊女性誌内のアート・コラムで、その号の発売期間中に開催される展覧会やイヴェントでフィーチャーされるアーティストを1人ピックアップし、そのアーティストに纏わるこぼれ話等を絡める事に拠って、アラフォー世代読者に、内面から美しくなる「アートな『行動』」を取って貰える様な物にしたいと考えて居る。

その注目の第1回は、7月1日発売の8月号…乞う、ご期待です!

さて此処からが、今日の本題。日本滞在もあと数日と為った昨晩は、再び歌舞伎座へ…海老蔵の「助六」を観る為だった。

この柿落としの「助六」…元々亡くなった父、十二代目團十郎が勤める筈だったその代役を当代きっての色男の息子が演じると為れば、実際昨晩の客席の85%を埋め尽くした学生からお婆ちゃん迄のあらゆる世代の女性客のみならず、色男(のみ為らず、男全般:笑)には全く興味の無い筆者ですら、いそいそと歌舞伎座へと足を運んだのだから、人気の程が知れるだろう。

そして、梅玉権八の素晴らしさとは対象的に、個人的にはイマイチだった幸四郎と、盛り上がりに欠ける本の所為で、謂わば「イマイチな『アペタイザー』」と化した「鈴ヶ森」に続いて観た「助六」の率直な感想が今日のダイアリー・タイトルなのだ。

その昔自由ヶ丘に在った(未だ在るのか?)亀屋万年堂と云う菓子舗の「ナボナ」と云う商品のCMに王貞治が出ていて、そのキメ文句が「ナボナはお菓子のホームラン王です!」だった事を覚えて居る中年諸氏も多いだろうが、昨日の「助六」は、当に歌舞伎狂言の「ホームラン王」に相応しい物だったからで有る。

助六由縁江戸桜」の魅力は、冒頭の幸四郎に拠る口上や、華やかな花魁達の総見から既に満載だが、その上孔雀の様な美しい衣装を纏った貫禄十分の福助の揚巻と、その意味では本当に親父に似なくて良かった(笑)白玉役の七之助の美しさが、その魅力を倍増させる。

そして、尺八の音が花道の奥から聞こえて来てから、海老蔵が現れる迄の時間の長かった事!…「期待」とは、当にこの長さの事を云うのだろう。

さてNさんのお陰で、「助六」を観るには最高の、前寄りの花道から数席しか離れて居ない席から観た海老蔵は、相変わらず美しく、カッコ良く、粋で華が有り、色っぽかった…が、筆者には正直イマイチに見えた。

そしてその理由は2つ…先ずは海老蔵助六に「慣れ」を見て仕舞った気がしたからだ。

助六は、海老蔵が最も自然に嵌まって見える、また若しかしたら最も演じ易い、そして恐らくは最も「色」の着き易い演目なのだと思うし、そんな彼の私生活と舞台がダブって仕舞う事も有るのだろう…飽く迄も個人的意見だが、海老蔵は暫く「助六」を演じ無い方が良いのかも知れない。

もう1つの要因は、福助や意休役の左團次ツイッターやブログネタで笑わせた里暁役の三津五郎や「くわんぺら門兵衛」役の吉右衛門、そして十郎役の菊五郎迄脇役が皆素晴らしかった事も有り、海老蔵が何処と無くその共演者達から浮いて見えて居た事だ。

それは、この「助六」が海老蔵に取っての柿落とし公演初登場で、しかも亡き父の代役、幹部達との共演を鑑みれば固くなるのが当り前だろうが、少々安全策を採り過ぎて居る様に感じたのも事実…が、それでも海老蔵を凄いと思ったのは、体を屈めて花道に登場し、傘を開いて立った時に、嘗て海老蔵襲名時の「助六」を観た時と同様に、再び彼に「100年に1人の逸材」を観た事だった。

助六」には色恋沙汰、仇討ち、殺陣、人情、洒落等、歌舞伎の魅力の「全て」が有る。その上昨晩の「助六」には、名優達に拠る名演と柿落としの高揚、そして「100年に1度の逸材」が付け加えられて居たのだ!

ホームラン・バッターは、負け試合で幾らホームランを打っても意味が無い。チームメイトと勝利を勝ち取る中での大ホームランにこそ、観衆は熱狂する。

その意味で昨晩の「助六」は、当に歌舞伎の「ホームラン王」でした!