現代美術・ハイキング・食欲・近代絵画、そして現代美術。

冬時間に突入したニューヨークも、日に日に陽が短くなるに連れ、大分寒くなって来た。

そんな先週末土曜日は、アッパー・イースト・サイドでの2つのギャラリー・オープニングへ…先ず訪れたのは、77丁目の瀟洒なタウンハウスの3階に在るキャステリ・ギャラリーで始まった、安部典子氏の展覧会「Cutting-Without an Outline」。

最近「日産アートアワード」で最終選考の8人に選ばれた安部氏だが、彼女が切り続ける800枚にも及ぶ紙のレイヤード・オブジェは、まるで樹齢を示す年輪か海岸線の深度や等高線を表す立体的な地図の様で、安部さんに拠ると、切って行く内に何処か無我の境地に為って行くと云うから、それは「写経」の様な感じなのかも知れない。

そんな彼女の「カッティング」では、今回はリキテンスタインが実際に作品に使用した「ドット」もカットされ、或いは真っ赤な「レディ・メイド・ドロワー」(市販されている書類入れ)にインストールされた作品も登場し、「キャステリ」ならではの新鮮且つ力の入った作品揃いで有った。

その後、キャステリで会った西野達氏や藤高晃右君ファミリー達と向かったのは、73丁目とマディソン街に今年オープンしたばかりのギャルリー・ペロタンで始まった、最近大人気のアーティストKawsの展覧会「Pass the Blame」。

此方は何しろ物凄い数の人が来ていて、それもその筈「歌姫」アリシア・キーズ(拙ダイアリー:「摩天楼への想い」参照)を始めとするブラック系ミュージシャンが多数来廊して居たからなのだが、そう云えばこのギャラリーのグランド・オープニングにはファレル・ウィリアムスも来て居たから、その手の顧客が多いのかも知れない。

そんなこんなで、大混雑の観客の視線は肝心のKawsの作品よりも専らアリシアに向いていたので、我々も早々に退散、チェルシーに在る最高に美味くて安い、行き付けのタパス屋「T」の「新館」で食事を楽しんだ。

そして翌日曜は、早起きしてマヨンセ+友人6人と共に「Metro-North Railroad」に乗り込み、若い友人S君の「バースデー・ハイキング」へ。

グランド・セントラル・ステーションから約1時間半、本来の目的地は次の駅だったのだが、今回の「バースデー・ツアコン」のS君がグループ中の長老で唯一50代の筆者の体力を考えた末、急遽より楽な行程が可能な「Cold Spring」駅に降り立ち、向かったのは「East Hudson highlands」…紅葉が極めて美しい、文字通りハドソン河沿いの山歩きハイキング・コースだ。

最終的に3時間半以上掛かったこのハイキング、行きは「歩く」と云うよりも「登る」ので勾配や岩場が思ったよりも可成りキツく、日頃運動不足の筆者は何度も挫折しそうに為ったが、優しい若者達の理解と友情に因って休み休み登ると、徐々に体も慣れて来て何とか頂上に。

頂上では、皆でS君の為に歌った「ハッピー・バースデー」、其処から観た、今迄の人生で知る限り最も長い連結貨車を持つ、紅葉の川沿いを走るポップな色の列車や、微かに見えるマンハッタンに感動したり、下山中の目に眩しい紅葉、まるで映画「ノルウェイの森」の主人公に為ったと思わせる程に美しい森、そして帰りの列車から観た、雲間から注ぐ夕陽に黄色く燃える山が、都会生活で疲れ切った体内細胞を入れ替え、再生させてくれた。

…のだが、皆でハイキング後に入ったイタリアン・レストランでの遅いランチで、折角消費した以上のカロリーを取って仕舞ったにも関わらず、グラ・センに着き皆と別れた途端、我々地獄夫婦は何故か「醤油味」が恋しく為り、その足で41丁目の「サンライズ・マーケット」に行き天麩羅蕎麦を食べた上、何と隣の「ザイヤ」でベアード・パパのクリーム・パフ迄食べてしまったのだった…白隠曰く「食欲勝運動量百千億倍」と(嘘:笑)。

そんな中、ニューヨークの秋の印象派ウイークはとっくに始まって居て、クリスティーズの2日間に渡るイヴニング・セールズが昨日終了。

先ず月曜の夜に開催された、5年前に亡くなったナチ収容所経験の有るスイスの有名画商、ジャン・クルジエのコレクション・イヴニング・セール「A Dialogue Through Art: Works from the Jan Krugier Collection」は、63点中44点売れ、9253万3000ドル(約90億9500万円)を売り上げた。

トップロットは「ピカソ・ディーラー」として名を馳せたクルジエのセールらしく、ピカソ家に伝わった油彩「Claude et Paloma 」で、900万-1200万ドルのエスティメイトに対して非常に良く売れた2816万5000ドル(約27億6800万円)だったが、1000万ドル以上で売れたのは本作1点だけ。

翌火曜日の朝は「クルジエ・パート2」セールが行われ、2119万9000ドルを売り、クルジエのコレクションは何とか1億ドル(1億1373万2000ドル:約112億円)を達成し、夜は「印象派・近代絵画」のレギュラー・イヴニング・セール。

此方は46点中35点売れ、売り上げは1億4429万9000ドル(約142億3700万円)。トップ・ロットのジャコメッティのディエゴ像(絵画)が3264万5000ドル(約32億4000万円)、そしてピカソカンディンスキーの計3点が1000万ドル以上で売れたが、前の晩に続き高額商品の引きが弱かったセール…が、2つの「イヴニング・セール」で計2億3683万2000ドル(約233億6500万円)を売った事を考えると、「率」さえ考えなければ、それなりの成績で有った。

今晩のサザビーズのイヴニングの結果を見なければ何とも云えないが、ヘッジファンド系某著名コレクターの事件の今後の展開と共に、今週の「印象派・近代絵画」の結果が来週開催される「現代美術」セールに、どの様な影響を与えるかが非常に興味深い。

来週は、筆者垂涎物の「『ベーコン』に拠る『フロイド』」の重要大作3枚続(Estimate on Request)が、クリスティーズのコンテンポラリー・イヴニングに登場する…アーティスト・レコードが出るや否や!


◎筆者に拠るレクチャーのお知らせ

●「特別展 京都 洛中洛外図と障壁画の美ー里帰りした龍安寺襖絵をめぐって」

日時:2013年11月16日(土):15:30-17:00

場所:朝日カルチャーセンター新宿教室

サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=220110&userflg=0

問い合わせ:朝日カルチャーセンター新宿教室(03-3344-1941)迄。