天才芸術家と語った夜@Dommune。

着いた日は30度以上…思ったよりも暖かいニューヨークに、漸く戻って来た。

僕の住むこの街は14回目の「9.11」を迎えたが、犠牲者の名前を読み上げる毎年恒例の朝の式典をTVで見ながら、僕はこのセレモニーを第1回目からNYで観て居る事、「9.11」のあの日あの時、後1時間でJFK空港に着く機内に自分が居た事(拙ダイアリー:「私にとっての『9.11』」前後編参照)、序でに日本政府が福島を放置し、そもそも「復興の為」と嘘を吐いて始めた「ダメリンピック」に愕然とし、改めて戦慄を覚えるのだった。

そんな今月のニューヨークのアート界は「Asian Art Week」で持ち切りで、オークションハウスの下見会も一昨日から始まったが、何処と無く静か…翳りの見える中国経済と本土の富裕層が、中国美術を何処まで買い支える事が出来るかが重要なポイントと為るに相違無い。

さて帰りのANA1010便では、食事後のデザートとして出た「マロン入りケーキ」にホッコリしながら、先ずはグザヴィエ・ドラン監督のカナダ映画「Mommy」を観る。

本作は昨年の第67回カンヌ映画祭パルム・ドール候補、最終的には審査員特別賞に輝いた作品で、ADHD(多動性障害)を持つ息子とその母親の物語…が、フランス語で進むこの物語が非常にリアルで身につまされるのは、近未来SF的に本作制作年度の翌年(今年)にカナダで新政権が誕生し、新内閣が制定したとされる「S-14法案」をベースに書かれているからだ。

この「S-14法案」とは、発達障害児を持つ親が経済的・身体的・精神的困窮状態に陥った場合、法的手続きを経ずしてその子の養育義務を放棄出来、施設に入院させる権利を保証すると云う法律で、極めてリアルな物。

…そう云ったストーリーの中、何しろ母親、息子、そして前の家に住む吃音に為って仕舞った元教師の女性の3人の俳優の演技が秀逸で、その中でも母親役のアンヌ・ドルヴァルの演技が素晴らし過ぎる程素晴らしいので、全編を通じて涙無くしては観れない作品と為って居るが、其れにも況して素晴らしいのがリアリティ溢れる良く出来た脚本で、最後の最後迄貫かれる一寸したユーモアと明るさが有る処が大変宜しい。

そのANAがまたまたやってくれた…それは唐沢寿明江口洋介主演のドラマ「白い巨塔」がビデオ・プログラムに入った件で、このドラマは言わずもがなの田宮二郎主演作のリメイクだが、非常に良く出来て居て、当時も毎週欠かさず観た物だ。「財前教授の総回診です」…未だ最終話迄は入って居ない様だが、これから飛ぶ度に少しずつ観る楽しみが増えた。

では本題。聞く所に拠ると、東京では震度5の地震(僕が日本から居なくなると「重し」が取れる為か、必ず地震が起きる:笑)が起き、日本全国には巨大台風の被害が起きて、8日の夜に達っつぁん(現代美術家西野達氏)をインタビューしたネット配信局「Dommune」も地下に在る為にかなり浸水し、機材が傷んで仕舞って、次の回の放送が出来なく為って仕舞ったとの事…宇川直宏氏始め、皆さんさぞ大変だったろうと思うが、大事が無い事を心より祈念する。

そして今日のダイアリーは、その8日の夜に遡る…僕が達っつぁんをインタビューしたのは、そのマルチ・アーティスト宇川直宏氏の作品「Dommune University of Arts 『The Hundred Japanese Contemporary Artists / session 3』」の第26回、「西野達」の回の為で有った。

宇川氏のこの企画は、現代日本を代表するアーティスト100人を選び、その作家の個人史やアート・コンセプトをライヴ配信して、その翌日からホワイト・キューブ展示スペース(山本現代)に於いて作家作品と共にアーカイヴ上映すると云う、謂わば「ライヴ・パフォーマンス」と「アーカイヴ・アート」の双方を実現するモノ。

と云う事で、その1/100に選ばれた偉大なる達っつぁんのインタビュアーにご指名頂いた僕は、主役の達っつぁんを如何に目立たせるか、そしてこの場を「対談の場」と云うよりも、如何に「パフォーマンス・アートの場」にするかをずっと考えて居たのだが、「パフォーミング・アートの場」に関して達っつぁんも果たして同じ想いだった事に感動する…何故なら本番数日前に、達っつぁんから「カツラ〜、『パンチラ娘』を登場させたいんだけど、どうかな?」との相談が来たからで有る!

そして山本裕子女史から「変な事云ったら、ダメ、ゼッタイ!」と釘を刺されて居ても、お互いが「50代のオトナ」で有る事、そもそも「暴力・笑い・セクシー」が達っつぁんのアート・コンセプトの3大要素で有る事から、何と無く往年のTV番組「11PM」みたく出来ないか?…等と思って居た。

結果、当日達っつぁんは「白い恋人」Tシャツにジーンズ、僕はダーク・スーツ&ダーク・タイに黒縁眼鏡と云う司会者然とした、コントラストを際立たせた出で立ちで登場し、宇川さんにご挨拶をすると愈々生放送開始!

先ずは達っつぁんのアーティスト・ヒストリーから始め、イメージを使って過去の作品の紹介等を始める…が、相変わらず酒が廻る前の達っつぁんは固い(笑)。が、徐々に酒も入って会話も熟れて来た或る時、1人の青年が急に乱入してジーンズを脱ぎ捨て、「グンゼ」の白ブリーフ一丁の姿に為ると、達っつぁんと僕の間で逆立ちを始める。

彼は芸大先端芸術科の学生君で、達っつぁんの写真作品「無題」(女の子がバスの中で吊革に足を掛けて逆さ吊りに為り、白パンツ丸見えで雑誌を読んでいる)を、ハプニング的にライヴで再現する企みとしての登場なのだが、僕等はそれを一切無視して話を続けるのがミソ。

先端芸術科君が一通りパフォーマンスを終えて退場すると、達っつぁんの作品制作メイキング・ヴィデオ(TOLOTで展示中)や、「マーライオン・ホテル」が問題と為り、黒柳徹子さんが答えを見事外した(笑)「世界不思議発見」の映像等を流す。

そして暫くすると今度は赤いドレスを着た可愛い女の子が登場して、悩ましげにソファで逆さまに為り綺麗な足を高く掲げると、今度は黒レースのセクシーな下着を皆に見せ付ける。

実はこの子も芸大の学生さんで、ポールダンスでも習ってる子かと思いきや、何と「声楽科」在籍の子…なので、折角なので一曲「アリア」を歌って貰う事に。が、横たわり、美しきお御足を掲げながら歌う彼女の肢体と声の余りのセクシーさに、僕等は彼女を無視する事すら忘れ、チラ見を抑えるのにも必死だったがそれも適わず…ホント、オヤジってやーね(笑)。

その後も達っつぁんの「『串刺しアート』の真実」や、「達っつぁんは『ぶっ壊し具合』は利休級、『名前の多さ』は北斎級」、或いは「佐野研」や日本のアート行政の不味さ等に就いての対話は続き、サプライズ企画として「絵が得意だ」と云う達っつぁんにスケッチブックと鉛筆を渡し、「僕を」描いて貰ったり。

遂には不意の「一発」発言も飛び出したが(笑)、最後にはパフォーマーの若い2人が再乱入し、メチャメチャに為ったと見せ掛けて、実は考え尽くされた達っつぁんの「ライヴ・パフォーマンス」は、何時もは4000位らしい視聴数もこの晩は何と6000を超え、21世紀版「独占おとなの時間」として大好評の内に終了(笑)。

その後は皆で恵比寿横丁に繰り出して、大盛り上がりの打ち上げ…こんな僕を聞き手に指名してくれた、天才芸術家達っつぁんに大感謝の「Dommune」での一夜でした!


ーお知らせー
*Gift社刊雑誌「Dress」にて「アートの深層」連載中。9/1発売の10月号は「平和」と云う「こわれもの」に就て。