涙で曇った「山口小夜子」と云うアート。

昨日、日本より暖かいニューヨークに戻って来た。

成田のラウンジではニューヨーク在住ディーラーY氏とそのクライアント、機内では世界的現代美術家M氏に会い、僕を含めてチョット恐く濃い客層だったが(笑)、もし僕等の飛行機がテロにでも有ってたら、日本美術界は大変な事に為って居ただろう(為ってません!:笑)。

そして今、その翌朝6時25分ラガーディア空港発のUA国内便の飛行中に、このダイアリーをアップして居る…果たして世の中は、便利且つ鬱陶しく為った。

さて前回「ゲスの極み乙女。」の事を書いたが、今回もJーPOPの話題から…友人から物凄い曲を教えて貰ったのだが、それは「水曜日のカンパネラ」と云うユニットの曲で、タイトルは何と「千利休」(→https://m.youtube.com/watch?v=OfqjIlgSaAg)!(笑)

このバンドユニットの曲には、例えば「空海」や「桃太郎」、「ブルータス」や「ジャンヌ・ダルク」等歴史上の人物がフィーチャーされたタイトルが並ぶが、然しこの「千利休」も物凄い曲なので、是非御一聴頂きたい。

そんな今回の短い日本滞在、先週末土曜日の午後は歌舞伎座へ…「松竹創業120年 中村翫雀改め 四代目中村鴈治郎襲名披露 四月大歌舞伎」で有る。

今月の夜の部の演目は、「梶原平三誉石切 星合寺の場」「成駒屋歌舞伎賑 木挽町芝居前の場 口上 」「心中天網島 河庄」「石橋」で、目玉は勿論「河庄」だったのだが、新鴈治郎は気合が入り過ぎたのか、芝居が余りにも大袈裟で少々残念な出来…。

が、この晩の出色は染五郎で、例えば「河庄」で壱太郎と組んだコミカルな芸、そして「石橋」の白獅子の踊りも大層素晴らしかった。染五郎はここ数年益々良く為って来て居て、これからが本当に楽しみな役者だ。

そうして歌舞伎が終わって席を立ち、出口に向かって歩いて居ると、前から「孫一さん!」との女性の声が。見ると其処には若い女性が老夫婦と立って居て、顔を見ても最初誰だか判らず考えて居たら、その女性が「私Aの娘で、此方は私の祖父母です!」と云うでは無いか。

「あぁ、『ベルナール、フォーマリー・ノウン・アズ・代官山の女王』の娘さんか!」…とプリンス的に驚いたのだが(笑)、誠に世間は本当に狭く悪い事等決して出来ない。ベルナールから後で聞くと、そのお祖父様から「孫娘の婿は、桂屋さんみたいな人が良い!」との言が有ったと云う…流石の慧眼で有る(笑)。そんな事件の有った歌舞伎後は、最近行き始めた新富町の旨い寿司屋「H」で江戸前赤酢寿司を楽しんだ。

天気が良く為った日曜日は、友人と表参道のガレット屋「B」でランチ。何故か手相を観られながら頂いた、フランス人好みNO.1と云うスイス・チーズと掻き混ぜ卵、ベーコンのガレット「モンタニャード」、そしてデザートには久々のマロンちゃん(キャバ嬢では有りません、「マロン・クリーム」です!)のクレープ、「コンカルノワーズ」が余りに旨くて絶句する。

そして月曜日は、朝から晩迄のハード・スケジュールの中、間隙を縫いながら地下鉄とゆりかもめを乗り継ぎ、竹芝のギャラリー916へ…写真家上田義彦氏の展覧会「A Life with Camera」を観る為だった。

さてこの展覧会は、謂わば上田氏のレトロスペクティヴとも云える物で、作品のテーマは自然・人物、或いは広告・非広告作品に拘らず展示される。

広大なギャラリーの高く大きなホワイト・ウォールには、アーティスト本人が決めたサイズ・形状とも異なる額に納められた、大好きな屋久島の森やスコットランドの霧、ウォーホル、メープルソープやマイルス等のアーティストやミュージシャン、北野武蒼井優等の映画人等の世界のスター達のポートレイト、映画や広告のワンシーン等がアトランダムに並ぶ。上田氏本人曰く、この展覧は「集大成」では無く「途中下車」…アーティスト上田義彦の、写真への情熱の歴史とも呼ぶべき展覧会で有った。

その晩は晩で現代美術家S氏のお招きを受け、青山の「At the Corner by Arts and Science」で開催中のヴェネチア・ビエンナーレ出品作家、Dayanita Singhの展覧会「Museum of Chance」へ。

この女性写真家/ブックメーカーの今回の作品は、母国インドに関わる風景や史跡、人物や映画のワンシーンを収録した自身の「写真集」を額装して並べ、購入者にはその画集のタイトルページに作家本人が選んだスタンプや手書き文字を入れ、最後にサインをすると云うアートで、非常に興味深い。その後はS氏&K女史と共に階下へ降り、At the Cornerで同時開催していたヴェニスの画廊主の手作りヴェネチアン・キュイジーヌを楽しむ。

で、此処で話は一気に先週金曜の夜に遡る…夕方先ずは三井記念美術館の「三井文庫開設50周年・三井記念美術館開館10周年 記念特別展 三井の文化と歴史 (前期) 茶の湯の名品」のオープニング・レセプションへ行き、「卯花墻」や「俊寛」、「二徳三島」「上林井戸」等の名碗を堪能。

そしてその後、僕が今アート・コラム「アートの深層」を連載中の女性ファッション誌「Dress」の担当編集者と向かったのは、東京都現代美術館…「山口小夜子 未来を着る人」展のオープニングだった。

この展覧会の事は「アートの深層」に詳しく書いたので、此処には余り記さないが、何しろアジア人初のパリコレ・モデルとして三宅一生高田賢三山本寛斎ディオール等に愛され、モデル業以外にも衣装や人形のデザイン、山海塾勅使川原三郎とのパフォーマンス・コラボレーション、寺山修司等の舞台や朗読劇、勅使河原宏「利休」や鈴木清順ピストルオペラ」等の映画出演、そして最近では山川冬樹宇川直宏等とのアート・コラボ迄した、山口小夜子の生涯活動を網羅した物だ。

そして端的に云えば、この展覧会は何しろクリエイティヴで素晴らしい!

会場に溢れる小夜子が着た衣装、出演した広告、写された写真、彼女を生き写しにした「Sayokoマネキン」と彼女の「声」に包まれて観る、今観ても新鮮で斬新、全く古さを感じさせない小夜子デザインの衣装やドローイングや、森村泰昌の新作(もう小夜子の資生堂広告にソックリ過ぎて、危うく見逃す所だった!:笑)に驚愕する。

が、何よりも僕を驚かせたのは、小夜子のデビュー当時のあどけなく可愛い、眼をパッチリと開けたメイクの写真達だった…「嗚呼、山口小夜子の顔はこんなにもあどけなかったんだ!」。

如何にメイクの進歩や、ジャポニズム・キャラ的「生きる日本人形」イメージとしての小夜子の売り方が有ったとしても、あの当時のあどけない顔が、僕らが今直ぐに思い浮かべるべき山口小夜子の顔に為る迄、一体どんな人生が、苦労が、孤独が彼女と共に有ったのだろう…そう、そしてその「孤独」と『「消費される事」への抵抗』と云う意味でのクリエイティブ活動こそが、「小夜子と云うアート」の本質に違い無い。

美しく個性的で、才能溢れる孤高のアーティスト、山口小夜子

展覧会中に溢れる彼女の姿を観る度に、そしてその孤独を思う程に、僕の眼には涙が溢れ出し、写され展示された無言の山口小夜子は、その涙に因って少しずつ曇って行った。

「孤独」と「抵抗」こそが、真のアートを産むのだ。