「ル・コルビュジエの家」。

結構寒い日本に再びやって来た。

なので今日は、NH009便の機内で観た一寸風変わりな南米の映画の事を…その映画とは、アルゼンチンのガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン監督2009年度作品、「ル・コルビュジエの家」。

そしてこのシニカルでシュールなブラック・コメディ作品の主役は、コンフォート・チェアで名声を手にした家具デザイナーのレオナルドでも、その「選べない隣人」ビクトルでも無く、ブエノスアイレスのラプラタに実在するル・コルビュジエ設計の住宅、「クルチェット邸」なのだ!

「クルチェット邸」に家族と住む、「プラセンテーロ・チェア」で大成功を収めた家具デザイナーのレオナルドは、或る日隣の家の壁に大きな穴が開けられ、窓が作られているのを発見する。「クルチェット邸」が「外に開かれた」グラス・ハウスで有るにも拘らず、「家の中が覗かれる」と云う理由から、隣人ビクトルに窓を塞ぐ様に要求するが…と云った話。

その隣人ビクトルはと云えば、例えば売れっ子デザイナーのレオナルドに押し付ける自作アートは余りにもダサ過ぎるが、然し窓越しにレオナルドの娘に観せる「指劇場」のセンスは素晴らしい。

その上、レオナルドへの隣人としての親近感、障害者で有る叔父に対する愛情や、その叔父に辛く当たったレオナルドの態度への抗議等は至極尤もで、世間常識的に見ても完全に正しい。また日々女房に気を遣い、その留守中生徒に言い寄って振られるレオナルドに比べて、ビクトルの彼女が若くて美しいのも皮肉。

ビクトルは最後に、レオナルドの家に押し入る暴漢退治迄するのだが、何しろこの「アート系」と「肉体系」の正反対な性格やセンス、其の場凌ぎの言葉や嘘に拠る行き違いに拠って生まれるレオナルドのイライラ感が妙にリアルで、観客はレオナルドの感情に徐々に同化して行く。

そして、いちいち馴れ馴れしいビクトルの態度は本当〜にイライラするし、レオナルドがビクトルに抱く微妙なセンスの無さや粗暴さに対する「上から目線」も成る程理解出来るが、レオナルドがビクトルに対して持つ微妙なコンプレックスも手に取る様に判る…この辺の演出が監督達の手腕なのだろう。

さて、ル・コルビュジエの「クルチェット邸」…ル・コルビュジエは、フランスで活躍したスイス生まれの建築家で、フランク・ロイド・ライトミース・ファン・デル・ローエ(劇中も生徒のが作った椅子の模型の批評をする際に出て来る)と共に、20世紀を代表する世界的なモダニズム建築家。

日本に於ける彼の作品は、唯一国立西洋美術館(1959年:基本設計のみらしい)が在るが、個人的には住宅が好きだ…そしてこの映画の「主演」クルチェット邸は、ル・コルビュジエ1949年作の南北米大陸唯一の建築物なのだが、外科医だったクルチェット氏の遺族に拠って今でも管理されて居る邸宅は、ご当地ラプラタの建築家協会が借り受けて、資料館として開放して居るとの事。

邸内から聳え立つ大きな樹木をコアとし、スロープを多用した「クルチェット邸」、邸内を飾るアルゼンチン現代アート、そしてレオナルドが名声を得たチェアやインテリア等、アート好きには物語の背景からも目が離せない。

その上、デザインやアート・ピープルのスノッブさをシニカルに揶揄して止まない本作のブラックなラスト・シーンには、衝撃を受ける事必至…是非ご覧あれ!