Where is Japan in the World Map of Art?

耳を疑うニュースを聞いた。

東京都現代美術館の展示中の会田誠インスタレーション作品中の、「文部省にもの申す」の檄文と総理に扮し「鎖国」を説くヴィデオが、抗議圧力に因って撤去される事に為ったと云う。

都現美と都庁の判断理由は「子供に相応しくない」との事らしいが、そんなに心配なら「18禁部屋」にすれば良いし、何も撤去する必要は無い。しかも「現代美術」と名の付く場所に於いて、「友の会員」だか誰からだかの抗議か知らないが、如何に公立美術館とは云えこんな「反アート」的要求を呑む等、トンでも無い話だ。

「『現代』美術館」に「言論の自由」も「表現の自由」も無いのだから、今の日本は推して知るべし…然も一度展示を許可して居るのに、で有る。こんなプレッシャーを掛ける方も呑む方も「アート・パーソン」では無い。そして、個人的にはその「抗議」の内容を知りたいし、撤去する以上都現美はその抗議内容を公開すべきで有ろう。続報を待ちたい。

さて最近は公私共に、この様に血圧が上がる事ばかりなので、友人且つ後輩でも有るニューヨーク在住のアーティスト、松山智一君が最近した面白い仕事の話題から。

それは(今話題の)東芝が新しく出した「Ultra Book」のPR企画なのだが、何しろこのブック・パソコンの「売り」は1回の充電で「17時間」連続使用が出来ると云う点で、松山君が日本からシドニーへの移動時間内に、このパソコンだけを使ってデジタル・ペインティングを5点制作し、到着したその足で機内で制作した作品をシドニー現代美術館にて個展開催すると云う、「17時間」のセールス・ポイントをフィーチャーした企画だ。

此処にその完成版を添付するが(→https://www.youtube.com/watch?v=jqgDVx2Uo08)、中々簡潔に面白く仕上がって居るので、是非ご覧頂きたい。

で、もう1つ元気の出る話題…「ゲスの極み乙女。」に続いて僕のオキニに為ったアーティスト、それはOL女子2人組のエレクトロ・ラップ・ユニットの「Charisma.com」(カリスマドットコム)だ!

もう何しろサウンドがカッコ良くて、一寸毒味の有るラップも実に面白い。取り敢えず最新曲の「お局ロック」(→https://www.youtube.com/watch?v=4ZdZJMb2-Lo)と、一寸前だが大好きな「HATE」(→https://www.youtube.com/watch?v=ffH_Mp74xh4)を添付するので、御一聴あれ。

そんなこんなで、最近は目利き古美術商Y氏と業界四方山話をしながら焼鳥を食べたり、奨学金が無事取れて来月からテキサスの大学でPHDを始める、バーネット・ニューマンの研究者Y君と前途を祝ってステーキを食べたり、或いはヤケクソに為って「ロー・カーボ・ダイエット」チャレンジャーには禁じ手のオムライスを食べたりして居たが(涙)、特筆すべきは初めて「フリーダム・タワー」に行った事だろう。

グラウンド・ゼロに建てられた「フリーダム・タワー」はこのビルの旧称で、現在の正式名称は「1WTC」(ワールド・トレード・センター1番地)。当初コンペで勝ったダニエル・リベスキンドが設計をした物の、収益性の問題の為、この地を港湾局からリースしている不動産業者のシルバースタインに拠って別の建築家が参加させられ、リベスキンドとの間に訴訟も起こったと云う、何処かの国の国立競技場の様な黒歴史が有る。

そもそも人が沢山死んだ所には決して行かない僕なのだが、この日珍しくこんな処に向かったは、総高541m・104階建てのこのビルの34階に在る、「Vogue」や「GQ」等を出している世界的出版社が持つ「Conde Naste Gallery」で開催された、展覧会のオープニングの為だった。

この展覧会は、友人のアリソン・ブラッドリーのキュレーションに拠る「Four from Japan: Contemporary Photography」と題されたショウで、現代日本人写真家の4人…即ち蔵真墨、浜田祐史、武田陽介、山谷佑介の作品が、高所恐怖症な僕等はとても窓際に進めない位見晴らしの良いギャラリーに展示される。

「具体」や「もの派」等の戦後日本美術のリヴァイヴァル・ブームの影響なのかも知れないが、「日本近現代写真」は最近NYのみならず世界的にブームと為って居て、多くの講演会やパネル・ディスカッションが美術館等で企画されているし、アート・フェアやオークションで森山大道アラーキー東松照明等の作品がレギュラー・ラインナップと為ったのも、つい最近の事だ。

そしてこの4人の作品は、日常的ポートレイトからコンセプチュアル・フォト迄多岐に渡り、例えば鈴木理策石内都畠山直哉等の次の世代の代表としての、ポテンシャルな力を僕に感じさせて呉れた。

さて此処からが今日の本題…クリスティーズの上半期の業績が発表された。

2015年度1-6月期のクリスティーズの売り上げは、前年比8%アップの29億英ポンド(約5568億円)で、半期売り上げでの新記録を達成。その中でも強い部門は相変わらずで「印象派・近代絵画」「現代美術」「アジア美術」だが、その大きな理由はやはり「如何なる美術品でもオークション最高金額」を記録した、ピカソの「アルジェの女たち」を含んだ今年5月のニューヨークのメインセールズが、「1週間での売り上げ世界最高新記録」を達成した事だろう(拙ダイアリー:「ピカソの『才色兼備な女たち』が作った『世界新記録』」参照)。

またマーケット・シェアもクリスティーズが取り、リーディング・カンパニーとしての地位を守ったが、特筆すべきは全買い手の24%が新しいバイヤーだった事だ。これはアート・マーケットの世界的拡大と、ニューカマーの登場を示して居ると云える。

此処で分野別売り上げの内訳を簡単に記せば、トップは現代美術部門で前年比16%アップの9億2770万英ポンド(約1781億円)。続く印象派・近代絵画部門は7億7160万英ポンド(約1481億5000万円)で、現代英国絵画・アメリカ絵画・ラテン・アメリカ絵画を含めると8億4820万英ポンド(約1628億5000万円)と為り、前年比36%のアップ。

3位のアジア美術は34%アップの2億9830万英ポンド(約572億7000万円)で、これは3月に開催された「エルズワース・セール」(拙ダイアリー:「Asian Art Week, but ”Ellsworth” Week !」参照)の功績が大きい。またオールド・マスター、19世紀ヨーロッパ絵画、そしてロシア絵画部門は前年から32%落ちたが、その反面、ジュエリーやハンドバッグなどの「ラグジュアリー」部門は好調で、2億4720万英ポンド(約474億6000万円)を記録した。

「世界地図」で見ると何しろアメリカが強くて、前年比35%アップの14億英ポンド(約2688億円)で全世界売り上げの半分占める。そして中東全体も強くて14%アップ、ドバイでのセールも17%アップし、他にはイタリア、パリ、アムステルダムでのセールの売り上げが向上している。またアジアも好調で、香港、メインランド・チャイナの顧客が使ったお金も47%のアップと、中国はまだまだイケている感が強い。

オークション以外でもクリスティーズが力を入れて居る、例えば「オンライン・セール」は990万英ポンド(約190億円)を売り上げ、全ての新規顧客の16%がこのオンラインから参加。僕も力を入れている「プライヴェート・セール」は、3億3300万英ポンド(約640億円)を売り上げ、これは半期の新記録だ。

また個人的に興味深い結果が有って、それは10万〜100万英ポンド(約1920万円〜1億9200万円)の作品を買った顧客が前年に比べて14%増えたのだが、その内アジアが20%で最大で、次がアメリカの17%…ミドル・クラス・レンジの作品が良く売れると云う事は、中国がリードするアジアのコレクター層が徐々に成熟し、強く為って行く証と云える。

これ等の結果を見ると、今中国抜きのワールド・アート・マーケットは矢張り考えられない。そして日本は一体「世界地図」の何処に在るのか?…と淋しくなるので有る。